第5話 ケンタウロスの警備員
提出するためのレポートを書き終えたログは深い眠りへと誘われる。
オレゴンのことや鉱石の研究などを夢の中で思い返しているとパカラパカラと馬が行進するような音が遠くの方から聞こえてくる。しかも1頭だけでなく100頭も居る音に目が覚めたログは窓の外を見ると野生の馬…ではなく上半身が人間で下半身が馬の体を持っており、人間に協力的な魔族として呼ばれる人馬、所謂“ケンタウロス”である。
「こんな時間にあれだけの大荷物とこの人数は凄いな…」
積荷として行進しているのは男性のケンタウロスだけではなく女性も少なからず居るが9割以上が男で構成されている。オレゴンの研究成果をドワーフ王国の王様に伝えるためなのか警備員として配属されているのか憶測が脳内を飛び交う中、ギロッとこちらに気づいた視線を送られる。
「どうした?」
「僕から見て北西の3階建て宿屋から人間が見ていたような…」
「気のせいだろ?ケンタウロスがここに来るだなんて珍しいことだ」
「…」
プイッとしかめっ面をしながら移動を再開するケンタウロス。
顔は馬耳が生えており、長髪の黒髪で上半身の体は貴族の格好と下半身の腹にはエルグランドのマークが描かれた礼装を装備。さらには尻尾の根元にはリボンが結ばれていて見るからに性格が難しそうな感じであった。
朝日と共に鳴り響く号砲花火で目が覚める。
宿屋を出ると目にした光景はパレードを見物している人で賑わいを見せていた。
その中でも貴族の立ち振る舞いをしているのは昨夜目が合ったケンタウロスーー
先頭はステッキを自由に振り回して乱れぬ整列行動で見物している客に向けて凛々しい顔を見せる。後方になると金管楽器を携えた吹奏楽がパレードを彩り、手拍子がリズムよく流れてくるようでログも聞いているうちに楽しいと思えたが、そんなことよりオレゴンがドワーフ王国の王様に鉱石研究会を開くと言っていたので向かうもエルグランドの王都を渡り歩くのは何度かあった。それは学園に向かう1本道だけで、路地裏を通るうちに道に迷い込んでしまう。
「思っていた以上に広いな…場所はわかっているんだけど」
さらに勘を頼りに進んでいくと何処を通って現在居る所も分からず途方に暮れていると不思議な看板と銀色のベルが吊るされている。こんなもの今まであっただろうかと不振に思い試しに鐘を鳴らしてみても何も起こらない…
「誰かのいたずらかな?」
路地裏を進んでいるとドタバタと何者かがログの方に寄って来る。嫌な予感がすると思い全力疾走で振り切ろうとするも追跡者はスピードのギアを上げて追従し、目視で確認すると呼び止めようとする声を聞く。好青年で若い感じの声で人なのかなと思い振り返ると、青い帽子を被ったケンタウロスがこちらに歩み寄る。
「君、迷子の鐘を鳴らしたのに逃げるなど正気か?」
「迷子の鐘?あの銀色のヤツですか」
「祭の開催中は我ら“青銅蹄鉄”が駆け付けるのに…まさかとは思うが我らのことを知らないなら教えてやるから有難く思え」
上から見下ろされる視線で青銅蹄鉄について教え込まれるログ。
彼らはケンタウロスが生きやすくするために結社した団体で、仕事については運搬や護衛を任されるが1番は警備員としての仕事。人よりも迅速な対応で処理能力に長けていることから催事の日には青銅蹄鉄が駆り出されるのであった。
「それで、お前はどうして路地裏をうろついている?」
「オレゴンの発表会を見に来たけど場所がわからなくて…」
「なるほど、用はそれだけなら送ることも出来ないが。一度本部へと連れ帰る必要があるな」
ログを片手で摘まんで背中に乗せると足を巧みに使い反対方向へと進んでいく
しかし、発表会があるのはこの先だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます