第9話

ぼくらはだまって、しばらく空を見上げていた。

「アイツ、すごいやつだったんだな…」

雪丸がちょっとくやしそうに言った。雪丸はどんな時も、やられっぱなしは大嫌いなのだ。

「さあ、帰ろうか。お宝は見つからなかったね」

ぼくらはいろんなことを考えながら歩いていたので、みんなとても静かだった。

公園のそばまで帰ってきた時、後ろからバサバサという重たい羽ばたきの音が聞こえてきた。ふりかえってみると、見たこともないような大きくて真っ赤な鳥がすごい速さで飛んできている。つばさからはめらめらと炎が上がっているようだ。あたりがものすごく熱くなってきた。なんだか逃げたほうがよさそうだ。

ぼくらがかけ出そうとするよりはやく、真っ赤な鳥は頭の上を通りすぎて、目の前の地面に降りてきた。

「おまえたち、青龍を天に戻したな」

「えっと…あなたは何?」

「失礼なやつだな。お名前はなんですか、とかもっとていねいな言い方があるだろう」

「あ、ごめんなさい。あなたのお名前は何ですか。青龍のともだち?」

「やれやれ、神に対する口のききかたがなってない!ともだちですか?だ。青龍さま、だろう。われわれは神なんだぞ。」真っ赤な鳥は青龍が龍になったときくらい大きくて、まぶしいくらい輝いていたので、ぼくは目を細めないといけなかった。

「それにともだち、というのもおかしないい方だ。私は朱雀。青龍は東を、私は南を守る神である」

「神さまがぼくらに何の用ですか?朱雀さまも天に帰りたいの?」

「いやそうではない。青龍、あいつは水晶の玉を持っていなかったか?いつも宝玉を持ち歩いているはずなのだが…」

「え、何も持っていなかったと思いますけど…」

「青龍め…あいつは本当はこの国の東方をまもらなくてはいけないのに、その仕事をほうっておいて天に帰ってしまった。このままでは東方の穴から邪鬼が入ってくるかもしれない。」

「え~、どうしたらいいんですか?朱雀さん、代わりに東もまもってください!」

「ん?いつの間にかさん付けに変わっている…が、まぁ、いい。私が代わりに?無理だ。いくらわたしでも東と南の両方を守ることはできない。」朱雀は顔をしかめたようだ。

「かわりにあいつの宝玉を使って東方を守ろうと考えているのだが…青龍は玉をどこにかくしたのだろう」

しばらく、考え込んでいた朱雀は顔をあげ、ぼくをじっと見つめて言った。

「おまえたち、宝玉を探してきて八幡神社に戻してくれないか?八幡神社は青龍がまつられている神社だからな…」

ぼくはびっくりして「ムリムリムリムリ…」と断った。

しかし朱雀はもう決まったことのように

「おまえには青龍を天に戻す力があるのだから、簡単な仕事だろう。とりあえず白虎と玄武のところにむかって、あやつらにも話を聞いた方がよいだろう」

「えー、白虎と玄武ってどこにいるの?朱雀さんも来てくれますよね?}

「いや、私は南方を守らないと...こうしている間にも邪鬼が南からはいってくるかもしれない」

朱雀が頭を上げて羽ばたき始めたので、ぼくはあわてて聞いた。

「わ~、ちょっと待ってください。白虎と玄武の居場所を教えてくれないと...」

「ん?ああ、そうだな。白虎は西方、玄武は北だ。その方角に神社があるだろう。そうそう、おまえたちがいなくなると家のものが心配するだろうから、私がなんとかしておこう」また羽ばたき始めた朱雀は思い出したように動きを止めた。

「ああ、そうだ、おまえたちは神じゃないから、すぐ疲れるんだったな。よし、私の力で疲れない、腹も減らない体にしてやろう」

そういうとたちまち大きく羽ばたいて、あっという間に飛び去ってしまった。

「えぇ~!?丸投げ?どうしよう?」困ったぼくは、頼りにならなさそうなメンバーたちを順番に見た。

「みんなが心配しないようにって、どうするつもりなのかな?」

「きっと記憶を消すのよ。帰ったら誰もあたしたちのことおぼえてないんじゃない?」とヒメが言うので、ますます心配になった。

「とにかく白虎と玄武のところに行けばいいんだろ?さ、行こうぜ!」

相変わらず、雪丸は能天気だが、とにかく前向きなきもちにはしてくれる。

「しかたない。行くしかないか…ぼくらが青龍を天に帰しちゃったんだし…」

ムゲンはぼくの言うことならなんでも聞きますよといいたげなキラキラした目でこちらを見てきた。

どっと疲れが…といいたいのだけど、どうやら朱雀が言った通り、ぼくらは疲れも空腹も感じなくなっていた。神さまのちから、半端ねぇー!





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