3部
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
翌日、明朝。
俺ことフジサキ・モモはこの街、セントラルシティの外でゲームでは雑魚扱いされている様なモンスター、スライムと追いかけっこしています。
さて、どうしてこのようなことになったのかと聞かれればまずはこの世界の教会の役割について話さねばなるまい。
普通、教会とは神に救いを求めて祈る為の場である。
しかしこの世界では少し違うのだ。この世界では神様は実物として教会にいる為か祈りなどと言うことを殆どしない。
寧ろ実物がいる分話はもっとシンプルで、報酬をあげるので神様パワーで哀れな仔羊達の困り事を解決してください、と頼む訳だ。役割としては寧ろゲームなどによくあるギルドに近いだろう。
もちろん、ナトス様の教会の一員となったこの俺にもその義務は発生する。
「頑張れよ〜」
「ちょ!笑ってないで助けてくださいよ!」
だから魔王を倒すにしろ困り事を解決するにしろ、何事にも訓練は大事だと言うことで神様に連れられて、剣一本でスライムを退治させられた。
だけど剣は重いし振りにくいしまぐれで当たってもプニプニで効かないし………。
「一々オレ様が助けてたら今後ピンチになった時にオメーで何もできないだろ!自分でやってみろ!ちなみに捕まったら身体がボロボロに溶かされるからな〜!」
スライムってそんなヤバい奴なの!?溶かすとしても同人みたいに服だけとかじゃなくて!?いや、よく考えたら俺は不死なんだから痛くも痒くも………。
「あ、ちなみに不死だとしても痛みは普通にあるし寧ろ死ねない分痛みは長く続くからな〜」
「そう言うことは早く言えこの痴女神ィィィィィィ!!!」
とにかく捕まったらダメと言うことだ。だがどうする?逃げるだけではダメだ。何とかしてあのポヨポヨヤローを倒さなくてはならない。
「いいかー!スライムは言うなれば水風船だ。ヤツのコアから常に生成される水を粘膜で閉じ込めてた物をスライムと言うんだ。コアを潰せばスライムも死ぬ!」
「コア!?」
俺は後ろから追ってくるスライムを逃げながら観察する。確かに何やら球体の物がスライムの中にある。
「………てか、なんか膨らんでない?」
明らかに最初に見た時とはサイズが違う。最初に見た時は俺の足くらいしかなかったのに今は膝くらいまである。
「急がねーと爆発するぞー」
笑いましたながらナトス様は足をバタつかせる。
「だからそう言うのは早く言えやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
だがもう遅かった。膨らみ切ったスライムは破裂してその場の地面を抉る。
「ぐぇ」
爆風に巻き込まれた俺も顔から地面にへと激突した。
「おぉ………カエルがひしゃげた様な声が出たな」
「もう………無理」
「なーに言ってんだ。まだそこ等中にスライムいるんだからまだまだやるぞ」
鬼だ。この神様………。
結局、俺は朝ご飯の時間までスライム相手に剣を振るいながら逃げ回り続けた。
スライムの爆破数およそ50匹、討伐数0匹。
「ま、まぁ気に病むなって!誰でも最初はこうだから!」
あれほど笑っていたナトス様も気の毒に思えてきたのだろう。帰ってきてからずっと俺を励ましてくれている。
「いや………やめて下さい。余計に虚しく………あれ?何だろう………目から水が………」
俺が思っていた物と全然違う………。俺が想像していたのはもっとクールでスマートな戦闘だったのに………。
「まったく、モモはなさけない!」
「こら、ナスターシャ。あんまり言ってやるなって。コイツも戦いは初めてだったんだよ。な?」
ナスターシャの無邪気な言葉責め。一部界隈になら需要もあったのだろうが俺にとっては幼女にまで言われていると虚しくなるだけだ。
………そう言えば、この幼女、シスター・ナスターシャはこの教会で暮らしているらしい。
元々孤児だったこの娘をナトス様が引き取ったのだとか。それからの家事は全部ナスター・シャが行なっているらしい。
まだ若いのに立派だと思う。
この朝ご飯、シチューもナスターシャが作ったと言う事だ。
「あ、そう言やそろそろ食材が心元ないな………。買いに行きてーけどオレ様今からお勤めだしな………」
「じゃあ俺買ってきましょうか?」
「おつかい?ターシャも行く!」
俺の名乗りに自分も行くと名乗りをあげるナスターシャ。
ナトス様は少し考える素振りを見せてそれから頷いた。
「そうだな。モモはまだセントラルの地理にも詳しく無いし。ナスターシャ、道案内頼めるか?」
「せんぱいだから大丈夫!」
ナトス様がナスターシャの頭を撫でる。こう見たら二人は何だか親子の様だ。
朝ご飯も済んで俺とナスターシャはナトス様から金を貰って頼まれた物を買いに行く為に外に出る。
「えーっと、必要なのは………」
俺はナトス様から貰ったメモを確認する。
「牛の乳と鶏肉、キノコとリンゴ?」
よく分からないがとりあえず元の世界とこの世界も食材の名前とかは一緒のようだ。
「て事はまずは八百屋さんか」
「やおや!それならこっち!」
「おい、待てよナスターシャ!」
元気に通りに向かって走り出すナスターシャ。俺も彼女くらいの頃はこれくらい元気に走り回っていたのだろうか。
いや、感傷に浸っている場合ではない。既にナスターシャの姿を見失いかけている。
「やべ!」
俺はナスターシャを追いかけて急いで走る。
しかしナスターシャも足が速くて中々追いつくことができない。
「待てナスターシャ!マジで!脇腹が………ッ!」
幾ら呼びかけてもナスターシャが止まる様子はなくドンドン先へと行ってしまう。
「あんのクソガキ!」
もはや俺は半ギレ状態だった。
ナスターシャの方はこの街を理解しているのかもしれないが俺は彼女が頼み綱の状態だ。
だと言うのにあの天真爛漫幼女は事もあろうに俺を置いて歩き出す。
幸い財布はナスターシャが持っているのでおつかいは何とかなるかもしれない。
………彼女がおつかい内容を覚えていたら、だが。
「絶対に逃さねーぞ、ナスターシャ………ッ!」
とにかく捕まえなければならないと俺が更に踏み込もうとしたその時だった。
「捕まえたッス!!」
背中から誰かに腕を回されて頭から地面に叩きつけられる。
これは………そう。ジャーマンスープレックスとか言う技だ。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
頭を抑えながら俺は技をかけてきた奴の顔を確認する。
「て、テメェは!?」
俺はソイツの、彼女の事を、彼女の口調を知っていた。
ラフな格好に指抜きグローブ。綺麗な短い茶髪を靡かせる少女。
「下着泥棒では飽き足らず小さい女の子の追いかけとは本当に救えないッス!」
忘れる訳がない。
俺がこの異世界に来て真っ先に出会った茶髪ショートの褐色少女。
「このソラカゼ・チサト!今度こそお前を許さないッス!」
「ち、違う!誤解だ!」
ソラカゼ・チサトと名乗る少女を前に俺は膝をつきながら弁明する。
「何が誤解ッスか!現行犯ッス!」
「俺、ナトス様に頼まれてあの娘とおつかいに行く途中だったんだよ!」
「悪い奴は皆そう言って言い逃れするんッス!」
「言い逃れじゃねーよ!何ならナトス様に確認………って、今ナトス様お勤めに行ってて居ないんだった!」
「罪から逃げる為に神様の名前を騙るなんて神子として許して置けないッスね………」
「神子?お前神子なの!?」
何ということだ。と言う事は彼女はスライム一匹に魔法で山一つ潰した化け物か?
「命だけはお助けください!」
「殺さないッスよ!?失礼ッスね!」
「あれ?」
俺はチサトの奥を見る。既にナスターシャの姿は見えない。
「あぁ!どうしてくれんだよ!?ナスターシャがいなくなっちまったじゃねーか!」
「まだあの娘を追いかける気ッスか!何人もの年端も行かない女の子を付け狙って何が目的ッスか!」
「スッススッスうるっせーんだよさっきから!イトノコ刑事かテメーは!さっきから言う様に俺はアイツとおつかいに………何人も?」
待て。いきなり話が変わってきたぞ。今彼女何人もって言ったよな?何人もって。
え、待って。もしかしてこれ俺………。
「俺なんかの事件の犯人にされてる感じ?」
「そうッス。お前は今幼女連続ストーカー事件の容疑者としてアタシが捕まえたッス」
「ハァァァァァァァァァァ!?!?!?!?」
◇◆◇◆
現在、俺はソラカゼ・チサトと名乗る少女に連れられて昨日見えていたナトス様の教会とは別の教会にへと連れて来られていた。
「只今パトロールから戻ったッス!」
チサトの声に中にいた者達が反応する。
そして、俺は一つ問いたいことがある。
「ここ、本当に教会?」
教会と言うにはあまりにも酒の匂いが臭すぎる。それどころかスキンヘッドにモヒカン、フェイスペイントにタトゥー、舌ピアスに鼻ピアスと明らかにそっち系のチンピラの方々が俺たちの方を睨みつけている。
「正真正銘の教会ッス。さぁ、早く行くッスよ」
「いや、絶対教会じゃないってここ。世紀末だもん。辺りいったい砂漠化して見えるもん」
「何言ってるんスか。毎日ちゃんと皆で掃除してるッス」
「あれ、本当だ!何だろうスッゲーヤダ!」
このずらっと並んだ怖面共が毎日最後にせっせこと掃除をしている訳だろ?
………ダメだ想像できねぇ。
「よぉ、チサト!今日も張り切ってんな!」
「はいッス!この街の人達の為にも悪は見逃さないッス!」
「兄ちゃんもチサトに会ったのが運の尽きだったなぁ。で、何したんだ?」
「してねーよ!冤罪だわ!」
にしてもこのチンピラども結構親しみやすいな………。あれ?もしかしてコイツ等いい奴らなのか?
「失礼するッス!」
同じ形の教会だからか内装も瓜二つで連れられた場所は昨日ナトス様に応接室の様な場所へと連れられる。
「ガハハ!またスゲェ奴連れてきたなチサト!」
入った瞬間に豪快な笑い声と共に男の声が聞こえてくる。
中に入って見ればそこには半裸の筋肉質の髭オヤジが座って酒を飲んでいた。
「はいッス!幼女連続ストーカー事件の容疑者ッス!」
「あん?」
眉を顰めながら髭オヤジが俺の顔を見るなり再び豪快に笑い出す。
多分この人が神様だろう。名前は確か………ティジェフ!
「ガハハ!その肝の小さそうなボウズが幼女のストーカー?だとしたらナトスも見る目がねーって話だが………。ボウズはどうだ?」
「いや、ずーっと俺は違うと言ってるんですけど!?てか、あの、誰だかは知りませんけどなんで俺がナトス様のところの人間だって分かったんですか!?」
「そりゃあ、神子に恩恵を与える上でワシ等は印を神子に身体に付けるからな。印の力で誰の神子かも分かる」
「何それ!?そこんとこもうちょい詳しく!」
「あの………。じゃあこの人は犯人じゃ………」
「ねーな」
「あの!こっちの話は!?」
ティジェフさんの返答にチサトが顔を青くする。
そしてティジェフさんの方も考え込む様に頭を抑える。
「しかしこりゃ困ったことになった」
「あれ?聞こえてます?おーい」
「このままじゃあウチとナトスんとこの関係が悪くなる。よし、チサト。お前このボウズと協力してこの事件の犯人を捕まえてこい!」
どうしよこの人!いっこもこっちの意見聞いて来ない!
「了解ッス!さぁ!行くッスよ!」
「ちょ、ちょっと待て!俺まだ了承も何も………話聞けやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
神様、ティジェフさんの命令により俺はチサトに半ば強引に引っ張られストーカーを探す事とあいなった。
しかし、何をすればいいのかも分からぬ道中。
とりあえず自己紹介とお互いが名乗る。
「改めて自己紹介ッス!自分はソラカゼ・チサト。ノーサス様の神子をやらせて貰ってるッス!さっきは間違って捕まえてしまってごめんなさいッス」
「あぁ………俺はフジサキ・モモ。ナトス様の神子として昨日転生してきた。え、ノーサス?」
ノーサスって神様の神子はパンチで何でも粉砕する巨漢だったのでは?
このチマ〜ンと言う効果音が似合いそうな褐色娘が巨漢?
「何スか?」
「いや、何でも無い。んで、そのロリコンストーカーを捕まえる前によ、先ずはウチのわんぱく娘を探し出したいんだけど………」
「ふむ………そう言えばあの娘も狙われそうなお年頃ッスね」
いやいや、貴女も狙わそうなお年頃ですよ、なんて言ってはみたいが空気の読めるこの俺はそんなことを言ったりはしない。
「そのナスターシャちゃんの行き場所に何か、手がかりとか無いんスか?」
「手がかり?………あ、多分八百屋だ。おつかいでりんごとキノコ買いに行こうとしてたんだよ」
そう言えば元の目的を忘れるところだった。
「それなら多分ジョージさんの所ッスね。この近くの八百屋さんそこしか無いッスから」
と言うことでチサトの案内のもと、元々の目的地である八百屋さんへとたどり着いた。
人参、牛蒡、大根………。他にも見たことがある野菜が色々と置かれている。
「いらっしゃい、チサトちゃん」
「こんにちわッス。ここにナスターシャちゃん来てませんッスか?」
野菜のようにひょろっとした高身長の緑アフロの男が奥から現れる。
「あぁ!ナスターシャちゃんならちょっと前に尋ねて来たよ。でも何が欲しいのか忘れちゃったみたいで肉屋に行くって言ってたなぁ」
「と言う事はマーモンさんの所ッス!」
チサトが急いで外に出て、俺もジョージさんに頭を下げてチサトを追いかける。
次に訪れた肉屋。様々な肉が置いてある。しかし、どうやら向こうの世界のようにコロッケが売られていたりはしないらしい。
「おぉ!チサトの嬢ちゃんじゃねーか。今日はどうしたんだい?」
今度はジョージさんとは真逆の太っ腹で筋肉質、袖を捲し上げたスキンヘッドの小男だった。
「ナスターシャちゃんを探してるッス。大将さんは何処かで見てないッスか?」
「ナスターシャの嬢ちゃん?外の牧場の方に行っちまったよ。一人じゃあぶねーって言ったんだけどよ………」
外?外って街の?
スライムがウヨウヨいるあの外に?
話を理解した時、俺は嫌な汗が吹き出してすぐさま走り出す。
力が一般人程度の俺が倒せないスライムがいる外に俺より力も弱く武器も持たない彼女が行けばどうなるか、予想は難くない。
幸いとして、ナトス様がくれた剣は腰に携えてある。
「待って下さいッス!」
次第にどう言う状況か飲み込めたのであろうチトセが後ろから追いかけて来て隣に並んでくる。
「何処に行くんスか!」
「牧場に決まってんだろ!ナスターシャが危ねぇ!!」
「牧場は東!反対方向ッス!」
「そう言うのは早く言え!」
すぐさま方向を変えて走り出す。まだ一日も経ってはいないがこの街の通りくらいなら少しは覚えたつもりだ。
まずこのセントラルシティは円形の外壁に囲まれており、外に通じる門が三つ存在する。セントラルシティの真ん中には何処からでも見える城があってそれぞれの門から一直線に城のある中央広場へと通りが繋がっている。その通りの真ん中に三つの教会が存在してそれぞれの教会と教会に繋がる一直線の通りがある。
朝、俺が神様に連れられて出た門はナトス様の教会に近い西側の門。今回は東側の門だからノーサスと言う神様の教会に近い門だ。
「すいません!ここを小さな女の子が通りませんでしたか!?牧場に向かったと思うんですけど」
門に辿り着いた俺は真っ先に門番に話しかける。
「いや、見てないな。そもそも今の時期はスライムが大繁殖してて大人でもそうそう出さないからな………。すまないな」
「そうですか………」
外はスライムが大繁殖していて危険なんてことを神様が知らない訳がない。
俺がいるから大丈夫だとでもおもっていたのだろうか。
とにかく来てないと言うことはまだ街の何処かにはいると言う事だ。
しかし………。
「手がかり、途絶えたッスね」
チサトの言う通りナスターシャを追いかける方法がなくなってしまった。
元来た道を戻りながら俺はどうしたものかと考える。
「あれ?」
そんな時、チサトが何やら不思議そうな声を上げた。
「どうした?」
「何か落ちてるッス」
「あん?」
チサトが指を指す方向を見てみれば確かに何か小さい物が路地の入り口に落ちている。
いや、これは………。
「ナスターシャが持ってった財布………!」
「!?」
何故こんな場所に落ちているのかとか、何かあったならどうして周りの人は気付かなかったのかとか、疑問を挙げればキリがない。
だが、ただ分かる事は目の前の路地は非常に怪しくて調べる価値は十二分にあると言うことだ。
俺は上から漏れ出た光に照らされる路地を生唾を飲んで凝視する。
多分俺は今、心底ビビっている。
「………行きましょう」
そんな俺の心に気付いてなのか、チサトが一歩、また一歩と路地に進んでいく。
「あ、あぁ………!」
そんな彼女を見て震える膝を叩いて俺もチサトの背中を追った。
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