第6話

ようやく公園を出て、それから大きな道路をわたり、坂道をどんどん登っていった。

道路で女の子がなわとびをしている。そばを通りすぎた、と思ったら、後ろから「もー、あっち行ってよー、うまくとべないよー」という泣きそうな声が聞こえてきた。いやな予感的中!また雪丸か…。

雪丸は女の子がとんでたなわとびの中に無理やり入って、いっしょにとぼうとしている。女の子は、雪丸にからまったなわを半べそでほどいている。ぼくは雪丸のしっぽをつかんでグイッと引っぱった。

「痛いなー、何するんだ…」

「おまえ、いいかげんにしないと、もううちにつれて帰らないぞ!」

「オレさまは、ちゃんと自分でうちに帰れるから、だいじょうぶー」

「じゃあ、晩ごはんなしにする」

「それは、やめてくれー」

ぼくと雪丸が言いあらそっていると、ムゲンがポイすてされたコーヒーの空き缶に近づいていった。ふたがはずれてボトルの底に少し残っていた中身がこぼれ、甘いコーヒーのにおいがしている。

「ムゲン、汚いからさわらないほうがいいよ」

「すみません、何かおいしそうなにおいがしてるんです。きっとすてられたばかりですよ。汚くないですよ」

ムゲンは甘いにおいにひかれたのか、ボトルの中へ頭を無理やり押しこんだ。

「ムゲン、おまえは何をしてるの?」

「フンガ、フンガ…ファ、ファタマグァ…」

「ん?」

「ファタマグァ…」と言いながらムゲンは起きあがろうとしている。

ようやく立ちあがったムゲンは、ボトルを頭にかぶったままだった。

「あ、あたまが…ぬけなく…って…」

「えっ、頭ぬけなくなっちゃったの?」

ムゲンときたら、逆さになったボトル缶のおばけみたいなすがただ。バランスが悪いので、ユラユラと左右にゆれている。

「オレが缶から出してやる!」と雪丸が缶をくわえて振りまわした。

「わ~、めぐぁ…めぐぁ…まわ…る…」

それでも缶は頭からはずれない。

今度はぼくがやってみた。左手に缶を持って、右手の親ゆびとひとさしゆびでムゲンの細い足をつまんで引っぱった。そっとやったら、ちっともぬけない。もう少し、力を入れたら、ムゲンの足のつけ根がひっぱられて伸びた。なんだか足が体から取れてしまいそう。

「う…ケ、ケンタさん…大変ありがたいんですが…あぁ…このままでは…ぼくの足が…ちぎれてしまう…うぅ…」

いくらやってもぬけない。

「大きめの石でガツンとやれば、はずれるんじゃない?」

とヒメが言い出したので、ムゲンはあわてて、

「ぼく、もうだいじょうぶです」と言った。

そこでムゲンの頭から缶をはずすことはあきらめて、ムゲンは缶をかぶったまま、僕のリュックのポケットに入って、神社に向かうことになった。

道はくねくねと曲がって、だんだん細くなっていく。坂道を右に左に曲がりながら、登っていくとようやく八幡神社に着いた。

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