第10話
それにしても西とか北とか言ったって、ばく然としすぎてない?
朱雀の飛んで行った方向に何か神社があったかな?
朱雀は南を守るって言ってたから、南の方にもし神社があるなら、そこが朱雀の神社ってことだろうな…
ぼくは必死に考えた。そういえば、ちっちゃいころ家族で遊びに行った蓬莱池公園。あのそばには蓬莱神社ってあったよな…
八幡神社が青龍の神社、つまり東だから、八幡神社を背に左手を斜め前に出して蓬莱池公園の方角をさした時、正面が西の白虎の神社か…
なにか神社はあったかな?
そちらには山も川も何もなくて大きな道路があるだけだったよな…
その時、友達が言ってた話を思い出した。大きな道路の向こうに運動公園があって、アスレチックが楽しかったって。もしかしてその近くに神社があるんじゃない?
なんか、神社と公園ってセットになってること多いよね?
「よし、とにかく、アスレチックの公園を目指そう。確か、夕日が丘運動公園って名前だったよな…方角は、あっち」
ぼくが何となく指さした方向に向かってさっそく雪丸はダッシュしていった。
夕日が丘運動公園までは坂もないまっすぐな道だったけど、結構遠くて1時間くらい歩いた。朱雀にパワーをもらってなかったらみんなへばってただろうな…
それでも足の遅いヒメとムゲンは自分の足で歩いてたらおいてかれてしまうので、ムゲンは雪丸の背中に、ヒメはぼくのリュックの上に乗っていった。
アスレチック公園は子供たちとそのお父さんやお母さんでにぎわっていた。公園はだだっ広くて見晴らしがよく、遊具があちこちにあるけど、神社らしいものはなかった。もしかしたら公園のまわりの道を歩いていたら見つかるかも、と思ってぼくらは、公園のフェンスに沿って周りを歩いてみた。
小さなさびれた神社を見つけたけど、まさかこんな小さな神社に白虎がいるはずないよね?鳥居は灰色がかった茶色にくすんでいて、苔が生えている。
一応念のため、境内に入ってみる。すると、奇妙な四つ足の動物の石像が置いてあった。これにも苔がはえているのでかなり古いものだろう。耳をぴんと立て、目をぎょろりとさせながら、口を開けてギザギザの歯をのぞかせている。雪丸がその像を見て、
「こいつは犬かなぁ?」
と言うと、しゃがれてもごもごとした低い声が
「犬ではない。白虎だ」と返ってきた。
きょろきょろあたりを見回すと、うしろの祠の上に白いものがうずくまって、どうやらウトウトしているようだ。
「まさか、この白いのが白虎?」
「しーっ、ヒメさん、白いのなんて失礼ですよ。白いお方って言わないと…」ヒメとムゲンがこそこそしゃべっている。
「あなたが白虎さん?青龍とか朱雀と仲間の?」ぼくは聞いてみた。
「ふぁ~、私を起こすやつがいるとはめずらしい。最近ではここに来る人間などだれもいなかったのだが…」まだ目が半分閉じたままのようすで
「私も青龍や朱雀と同じ神だ。西をまもっている」
「じゃあ、青龍が天に帰ったことは知ってます?」
「青龍の気配が消えたと思ったが、そういうことか…しかし情けない。私ですらこうしてウトウトしながらも西を守っているというのに…」
「え、白虎さんも力が弱まって、ウトウトしているんですか?」
「そうだ。この神社を見ればわかるだろう?すっかりさびれてしまって、だれも参りに来ない。これでは私も力がでない。だから、眠りながらいざというときのために体力を温存しているのだ」
そうだったのか…なんだかかわいそうだから、力になりたいけど、ぼく一人では何の力にもなれないな…
「ぼくたちは朱雀にたのまれて、青龍の宝玉をさがしてるんだけど、白虎さん、どこにあるか知りませんか?」
「青龍の宝玉?天に帰るとき持っていなかったのか?私が知るわけがないだろう。朱雀か玄武に聞いてくれ」
「朱雀に頼まれたんだから、朱雀は知らないでしょ。じゃあ、玄武のところに行くしかないか…」
「頑張って行ってこい。よろしくたのむぞ」
「え~、冷たい…せめて玄武のところに行く道をおしえてよ」
「ここまではどうやってきたんだ?」
「青龍を天に戻して、八幡神社からの帰り道に朱雀に止められて…そこから、だいたいの方角を予想してここまで来ました」
「なかなかやるじゃないか。では、玄武の神社も方角がわかれば行けるだろう。この祠の前に立って、青龍の神社の方角をむけ。左手を斜めに出したら、そちらの方角に行けばよい。船岡山という山の上に玄武の神社、加茂神社がある」
「玄武のところに行けば本当にわかるのかなぁ…」
「うむ、あいつは我々の中でも一番力を持っているからな。なにせ、あいつは二つで一つだから…」
「二つで一つってどういうこと?」
そう聞いたときにはもう白虎は消えてしまっていた。どうやら祠の中に入って本格的に寝てしまったらしい。本当に邪鬼がきたとき、戦ってくれるのかな?
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