第3話

 日が経つに連れ、事実だと認識出来なかったメルタの死をようやく感覚から理解していった。

 置いて行かれていた心からの自認は二週後。カウンセリングが順調に進んで感情的に訴える事があったミツキも普段の落ち着きを取り戻していた。

 しばらく目が合っても口を開かなかった彼らはそれからようやくお互いの事について話す事ができるようになった。

 ミツキ、エレン、サーカ、アテナの四人は机を並べる。昼食を取っていた。

「アテナ。その……」

「どうしたの? ミツキちゃん」

「そのっ……」

「ミツキ……」

 どうしても聞きたかった事がある。だが、喉を詰まって言葉として口を出すことが出来ない。

「その……、アテナの事を……、あの時から先生を殺したって。違うの! そうじゃなくて……。ああ! もう」

「いいよ。ミツキちゃん。私もいつかそう言われるんじゃないかって思っていたから。というより、目の前で先生が敵に刺されてからずっと私のせいでって――」

「それは違うわ。アテナちゃん」

「二人とも落ち着いて。まだ整理が着く時では無いわ。アテナちゃんもまだ。アテナちゃんの中でも、この出来事にちゃんと結論を漬けていないのだから。私もだけど……」

「ごめん。ちょっと、熱くなった」

「いいの。でも、こうしていかないと。私達は前にも進めないのかもしれないよ。多分」

「……」エレンはじっとする。

 二週ぶりに話したというのは、お互いにメルタの死へ軋轢があるからだ。そして、これは誰にも防げた事でも無い。だから、メルタへのさよならをつけるにはまだ時間が掛かるのだ。

 死者への弔いはまだ先の事に思えた。

 四人は昼食を終えて次の授業へ向かった。

 廊下を歩いてすれ違う生徒にあの研究会で顔を合わせる生徒はほとんどいない。

 アテナ達のように体育会以降。能力を引き出す鉱石を身につけ続けている生徒は極端に減った。

 それはある意味で他人への救いたいという奉仕精神が強い生徒に限る気がした。そして、時に思った。

 自分達は武器のように扱われて搾取されていると。この事は横須賀で起こった二件の出来事から国連から密かに探りを入れられていると噂がある。

 アメリカ軍も関わった事だから、隠蔽する事は出来なく。参考人として日本とアメリカが関わり、アテナ達の人権保障について議論を行った結果。現在でも力の保持を続けていられている。

 一度あった事は二度起こるという。三度目の正直と言うにも既に隠し切れないほど、この戦いはこれからも続くと見ていた。

 どのくらいの規模になるのかも分からない。

 気持ちがやっと追いついて来た今は、休戦期と言ったところだろうか。

 アテナは誰もいなくなった教室で一人。机の引き出しから教材とノートを鞄に詰めた。鞄を背負う。肩掛け鞄を持って部屋を出た。

 放課後にカウンセリングの予約を取っていた。お昼終わりに見てみればアテナの後に入れていた生徒も誰もいなかった。

 後々にカウンセリングもある可能性がある。しかし、アテナが最後に初回カウンセリングを受ける生徒になるのだろう。

 だが、これに近い経験は以前にもしていきた。

(多分、大丈夫)と思いアテナは別校舎の三階から外れた部屋の前に来た。

 アテナは三度部屋の扉をノックする。

「はい~!」

「あっ! 二年い組のアテナ・ヴァルツコップです」

「どうぞ~」

「失礼します」

 扉を横に引く。続く道は細い。真っ直ぐ行けば良いと半信半疑で歩き出す。

 狭く暗い室内が続いた。待っていたのは明るく広さのある部屋。奥の椅子に座るのは教職員よりもカジュアルな服を着た大人。直毛の腰あたりまで長い髪を頭の高い位置で縛っていた。彼女は振り返りアテナを目にした。

「アテナ・ヴァルツコップさんですね。どうぞ、お座りください」

「失礼します」

 この手のカウンセリングを受けるのは生きていて何回もあった。最初の頃は戸惑っていたが、回を重ねていって以前受けた相手とは少しは腹を割って話し合える関係にはなった。

「本日はご存じの通り、医師の先生方からの勧めでカウンセリングを実施させていただきます。最近、食事は食べていますか?」

「はい。いつも通りです」

「そうですか。睡眠はちゃんと取っていますか?」

「はい。大丈夫です」

 何度もカウンセリングを受ければ分かるよくある質問。これは基本的な聞くべき質問をされている。

 川へ行って泣いたが、感情がその時だけ表に出た。それ以外はいつもと変わらなく生活をしている。

 一度大きな障壁を超えればこんなものか。内側では意外に壁には感じているが、外目からすればそんな事でも無かったかもしれない。多分、そうだろう。全体的に見てしまえば。

 食事、睡眠、好きな事、集中、薬・・・・・・。ずっと繰り返す光景。戦い。亡くなった友人。

「自分はいらないと思った。でも、私が生きないと私の友達も先生もどこか何か許してもらえない気がした」

「なぜ?」

「まだ死ぬのが早いから・・・・・・」

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