第12話 モンスターハウスでフルスイング
:うわあああああ
:モンスターハウスだ
:めちゃくちゃいるううう!
:気持ち悪
:えええ、百匹くらいいるんじゃね?
:一般人なら勝ち目ないな
:ダンジョン探索で強化してるとはいえ、女の子じゃ無理だろ
:二人じゃちょっとな
:撤退しましょう
ダンジョン配信に慣れている視聴者でさえ、モンスターの大群には驚愕を隠せない。嫌悪と不安がたちまち広がっている。
「ねえレムちゃん。なんか遠くで共食いしてるモンスターいるけど、あれカニさんだよね?」
「アレハ、メガシザースデスネ。何デモ食べマス。姫サマト一緒」
「悪食だよね……ってあたし一緒にされてる!?」
見れば人間より遥かに巨大な蟹が、近くにいるクモのモンスターを捕まえて食べていた。その巨大な体躯は象並みに大きく、全体的にとげとげしい姿をしている。
「よーし。とりあえず行きまーす」
「ゴ武運ヲ」
モンスターだらけの空間に臆する様子もなく、琴葉は軽い足取りで進む。彼女の存在に気がついたモンスター数匹が、あっという間に取り囲んで襲いかかった。
:うわ!?
:マジかよ
:警戒心ゼロw
:やめとけって
:流石にキツイんじゃないの
:こわいこわいこわいこわい
:グロ展開だけは勘弁
:スケルトンと犬のコンボ
まず襲いかかってきたのは、ドーベルマンを大きくしたような犬系モンスター、フレイムドッグ三匹だ。口からファイアボールを吐き出し、攻撃や牽制に用いて冒険者を苦しめる。
「ボウア!」
口から次々と吐き出される火の玉。琴葉はそれらを最小限の動きでかわしていく。すると避けた先を読んでいたかのようにフレイムドッグは駆けてくるのだが、彼女は闘牛士のようにひらひらと回避した。
さらには周囲を囲んでいたスケルトン五体が、手にした剣を振り回して向かってきた。剣の軌道を読んでいたように、少女は隙間隙間を縫ってかわしていった。
:すげー全部かわしてる?
:回避芸
:優雅な動きやなー
:こんなことベテランでも無理じゃないか?
:でも怖いよー
:反撃は無理っぽい?
「この間に入っていくの好きかも!」
:え?
:は?
:なんか余裕ある
:全然怯んでないのかww
:遊園地のアトラクション感覚なの?
:姫、度胸あるな
:俺なら漏らしてる、いや漏れた
チャット欄にお漏らしニキまで登場する始末であったが、琴葉はひたすらかわしつづけ、モンスターハウスの中心まで進んでいった。
撮影しているレムスの所にも襲いかかるスライムやゴブリン、さらには巨大バッタまでいたが、何事もなく殴り倒されていく。機械の鉄拳には無力であった。
「あ! いい子がいましむぐ」
なにかを見つけた琴葉の瞳が星のように光った。この危険な状況の中、まだお菓子を口にしているようだ。その呑気さに呆気に取られつつも、彼女が捕まえた敵にまたしても戸惑いが広がっていく。
それは全身を硬い鎧に包み、斧と大楯を持つミノタウロスの強化種であった。なぜか一般的には盾まじんと名づけられている。
「盾まじんがいましたよ。えい!」
「グギャア!?」
しかし、防御力抜群のはずの兜は一撃で破壊され、ミノタウロス強化種は絶命した。その間にも彼女を捕まえようとするハイゴブリンのメス、スケルトン、フレイムドッグ、大カラス達の動きは活性化していくが、まるですり抜けるように回避されるばかり。
「もぐもぐ」
:この子、またお菓子食ってる
:姫、太りますぞ
:いやいやいや! そんな状況じゃないって
:なんで全部避けれるんだww
:え? 盾まじんの足を掴んでる
:ま、まさかこの体勢は
:嘘でしょ?
:え
「はい! これでやっつけます」
琴葉は倒した盾まじんの両足をキャッチして、そのまま回転。ジャイアントスイングをしながらダンジョン内をハイスピードで蹂躙する。
「ギャアアアアアアア!」
「ワオオオオン!?」
「カア!? カアアアアアアア!」
襲いかかっていたスケルトンやフレイムドッグ、大カラス達はあっという間に数百キロに及ぶ盾まじんをブチ当てられ、次々と吹き飛ばされてしまう。
続いて歩く巨大ラフレシアや大蜘蛛、グリズリーの群れを倒しきったところで盾まじんを投げ飛ばした。すると遠く上空で様子見をしていた大コウモリの群れに直撃。あっという間に数匹が一度に落下した。
たった一人の人間に場を支配された挙句荒らされまくり、モンスター達は混乱状態に陥る。
その元凶となった少女は、錯乱したフレイムドッグに近づいて首ねっこを掴んでいた。
:うわああああああ
:どうなってんだよこれええ
:数百キロを超える盾まじんをジャイアントスイング、さらにはぶん投げ
:どんな怪力してるんだ
:ゴーレムも強いけど、ヒメノンがヤバすぎる
:一人でここまでやれるって化け物すぎると思う
:ドラゴンワンパンの説得力マシマシだわ
:え? これ一人で壊滅できんじゃね?
:今度はフレイムドッグ掴んだな
:モンスター「やめてえええ」
:今度は何する気だ?
:モンスターより姫のほうが怖くなってきた
:ええええ
「フレイムドッグはこのあたりを押すと、出るんです」
何が? とチャット欄で質問される前に、フレイムドッグはファイアボールを吐き出していた。四方八方にファイアボールをはき散らし、三十匹ほどのモンスター達が焼かれてしまった。
気がつけば半分以上が倒され、残された残党は必死の形相で逃げ出し始めた。
:モンスター逃げたww
:逃亡w
:逃げるの初めて見たんだけど
:私も探索してるけど、こんなん初めて見たわ
:暴君ならぬ暴姫
:ゲームでもこんな無双見たことないんですが
:残すは蟹
:蟹は流石に厳しいか!?
:いけー
盛り上がってきたチャット欄とは裏腹に、メガシザースは我関せずと言わんばかりに、近くにいたモンスターを捕まえては食べている。
:蟹がキモすぎる
:毎回思うけど、なんで共食いすんだろーか
:今がチャンス!
:姫、今ですぞ
:ここでやっつけるのがセオリーですよね
:あれ? どうした?
だが、琴葉は特に急ぐでもなく、蟹がパニック状態のモンスターを食べるところを見ていた。ゴブリンやオークを捕まえてはバリバリと噛み砕いている。
「あ、そろそろですね。アレが始まります」
視聴者が違和感を覚え始めた頃、メガシザースの体に変化が訪れた。
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