第5話
ぼくは公園の出口に向かって歩き出した。後ろをふり返ると、雪丸がもういない。
「あれ?雪丸は?」とキョロキョロしていると、ジャングルジムのあたりで「来るなー!!あっち行けー!!」と言う声がする。ジャングルジムで遊んでいた男の子は、足元にでじゃれてくる雪のように白い犬から逃げるためにどんどん上に登っていってる。ぼくより学年が下の子みたい。
「コラーッ!雪丸ーっ!よその子にからまないーっ!」
雪丸はちっとも聞いていない。男の子のはいている新品のスニーカーに向かって、ピョンピョンとジャンプしている。
ぼくは急いでジャングルジムのところまで行った。男の子に「ゴメンねー」と言いながら、雪丸の首輪をつかんでグイグイ引っぱってそこから離れた。
「なんだよー、遊ばせろよー」
「おまえ、神社に宝さがしに行くって出発したの、忘れちゃったの?」
「あっ、そうだった。なんだか楽しそうなヤツがいたから夢中になってしまった…」
はぁ~、雪丸の性格には困ったものだ。
さあ行こう、と思ったら今度はヒメがいない。
「ヒメー、どこ行ったー?」とさがしていると、木の上からヒメの声が聞こえてきた。
「宝さがしとか、もういいんじゃない?あたし、ツメとぎにぴったりの木を見つけたから、ツメとがせてもらうね」
木の上で、ヒメは一心不乱にツメをといでいた。まだ青いドングリの実がヒメのそばでゆれている。
もぉ~!いいかげんにしてくれよー!
「ヒメ、宝石が見つかったらほしいんでしょ?」
「そうそう、お宝、お宝…そうだった」
思うぞんぶんツメをといだヒメがやっと木から下りてきた。
さあ、あらためて、神社にむけて出発だ。
公園を出ようと歩きだしたら、雪丸がフリスビーをくわえて走りまわっているのが目に入った。そういえば、さっきシベリアンハスキーと飼い主がフリスビーで遊んでるのを見たっけ。まさか、そのフリスビーを横取りしちゃったんだろうか。
「オレの方がうまく取れるぜー!」
雪丸は、ハスキーの飼い主のところにフリスビーを持っていき、「早く次の投げて!」とじゃれついている。
ハスキーが「オレのフリスビー返せ!」とガミガミ吠えかかってきた。
「いいじゃん、いっしょに遊ぼうぜ!おまえより、オレの方が早く取ってこれるぜ!」
「どこから来た子?いつの間に、参加してたんだよ?」ハスキーの飼い主さんはあきれ顔だ。
ぼくは「ほんっとにスミマセン…」と飼い主さんにあやまって、ハスキーにもごめんねって言った。そして、やっとのことでつかまえた雪丸の口から、よだれでベトベトのフリスビーを取りあげて返した。
もう、つかれてきたー…。
ムゲンは、と見ると、さっきのハスキーのおやつをねらっているではないか!
「ゔぅ~、おいスズメ、命が惜しくないんだな?」
雪丸よりずっと大きな体のハスキーが、青い目をするどく光らせ、とがった牙をむき出してうなっている。ムゲンはあわててボールのふりをした。ぼくは、ボールになったムゲンをハスキーが前足でコロコロ転がしているところから、なんとか救いだしてやった。
雪丸が「ムゲン、オレにもボール遊びさせろ!ボールになれ!」なんて言うので、
「雪丸っ!ムゲンはおもちゃじゃないぞっ!」とまた叱らなきゃいけない。
なんだか、まだ何もしてないのにつかれてしまって、ぼくは公園のベンチにすわった。
「ちょっとお茶でも飲んで、休もう。おやつも持ってきたし…」
「おやつ!」と雪丸とムゲンがかけよってきた。
こんな時だけちゃんと来るんだな…ってぼくは苦笑いだ。
水筒を出して、フタをコップにして順番にお茶を飲んだ。そして、雪丸には犬用の、ヒメにはねこ用のおやつをあげて、ムゲンには、みんなが少しずつかけらをあげた。もちろんぼくも、大好きなビスケットだけど、一枚だけムゲンにあげたよ。
「みなさん、もうおなかいっぱいでしょう?ぼくが残りを食べてあげますよ」
あっという間にかけらを食べおわったムゲンは、みんなのまわりをピョンピョン飛びまわっては落ちたかけらをついばんでいる。そして、キラキラした目でみんなの口元とおやつの袋をかわるがわる見た。
さすが、ムゲンという名前だけあって、本当に食欲が無限なんだな…。
「オレのはやらない。オレもたりないくらいだからな」と雪丸。
「あたしはダイエットしてるから、あげてもいいんだけど…。あれ、もう全部食べちゃってたみたい」
ヒメ、それはイジワルだろう...。
かわいそうだから、ぼくがビスケットをもう一枚あげた。
もう夏休みは終わったのに、まだ夏みたいな太陽だ。雪丸を押さえつけたり、ムゲンをハスキーから救いだしたりして、汗をかいてしまった。ベンチにすわっていると、また気持ちいい風がふいてきた。
さあ今度こそ、本当に出発だ。
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