第5話 青年とマスターの会話

赤茶色をベースにした落ち着きのあるカフェバー。

今日も店内は人待ちの客で賑やかである。

オレンジのライトは待ち人の気持ちを明るくする。

そのカフェバーのカウンター席。端に青年が座っていた。


「待ってた甲斐がりましたね」

「そうだね。ようやく会えた」

「久しぶりに会えてどうでしたか?」


マスターは青年に優しく尋ねる。

青年はその問いに少しだけ考えるそぶりをした。

そして差し出されたコーヒーを一口飲む。


「そうだね…。辛そうな顔はして欲しくなかったけど、でも会えて良かったよ。あちらに渡ったらもう会えないかもしれないし」

「でも、彼女は会いたいと、傍に居たいといっていましたよ」


マスターの言葉には答えず、青年は彼女を思い出すように目を瞑ると、再びコーヒーを口に含んだ。

穏やかな笑顔だった。

だが、不意に少しだけむくれた顔をして言った。


「でもさ。弟って言われたのは嬉しかったけど、僕の方がもうずっと年上になってたんだけどね」


青年の時の流れは人間のそれより早い。

人間の一年は彼にとって五年にもなる。


「まぁ今度はもう少し一緒に居れるでしょうから。彼女がこちらに来た時には迎えてあげるといいでしょう」

「そうだね。そうしたらヤクライ山に行こうかな。あそこはこれからの時期、綺麗だから」


青年の脳裏にあの景色が蘇る。

青空の下、彼女の声が聞こえて懸命に翔けた事。彼女の優しい声。

そして抱き留めてくれた手のぬくもり。

そんな記憶を温めつつ、青年は徐に立ち上がった。


「じゃあ、僕も行くね」

「はい、お元気で」


青年は颯爽とモデルのように歩き、ドアから出て行った。

少し長めの髪が風に靡いている姿が店内から見えた。


「さて、次はどのような方がいらっしゃるのか」


マスターは青年のコーヒーカップを下げながらそう言った。

そしてほどなくして入れ違うようにドアが開いた。

ドアベルがカランカランと鳴る。


「いらっしゃいませ。何がよろしいですか?コーヒーでもお酒でも、貴方の望むものをご提供できますよ」


マスターはそう言って次の客を迎える。

今日も店内は人を待つ客で賑わっていた。

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あなたの望むものをご提供いたします~そのカフェバーには待ち人が集う~ イトカワジンカイ @itokawazinkai

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