第7話

ここの神社には狛犬ではなく狛へびがまつられている。

なんだかおどろおどろしい狛へびを横目で見ながら、鳥居をくぐって神社の境内に入っていった。

神社のたてものは、立派だけど、柱や床の木はとても古くて黒ずんでいる。庭の真ん中には見上げるほど大きな杉の木が立っていた。幹はぼくみたいな子どもが5人で手を伸ばしてもとどかないくらい太い。その太い幹のまわりにはしめなわがまかれていて、なわにつけられた何枚もの白い紙がひらひらと風にゆれていた。庭のまわりには、木がたくさんある。少しすずしくなった気がして、ぼくはぶるっとふるえた。

空も暗くなってきたような気がするのは気のせいかな。

雪丸は何も感じていないらしく、あたりを走りまわり、クンクンにおいをかいでお宝を見つけようとしている。ヒメは森には近づかないようにしながら、ゆっくりと庭を歩きまわり、杉の木の太い幹を見あげたり、さい銭箱をのぞきこんだりしている。ムゲンはボトル缶をかぶったまま、ぼくがリュックからおろした場所にそのままただボーッとつっ立っていた。

その時小さなヘビがスルスルっとムゲンに近寄った。みんながアッと思ったときにはヘビは体の何倍も大きく口をあけて、ムゲンを缶ごと飲みこんでしまった。

「ムゲンが食われたっ!」

雪丸がヘビに飛びついていって、しっぽにかみついた。

「ムゲンを返せっ!口をあけろ!」

するとみるみるうちにヘビは巨大になって、雪丸の胴体に巻きついた。

「雪丸っ!雪丸をはなせっ!」ぼくはびっくりして叫ぶことしかできない。

ヒメはあっと言う間に高い木の上にのぼり、毛を逆立てて、「ケンタ、雪丸とムゲンを助けて!」と叫んでいる。

ぼくは転がっていた木の枝をひろってヘビをなぐった。しかし巨大になったヘビはびくともしない。雪丸はしめつけられて、苦しそうにキューンと鳴いた。ぼくが必死でヘビをなぐりつづけると、ヘビはさらにどんどん大きくなっていく。

雪丸はぐったりして死んでしまったようにみえる。ヒメが「雪丸が死んじゃったー」と泣いているのが聞こえたが、ぼくの頭の中は真っ白だった。雪丸が死んでしまったなんて、ウソにきまってる。

雪丸の閉じた目を見ているうちに、ぼくの中でこわいという気持ちが消えていった。こわさにかわって、怒りの気持ちがむくむくと体の中からわきあがってきた。ぼくの大事な相棒の雪丸を殺すなんて、ぜったい許さない!

「おまえなんかこわくない!雪丸をはなせ!」

ぼくは大声で叫んでヘビの目と目の間をなぐった。

「おまえなんか、ただのヘビだ!雪丸は絶対に死なない!ぼくが雪丸を助けるんだ!」

自分に言いきかせるみたいに叫びながら、何度も何度もヘビに向かって木の枝をたたきつけた。すると、ヘビはだんだんちぢみはじめた。

ちぢんでいきながら、ヘビは雪丸をしめつけていた長い胴体をほどいた。そして、口からムゲンをはきだした。やがてヘビはもとのように小さくなった。

ムゲンは、はきだされたはずみで、缶がはずれて目がみえるようになったようだ。

「あ~、よかった~!ようやく穴から出てこられました~!いつの間に穴の中に落ちたんでしょうね?狭くてジメジメして気味が悪かったけど、出て来られてほっとしましたよ。ついでに缶から頭がぬけたので、ラッキーでした!」

「ムゲン、アンタもしかして、何があったかわかってないの?」

「何があったかって何ですか?」

ぼくはそれよりも雪丸が心配で雪丸の体をいっしょうけんめいマッサージしていた。やがて雪丸もふーっと息をして、ピョンと飛びあがって

「ムゲンを口から出せっ!」と叫んだ。

「雪丸、ムゲンはだいじょうぶ。もうヘビはどこかへ行ったよ」とぼくはほっとしながら言った。

すると、

「おまえたちは私を知らないのか?」

という声があたりにひびきわたった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る