第2話
りおが生まれて一年と少したって、ぼくの8さいのたんじょう日が近づいてきたとき、お母さんが
「ケンタにいつもがまんさせてばかりだから、おたんじょう日はケンタのほしいもの、なんでも買ってあげる」って言った。
ぼくは「犬を飼いたい」って言ったんだ。
そのときにはもう、うちには「うるし姫」っていうねこがいた。
お父さんもお母さんもねこが大好きなんだ。結婚してからずっとねこを飼っていたらしい。でもそのねこはぼくが生まれる前に死んじゃったんだって。お父さんもお母さんも、前飼ってたねこのことを思い出して悲しくなるから、すぐに次のねこを飼う気になれなかったって言ってた。だから、しばらくねこはいなかった。
だけど、りおがおなかにいるってわかった時に、お母さんが「子ねこがいたら、生まれてくる赤ちゃんの友だちになるね」って言って子ねこをもらってきたんだ。
「うるし姫」って言うくらいだから、うるしみたいに真っ黒な猫だ。そしてお姫さまみたい、と言うより女王さまみたいにプライドが高くて、なかなか人のいうことはきかない。ぼくは「ヒメ」って呼んでる。
まあ、そういうわけで、うちにはねこがいたから、犬がほしいって言ってもムリだろうなって思ってた。
そしたら、たんじょう日の朝起きたら、真っ白な子犬が庭を走りまわってた!
そいつが「雪丸」っていうぼくの相棒だ。真っ白だから、雪丸。
雪丸っていう名前は、ぼくがつけた。なんか、かっこいいでしょ? この名前は聖徳太子っていう昔のえらい人が飼っていた犬の名前とおんなじだよって、お父さんが教えてくれた。聖徳太子のうちの「雪丸」はとてもかしこくて、人間の言葉を話して、お経をとなえたりもしたんだって。
うちの雪丸は全然かしこくなくて、やんちゃなヤツだ。人間の言葉をしゃべったりできない。だけど、人間の言うことはちゃんとわかってる。
それに、ぼくは雪丸が何を言ってるか、顔をみるとわかるんだ。顔とか体の動きとか、ほえ方なんかで言いたいことはわかるよ。雪丸だけじゃなくて、ヒメのこともわかる。ぼくは、いろんな生きものが何を言ってるかわかるんだ。
雪丸はやんちゃだけど、りおにはすごく優しい。りおが泣くと、顔をペロペロなめてなぐさめるんだ。そうすると、りおは泣きやむから、ぼくは怒られずにすんでずいぶん助かったよ。
雪丸はスッゴクいいやつなんだ。ときどき、なぜか何もいないのにギャンギャンとすごい声でほえることもあるけど、きっと悪いやつをよせつけないように、家を守ってるつもりなんだろうな。何かこわいものが窓の外にいるような気がするときってあるでしょう?そんなときに、雪丸が大きな声でほえてくれるとほっとするんだ。
雪丸とぼくは毎日いっしょに遊んだ。
雪丸は散歩が大好きで、ぼくが散歩用のリードを持っただけで、コーフンして大さわぎだ。散歩と言っても歩くんじゃなくて、いきなり全力でダッシュする。雪丸が速すぎてぼくは追いつけないから、いつもリードはピンとひっぱられて、雪丸ののどには首輪が食い込んでいる。それでもおかまいなしに、ゼイゼイ言いながらぼくをひっぱるように走るんだ。
ときどきキャッチボールもした。本当のこと言うと、キャッチボールみたいにはならなかったけど。雪丸にボールを投げて、「取っておいで」と言うと、雪丸は大喜びでボールを追いかけていく。ボールをうまくキャッチしても、雪丸はボールを返しにきたりしない。そのボールを前足の間にはさんで、ガリガリかじるんだ。おかげで何個ボールがダメになったことか…。
ご飯の時間は、散歩だよって言われた時よりもっとコーフンしてる。ご飯のお皿を前におくと、すぐに食べようとするので、「待て」とぼくは言う。最初は「待て」と言っても、全然待てなくて食べてしまうので、口を押さえてなくちゃいけなかった。そのうち、食べずに待てるようになったけど、ご飯に鼻がくっつくくらい、ギリギリのところまで顔を寄せて、よだれをたらしながらじーっと待ってる。ぼくが、あまり長いこと「よし」って言わないでいると、じれったそうに足ぶみして、「キューン」と高い声で鳴くんだ。「よし」って言うと、あわててお皿に鼻までつっこむんだよ。そして、鼻をフガフガ言わせながら、のどにつまるんじゃないかっていうくらい、ガツガツ急いで食べるんだ。
こんな食いしん坊でやんちゃな子犬だった雪丸も、ぼくといっしょにどんどん大きくなって、少しずつかしこくなった…かな?
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