け。ゆ。ひ。と ∞

るいすきぃ

第1話

ぼくには文句を言いたいことがある。

だれにだって、ひとつくらいは文句を言いたいことがあるよ、って言うんでしょ?

それはそうだろうけど、ぼくの文句には「わかる、わかる」って言ってくれる人、たくさんいると思うんだけどな…。

それはぼくがお兄ちゃんだってこと。

お兄ちゃんはソンしてるって、弟や妹にはわかんないんだろうな…。

ぼくがお兄ちゃんになってから、どれだけがまんしてきたか、言わないつもりだったんだけど、ある日がまんの限界がきたんだ。


小学校1年生になるまでは、ぼくには兄弟がいなかった。

お父さんもお母さんもケンタ、ケンタってかわいがってくれた。写真をいっぱいとってくれたし、いろんなところに連れて行ってくれた。

遊園地なんていっぱい行ったよ。もちろんディズニーだって1回連れて行ってもらった。

ひとりっこはさみしいっていうけど、おやつもおもちゃもひとりじめだし、わがまま言っても怒られないし、けっこうひとりっこも楽しかったよ。

ぼくが幼稚園の年長さんになった年のクリスマスに、お母さんがぼくにこう言ったんだ。

「ケンタ、今までないしょにしてたけど、ケンタはお兄ちゃんになるんだよ。お母さんのおなかの中にケンタの弟か妹がいるんだよ」

お母さんは、少し大きくなったおなかをなでさせてくれた。

ついに、お母さんのおなかの中に弟が現れた!どうやって弟がおなかの中に入ったんだろうと不思議だった。

「ケンタも生まれる前はお母さんのおなかの中にいつの間にか入ってたんだよ」ってお母さんは教えてくれた。

「弟はいつ生まれてくるの?」とぼくが聞いたら、お母さんが

「5月くらいかなぁ…」と言ったので5月がくるのが楽しみになった。

弟が生まれるのをぼくが楽しみにしていたのには、わけがあるんだ。

友達のこうちゃんには弟がいる。こうちゃんは弟に「おもちゃ取っておいで」とか「おかし持ってきて」とか命令してた。弟は「嫌だ」なんて言わないんだよ。すなおに「うん」と言って何でもいうことをきくんだ。

ぼくもそんなふうになんでもすなおにいうことをきく弟がいたらいいな…って思ってた。

お母さんが弟か妹がおなかの中にいるって言ったとき、ついにぼくにも弟が、家来ができるんだって思って、とびあがるくらいうれしかったんだ。

でもそのあと、思ってもみなかったことがいろいろおこった。

まずひとつめは、5月くらいに生まれるっていってた赤ちゃんが、3月の真ん中くらいに生まれてきたこと。本当はまだおなかの中にいなきゃいけないのに、出てきちゃったんだって。それで、生まれてきた赤ちゃんだけじゃなくて、お母さんも体の調子が悪くなって、入院しちゃったんだ。

ぼくの小学校入学式の日、お母さんはまだ病院にいて、お母さんの代わりにおばあちゃんが入学式に来てくれた。

おばあちゃんが「お母さんと赤ちゃんは病院でがんばってるから、ケンタもいい子にしてね」と言ったので、ぼくはがまんしたよ。自分で言うのもなんだけど、かなりいい子にしてたよ。でも本当はどうしてお母さん来てくれないの、と泣きたい気分だった。

お母さんと赤ちゃんは一ヶ月ほど入院したあと、家に帰ってきた。

お母さんが家に帰ってきてくれてほんとにうれしかったし、ほっとした。

でももうひとつ、思ってなかったことがあった。

それは、赤ちゃんが弟じゃなくて妹だったこと。

こうちゃんの弟は、男の子だからあんなにいうことをきいたんだと思う。ぼくの知ってる女の子はみんな、幼稚園の時も小学校でも、「○○して」なんて言ったって、ちっともいうこときいてくれない子ばかりだもん。

女子ってなんであんなに気が強いのかな…。

幼稚園ではおもちゃの取り合いになると、必ず女の子が勝つし、小学校でもそうじの時間に「そうじさぼらないで!」と注意してきたり。

友だちともりあがって、ちょっとろうかを走っちゃったら、もう

「あーっ、ろうか走っちゃいけないんだー」なんてあげ足を取ってくるんだ。

妹が生まれたってことは、そんな気が強い女子が家の中にずっといるってことだ。

つまり、何でもいうことをきいてくれる家来ができる、っていうぼくの夢ははかなく終わってしまったんだ。 

それでも、生まれたばかりの赤ちゃんだったりお(妹の名前はりおっていうんだ)はかわいかったから、ぼくはめちゃくちゃかわいがってあげたよ。おもちゃも貸してあげたし、絵本を読んであげたりもした。

でもぼくがかわいがってるのに、りおはわけわかんないときに大きな声で泣き出すんだ。

ぼくは何もしてないのに、お父さんは「ケンタ、何したっ!」って怒る。お母さんには「ケンちゃん、お兄ちゃんなんだから、やさしくしてあげてね…」って言われるけど…。

ぼく、やさしくしていたんだけどな…。

だんだん大きくなって、いろんなことができるようになってきたら、りおはぼくのジャマばかりするようになった。

プラレールをしようと思ったら、レールや汽車をいつの間にか口に入れてる。

「だめ!」って言うと怒ってたたいてくる。

絵本を読んでいると、いたずら書きしたり、ビリビリやぶったりする。

ぼくが小さいころから読んでいて、大事にしていた「くまのプーさん」の絵本も、読めないくらいボロボロにされちゃった。

おまけにいつもよだれをたらしていて、なんでもよだれだらけにするんだ。

めんどうだから、あっち行けって、いっつも思ってた。

お父さんは「いっしょに遊んであげなさい」って、いつもぼくにきびしい。お父さんだって、ジャマされるのはキライじゃないか!

お母さんは怒ったりしないで、「ごめんね、遊んであげてね…」ってやさしく言ってくれるけど、ぼくだってたまにはジャマされずに遊びたいんだ。

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