第3話

りおが生まれて3年たって、ぼくは小学4年生になった。

2学期が始まって、最初の土日だっていうのに、漢字の宿題がいっぱい出されて、ぼくはうんざりしていた。1学期に勉強した漢字をちゃんとおぼえているか、たしかめるんだって。

まだまだ夏休み気分なのに、やめてほしい。

日曜の朝、ぼくはいっしょうけんめいノートに漢字を書いていた。

ちょっとトイレに行ってもどってきたら、なんとりおが、ぼくががんばって書いた宿題の漢字ノートを、クレヨンでぐちゃぐちゃにぬりつぶしていた。

これにはさすがのぼくも怒った。漢字をきれいに書くのに30分もかかったんだぞ。

「りおっ!らくがきしちゃダメって言っただろ!」 

りおの頭をパチンとはたいたら、

「お兄ちゃんがたたいたー!」と言って大きな声で泣きだした。

こいつ、アピールうまいんだよなー…。

さっそくお父さんがかけつけて、

「こらっ!おまえはお兄ちゃんだろっ!」とどなった。それから、

「明日からお母さんが入院するのに、何やってるんだよ…」と言った。

お母さんはりおが生まれてから、体が弱くなって、ときどき病院に入院するんだ。

お母さんは「ケンタにがまんばかりさせちゃってごめんね…」ってあやまってくれる。だからがまんしなきゃってぼくも思っていたんだけど…。だけど今日という今日はがまんできないよ!

「ぼくが悪いんじゃない!りおが悪いんだろ!」

とどなったら、お父さんが鬼のような顔になって、

「おまえは何もわかってないな!外に出てなさいっ!」

とぼくの100倍も大きな声でどなった。

わかってないのはお父さんだ。ぼくはずっとがまんしてきたのに。妹にやさしくしようとして、いろんなことに目をつぶってきたのに。ぼくにだって、がまんの限界はあるんだ。

「家出してやる!」

ぼくは家をとび出して、庭にいる雪丸に

「おい、家出するぞ!」と言った。

雪丸は「おーっ!行こうぜ、行こうぜ!」と言って、ぼくのまわりをグルグル走りまわった。ときどきジャンプまでしている。

朝早く見まわりに行って、もどってきたばかりのヒメは、へいの上で背中をペロペロなめたり、前足をなめて顔をこすったりして、聞いてないふりをしている。

「ヒメ、おまえも来るんだぞ」

「あたし、メイク中。メイクが終わらなきゃ、でかけらんない」

「なんで、見まわりの前にメイクしておかないんだよ」と言うと、ムッとした顔になった。

「見まわりの後、メイクって決めてんの!」

プリプリ怒っているヒメのごきげんを取るために、ぼくは

「ヒメ、おまえいつもどおり、スッゴクきれいだよ。黒い毛並みがツヤツヤして巨峰みたい」と言ってやった。

「ばぁか。巨峰?そんなものにたとえてホメたつもり?」と言いながらも、ヒメはまんざらでもなさそうだ。

「おまえのきれいな毛並みをみんなに見せてやろうよ。ぼくと雪丸といっしょにでかけよう」

「アンタ、家出するつもりなんでしょ。あたし、そんなことにはつきあいたくない。パパに怒られたくないもん」

「大丈夫。お父さんが気づく前に帰ってくるから。ちょっと鬼たいじに行くだけだよ。さっと鬼をたおして、帰ってくればいいじゃん」

すぐ帰っちゃったら家出じゃないな…と思ったけど、よく考えたら本当に家出するのもちょっと勇気いるしなー。するとヒメが冷たく、

「鬼なんてどこにいるのよ」と言った。

そうだな…。鬼といえば、お父さんの鬼のような顔がうかんできた。鬼たいじなんてムリかな…。やっぱり宝さがしにしようかな…。

「じゃあ、宝さがしに行こうよ」

「おーっ!行こうぜ、行こうぜーっ!」と雪丸がまたジャンプしてグルグル走りまわった。

「もー、その白いの、おとなしくさせてくれる?目ざわりだから」

ヒメはうんざりしてるみたいだけど、この元気なところが雪丸のいいところなんだよな…。とくに、今日みたいに「家出しよう」なんて一大決心をしたときは、雪丸がよろこんでついてきてくれれば、「だいじょうぶかな…」なんて不安はふきとんじゃうんだ。

「宝さがしっていえば、前にねこ集会で聞いたんだけど、八幡神社にはお宝があるんだって」

「それ本当?」

ヒメは毎日、朝と夕方にご近所を見まわりに行くついでに、近所のマンションの駐車場でひらかれているねこ集会に参加してる。

そこでは、たくさんのねこたちが集まってる。新しくひっこしてきたねこがあいさつしたり、ご近所のうわさ話をしたり、ただみんなでうとうとしたり…,そんな感じなんだろうな…。

そのねこ集会でお宝の情報をゲットしてきたらしい。ねこ集会、すげぇ!!

お宝があるという八幡神社は、うちから歩くと30分くらいかかるところにある神社だ。ぼくがいつも遊ぶ公園をこえて、細い山道を登っていかなくてはいけないので、ちょっとした冒険だ。

八幡神社にはたくさんの木が生えている。森みたいだ。奥に入っていくと昼間でもうす暗いしひんやりしている。

何かありそうでしょう?宝がかくされていてもおかしくない。

「じゃあ八幡神社に行こう」

ぼくは雪丸がジャンプできないように、ぐっと押さえつけた。雪丸は押さえつけられても、ゼイゼイ言いながら、「行こうぜ、行こうぜー」と言った。

ヒメも「宝なら見に行ってもいいかも…。もし宝物がきれいな宝石だったら、あたしにちょうだいね」と言った。

そこでぼくたちは宝さがしに行くことにした。

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