第4話

まずは家にもどって、水筒にお茶をいっぱい入れて、おやつのビスケットの袋を、戸だなから取りだした。お父さんに見つからないように、静かに、静かに…。

雪丸とヒメのためには犬用とねこ用のおやつがちゃんと用意されてる。

お父さんはお母さんの寝ている部屋に行っているらしく、リビングにはいなかったので、うまくお茶とみんなの食りょうが手に入った。

お茶と食りょうはリュックにつめてぼくが背中にしょった。今日は雪丸にリードをつけずに行くことにしよう。だって、散歩じゃなくて、宝さがしなんだからね。

雪丸にあまり早く走るなって言ったんだけど、雪丸にはムリだったみたい。50メートルくらいダッシュしては、またぼくたちのいるところまでダッシュでもどるっていうのをくり返してる。

「早く来いよー」と何度も言う。

まったく、よくつかれないもんだ。

家を出てしばらくまっすぐ行くと、お母さんがいつも買い物するスーパーがある。そこを右に曲がってまたしばらく行くとぼくの通っている小学校だ。

校庭のイチョウの葉はまだ緑が多いけど、はしのほうが黄色くなりかけた葉がちらほら見えた。学校のそばの家の庭には、何と言う名前か知らないけど黄色い花がびっしり咲いている木や、赤い実が鈴なりの木なんかが植えてある。まだまだ暑いけど、ときどき涼しい風がふいてくると、とても気持ちがいい。

校庭からは、野球クラブの子たちが練習する声が聞こえてくる。

夏休みは終わったんだよな…。それはざんねんだけど、もうすぐ運動会だ。運動会は楽しみだな…。と考えながら歩いていると、ぼくがいつも遊ぶ公園が見えてきた。

雪丸が「公園だ、公園だーっ!」と走っていってしまった。

「雪丸、待ってよー!公園じゃなくて、神社に行くんだよー!」と言ったけど、雪丸は聞いていない。

「しようがないな…。ちょっと公園も寄ってみようか」とぼくが言うと、ヒメはあきれたように

「アイツをなんとかしないと、神社までたどり着けないんじゃない?」と言いながら、しぶしぶついてきた。

やっと雪丸に追いついてみると、雪丸は何か小さな生きもののにおいをかいでいた。その生きものはブルブルふるえてた。頭をお腹にくっつけて、できるだけ身体を丸めて、ボールだと思ってもらおうとしているようだった。でも、フワフワした茶色の羽毛のようなものが生えていて、ボールには見えない。

雪丸が「こいつ、スズメだ!」と言った。よく見ると、本当にスズメだった。

雪丸に「ちょっとどいて」と言って、雪丸をスズメから離した。スズメの足元を見ると、誰かが落としたのか、風で飛んできたのか、ぐちゃぐちゃにからまったビニールひもが足にまきついていた。

ぼくは「ちょっと待って、はずしてあげるから」と言ったが、スズメはギュッと目をつぶって何も聞いてない。

こわさのあまり、ゲンジツトウヒしているんだろう。

スズメのか細い足を傷つけないように、そーっとひもをほどいてやると、スズメはふっと自由になっておどろいたようだった。

「アレッ、アレッ、ここはどこですか?ぼくは天国に来たんですか?」

「あ~あ、もう一匹おバカが増えちゃったね…」とヒメがあきれたように言った。

「ぼくが君を助けてあげたんだよ。だから君はぼくの家来にならなきゃいけない」とぼくが言うと、スズメは

「ハイッ!わかりましたっ!わたしはあなたさまの家来です!何でもいいつけてください!」と左右の羽と足をピンとそろえた。

「そんなにていねにじゃなくてだいじょうぶだよ」とぼくは笑いながら言った。

「ぼくらは神社にお宝をさがしに行くところなんだ。あ、こいつが雪丸ね。それからこっちがヒメ」

「えーっと、雪丸さんと、ヒメさんと、そしてご主人さまのお名前は…」

「ご主人さまって呼ばなくていいよ。ぼくの名前はケンタだよ」

「ケンタさま…」

「ケンタさんでいいって」

「はい!ケンタさん。わたしはいつもお腹がすいていて、食欲が無限なので『ムゲン』って呼ばれています」

何だよ、食欲がムゲンってーと、ぼくらは大笑いした。ムゲンはみんなが笑ったのでちょっとテレながらもうれしそうだった。

「じゃあ、今度こそ、神社に行くぞー!」


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