第11話


ぼくらはまただいたいの方角に向かって歩き出した。

さすがの雪丸ももうダッシュしようとは思わないらしい。それでも、朱雀のおかげで歩けないほどのクタクタではない。朱雀はまだまだパワーが残ってるんだなぁ...。

だんだん山道になってきたので、どうやらこちらの方角で合っているみたいだ。

山と言っても丘くらいのゆるやかな坂道だ。たくさんの木が茂っていて、だいぶ薄暗い。道の両脇の木の下の方には笹やシダなどが生い茂っている。足元の雑草は踏みつけられているから、どうやらこの道を使っている人がいるようだ。

それにしてもだいぶ歩いたような気がするけど、まだつかないのかな…。

だいぶ歩いたような気がするのは、八幡神社から、ずっと歩きっぱなしだからで、本当はそんなに歩いていないのかもしれない。もうどのくらいの時間歩いているのか感覚は無くなってきた。

ようやく鳥居が見えてきた。白虎の神社の苔が生えた鳥居とは、ものすごく違っていてびっくりした。あざやかな赤に塗られている大きな鳥居だ。

青龍の八幡神社くらい広い境内で、しかも神社の建物はきれいに手入れされている。

「ここは立派だなぁ」ケンタが感心していると、大きなリクガメが歩いてきた。

「あのリクガメ…あれ?リクガメじゃないな…ヘビがまきついてる?」

ヘビが巻きついたカメはこちらにゆっくり近づいてきた。

「少年、おまえが青龍を天に戻したのか?」かなり年寄りなんだろうか。声はしゃがれているがとても威厳があって重々しい。

「あなたが玄武さん?ぼくが青龍を天にもどしたってどうして知ってるんですか?朱雀に聞いたの?」

「私が玄武だ。朱雀に聞かずとも私にはわかるのだ」カメとヘビが同時に同じことを言った。ヘビの声はカメよりずっと若々しい声だった。

「え、どっちが玄武さんなの?」

「われわれは二つで一つ。どちらも玄武だ」二つの声は全く同時に聞こえてきた。

え~、ややこしい…

「えっと、じゃあ玄武さん」僕は、カメとヘビの巻きついて一体になってるあたりに目をやりながら聞いた。

「青龍の宝玉がどこにあるかわかりますか?ぼく、青龍の宝玉を八幡神社の祠に戻すように朱雀にたのまれちゃったんです」

「うむ。宝玉はおそらく、青龍が祠にのこしていったのだろう。私には宝玉の気配が感じられる。だが、朱雀も白虎も宝玉の気配を感じなかったとなると、宝玉だけでは力が弱いということだな」カメの玄武が言った。ヘビの玄武は驚いたような顔をしているので、多分宝玉の気配を感じていなかったんだろう。

「宝玉だけでは、東を守れないってことですか?」

「うむ。残念ながらそういうことになる」

「じゃあどうしたらいいですか?」

その時、ヘビの玄武が言い始めた。

「私が八幡神社に行くというのはどうだろう?」

カメの玄武はおどろいたように

「何を言う。お前ひとりでは何もできんだろう。われわれは二つで一つ。別れてしまっては力が弱まってしまう」

ヘビの玄武は「いえ、あなたは強大な力を持っている。私がいなくても十分北を守れます。私はまだ未熟者ではありますが、青龍の宝玉を持てば私も東を守ることができるのではないかと思う」と言った。

カメの玄武はウームと考え込んで、かなり長い間動くことも言葉を発することもなかったので、もしかして石像になったんじゃないかと思った。

5分くらい固まっていたカメの玄武が

「お前もそろそろ独り立ちしてもいいのかもしれない。では、八幡神社に行って、青龍のかわりに東をまもりなさい」と言った。

するとヘビの玄武は、ウキウキしたように、カメの玄武の身体に巻き付けていたしっぽをほどいた。

「そうすると、ヘビの玄武さんの名前はどうなるんですか?」とぼくがきくと、ヘビの玄武はもうすでに名前を考えていたらしく、即座に

「私は玄の一文字を残して、玄龍と名乗りたいと思う」と言った。

「では、早速八幡神社にむかうが、お前たち、私の背に乗っていくか?」

ありがたい申し出に「お願いします!」とぼくらは声をそろえていった。玄龍はむくむくと身体を大きくして青龍とそっくりな龍、ただし、ウロコは真っ黒に輝く黒龍に変身した。

ぼくらは、玄龍の背中に乗って空に飛び立った。
















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