2部
「あ~、酷い目に遭った」
あの後俺は健康的なストレートをくれた少女に平謝りして返上して少女の家から出てきた。
冤罪とは言え不法侵入の下着泥を許してくれるとは何と心の広い少女だろうか。
とにかく先ずは神様に言われた教会へと行くのが最優先だ。
「あの、すいません!」
「へいらっしゃい!何をお買い求めで?」
俺は近くにあった屋台の筋肉ムキムキのスキンヘッド男に声をかける。
「あの、今手持ちがなくて………」
「何だよ客じゃねーのか………。で、何の用だい兄ちゃん。まさか神子様とのケンカを仲裁してくれとかじゃあねーよな?」
不満そうな顔で男が聞き返してくる。
「神子?いや、俺最近ここに来たばっかで………。教会に行きたいんです」
「教会っつってもこの国には三つあるからな………。その教会の御神体の名前は?」
「えっと………」
確か彼女はナトスと名乗っていたか………。
「ナトスです。生死の神ナトス」
「ナトス!?」
俺の答えに男が目を見開いて驚く。
なんだ?ナトスはそんなにダメな単語だったのか?
「兄ちゃんあそこの信者さんかなんかかい?」
「いや、別に信者じゃないですけどちょっと用事がありまして」
「どんな用事から知らねーがやめといた方がいい。あそこの神様はな、喧嘩好きで有名だ。見つかったら一日中喧嘩させられるぜ」
「え、神様いるんですか!?」
「教会なんだから当たり前だろ………。何言ってんだ兄ちゃん」
どうやらこの世界は神様が普通に民衆に認知されている世界観なようだ。
「………ご忠告ありがとうございます。でも俺、やっぱり行かないといけなので」
でなければ家も金もない俺は路頭に迷う事になってしまう。
「まぁ、兄ちゃんがそう言うなら俺はもう止めねぇよ。ナトス様の教会だったな。それならこの道をまっすぐ進めば大通りに出る。そこを左に進めば見えてくるはずだ」
「ご親切にありがとうございます。また今度来ますね、客として」
「おう。客なら大歓迎だ」
挨拶もそこまでに俺は屋台から歩き出して男の指示通りに向かう。
しばらくすれば男の言った通り、大通りに出た。
「確か左に行くんだったよな………」
確かに左を見てみれば大きな建物と石像が遠くにあるのが分かる。
そして右だ。これは完全な好奇心だが俺は右を見る。
「あれ?」
同じような形をした教会だ石像も同じように立っている。
おそらくは残り二つの教会の内の一つだろう。
とにかく俺は自身の好奇心も満たせたので左の方にある教会へと向かう。
結構賑わってるな。
大通りを歩きながらまず初めに感じたのはそれだった。
大通りにはたくさんの屋台が並び、所々には店だってある。そこを歩く人々の中には耳の長い綺麗な人や俺の膝くらいしかないおじさん、他にも人間ではなさそうな人がいる。
俺、本当に異世界に来たんだな………。
異世界に来たと言う事実を今更ながらに噛み締めて俺はようやく教会のある広場へと辿り着く。
教会の扉は開けっぱなしだ。
「あの神様の石像………」
堂々とした立ち姿の石像だ。やはりここだな、と俺は一度生唾を飲んでから教会の中へと一歩足を進める。
そんな時だった。
ドーンッ!!!と、後ろから爆発音が聞こえてきたのだ。
俺は慌てて振り返って状況を確認する。広場に土煙が広がっていた。
「な、なんだ?」
じっと砂煙を観察していると中から大きな影が見えてくる。
まさかモンスター!?逃げないと!
ダメだ。足がすくんで動けない。周りの人達を見てみれば俺と同じで動けていないようだ。
だが俺は少し違和感を抱いた。
確かに皆動いてはいない。しかし別に俺のように足がすくんで動けていないと言った顔色でもない。
どちらかと言えば呆れていると言った顔つきだ。
「帰ったぞー」
間の抜けた声が土煙から聞こえてくる。
俺はもう一度、土煙の中から出てくる大きな影を見る。そして理解した。
あの影は、彼女は、俺をこの世界へと転生させた張本人、生死の神ナトスだった。
そしてよく見てみれば神様は肩に何かを乗せている。
あれは………猪?
「もー!もうちょっと静かに降りて来てくださいよナトス様!」
「全くだ。道を直すこっちの身にもなって欲しいですよ!」
「悪い悪い。あ、それとこれ。仕事で大猪狩って来たから皆で食ってくれ」
そう言いながら神様は肩に乗せていた大きな猪を下ろす。
「おぉ!コイツァいいジビエが作れそうだ」
「猪肉鍋にしようぜ猪肉鍋!」
周りの民主が神様に集まっていきワイワイと騒ぎ出す。
「じゃあ、オメー等後は任せたぜ。オレ様はちょっと用事があるから」
そう言うと神様が民主を掻き分けて出てくると俺の首根っこを引っ掴み引き摺りながら教会へと入っていった。
「よく来たな!歓迎するぜ!」
「痛い痛い痛い!歓迎するなら首根っこ放して!言ってる事とやってる事違いますって!」
「おっと、悪ィ」
引きずられたケツを押さえながら俺は立ち上がる。
教会の中は至って普通の内装だった。縦二列に並んだ幾つもの長椅子に外で見たのと同じような石像。
「ようこそ、オレ様の教会に。フジサキ・モモ、オレ様の神子よ」
そう言って神様が奥へと進んで行き俺も後へと続く。
「あ!お帰りなさいナトス様!」
俺が教会中を見ていると奥から小走りにスカプラリオとか呼ばれるシスターの良く着る衣装を纏ったセミロングの金髪幼女が近付いてくる。
「おう、シスター・ナスターシャ。今日もシスター修行頑張ってるか?」
「うん!今日もね、ナトス様の像に沢山お祈りしたんだよ!後ね!後ね!」
「ストップストップ、ナスターシャ。話なら夕餉の時に聞いてやるからな」
興奮しながら教会あった出来事を述べる幼女の頭を撫でながら神様が奥の扉を開く。
「こっちだ」
神様に誘われるまま奥の扉へと入る。
どうやらこちらは居住区のようでキッチンやら何やらが見て取れる。
後ろからさっきの幼女もついて来ているようで後ろから話しかけられた。
「ねぇ、お前だれ?」
「俺か?俺はフジサキ・モモ。君の神様に招待された者だよ」
「フジサキ・モモ?へんな名前!」
「うっせ」
結構失礼な幼女だな………。
「ナスターシャ。ソイツはオレ様の客だからあんま揶揄ってやるなよ」
「はーい!」
幼女が笑い声をあげてまた教会の方へと走り去っていく。
いやはや、元気なお子さんで………。
ふと、近くの壁にかけられている鏡を見てみればそこにはいつも見慣れた俺の姿。
転生………って言うより転移だな、こりゃ。
一方で神様はもっと奥の部屋に入っていく。そこは応接室で部屋の真ん中に大きな机と長椅子が置いてある。
「まぁ、座れよ」
神様が奥の長椅子に座って俺も手前の長椅子へと座る。
すぐにさっきの幼女とは違う年配のシスターが俺たちの前にコーヒーを置く。
「ありがとう、マリアンヌ」
俺も頭だけ下げて礼をする。すぐさま年配のシスターも俺たちに会釈で返して部屋を出て行った。
神様は一度コーヒーをズズズ、と啜って皿の上に戻す。
「さて、色々話したいことはあるが………先ずはこの世界でのオメーの扱いと能力審査だな」
「え、俺に何か扱いなんてあるんですか?」
「当たりめーだろ」
呆れたようにため息を吐きながらコンコンと何度も机を指で叩く。
「あのな、オメーはオレ様の恩恵を授かった転生者………神子って扱いなんだ。テメーの世界のアニメや漫画みたいに転生したら自由にできる、なんて存在じゃない」
「マジですか………」
「マジマジ」
神様は長椅子から立ち上がると近くの棚に置いてあったあったガラス玉を取り出した。
「んで、これはオメーの能力を測る魔道具だ。おっと、今は触るなよ。今日の宴会でやんだからな」
「宴会ですか………」
「あぁ。大物が獲れたからな」
と言うことは猪肉か………。
「ジュルリラ………」
「涎垂れてんぞ」
「………失敬」
俺は口から垂れた涎を拭きながらとりあえず頭から食べたことのない猪肉を追い出す。
「………とにかく、だ。今オメーが頭に入れておくべきなのはオメーがオレ様の神子で、オレ様の代わりにオレ様の信者の悩みを解決する。そしてこの世界の魔王を誰よりも早く倒してオレ様を最高神にする、この二つ。後は生活していく中で覚えればいい」
神様はそう言いながらガラス玉を持って応接室の扉を開ける。
「それじゃあ、改めて………。ようこそ!オレ様の教会へ!」
◇◆◇◆
教会前の広場。
あれから少しして宴会が始まった。
「さぁオメー等!オレ様の獲って来た大猪。存分に食ってくれ!」
神様の食事の挨拶と共に信者の人達も猪肉鍋に手をつけ始める。
神様の方はさっきあった幼女と何やら話に花を咲かせている。
猪肉。俺は今まで食べたことはないが美味しいのだろうか?涎を垂らしてはいたものの、あれは想像の中の味だ。
ゆっくりと箸で鍋の中の猪肉を皿に乗せて冷ました後に口に入れる。
「あ、美味ェ………」
異世界の食べ物と言うことである程度は覚悟もしていたが結構いけるものだ。
「ほら!兄ちゃんも飲みな!」
何でも肉を口にしていると隣に座って食べている男が俺に飲み物が入ったグラスを差し出してくる。
「あぁ。ありがとうございます」
グラスを受け取って飲み物を飲む。
「!?これ………酒!?」
「なんだ、酒は嫌いか?」
「いや、嫌いって言うか俺未成年で………」
「未成年?兄ちゃん歳は?」
「十九です」
「何だよ、成人じゃねーか!この国じゃあ十六で成人だよ!」
なるほど………。国が違えば成人年齢も違うのは当たり前………なのか?
だが、確かに成人だと言うなら酒を飲んだって何も悪いことはないだろう。
「ならいいか!」
俺はグラスいっぱいの酒を一気に飲み干す。
「お!いい飲みっぷりだな!」
男が勢いよく背中を叩いてくる。
「オメー等盛り上がってるか!」
神様の呼びかけに信者達も歓声を上げる。
「今日は一つオメー等に知らせがある!いい知らせだ」
「知らせ?」
「今日は何かの記念日か?」
それぞれが顔を合わせながら騒めく中、神様が再び喋り出すとまた静まり返る。
「知っての通り今この世界は魔王軍に支配されかけている。街と街の間では魔物達が闊歩し、一部地域では既に支配下に置かれた街もある。一歩街の外に出れば命の危険がある世界。そんな世界を救うために神であるオレ様、ノーサス、ティジェフの三人は神子を連れてくることにした」
神子………。そう言えば転移してすぐに会ったあの男も神子と何とかって言っていたような気がする。
「既にノーサスとティジェフは神子を召喚し、神子の訓練も始めている」
再び周りが騒然となる。
耳をすましてみれば、ノーサスと言う神様の神子はパンチで何でも打ち砕く巨漢だとか、一方のティジェフと言う神様の神子は常にストレスを抱えているのかスライム一匹に魔法で山一つ消滅させた、など何やら恐ろしいセリフが聞こえてきた。
俺をそんなバケモンと同等の扱いしようとしてるのあの痴女神?
引き受けたからにはやるんだけど大丈夫?ガッカリされない?
「だが!オレ様もようやくオレ様に相応しい神子を見つけた!」
既に騒然になっている周りが更に湧き立つ。
「おぉ!」
「遂にウチにも神子様が!」
「キャァァァ!神子様ァ!」
様々な声が上がり神様もうんうんと満足気に頷く。
あぁ、期待が………期待が辛い………。
「フジサキ・モモ!前に出てこい」
神様の呼びかけに腹を括って俺は立ち上がって神様の方へと向かう。
「彼がこの教会の神子………?」
「結構小さいわね………」
神様の前に到着すると身体を皆がいる方に回されて肩を握られる。
「こいつがフジサキ・モモ、オレ様の神子だ。仲良くしてやってくれ」
「えっと………フジサキ・モモです。よろしくお願いします」
喝采は聞こえないが拍手は聞こえてくる。
まぁ、俺あんまりガタイ良くないからガッカリされるのは分かる。
だって他はさっき聞いただけでは殆どバケモンだから。
「よーし。んじゃあ能力検査やっていくか!」
神様がガラス玉を机の紙の上にポンと置いて俺を見る。
「さ、これに手を乗せて力を込めろ」
言われた通りにガラス玉に手を乗せて力を込める。
ビビッと、静電気のような痛みが掌を通ってガラス玉がゆっくり光って行く。その光が紙全体に広がっていき、文字が紙に刻まれていく。
「もういいぞ。どれどれ………」
どう言う原理なんだ………?なんて野暮な質問は俺はしない。何故ならここは魔法がある異世界………!ガラス玉が光ったり、その光が文字を刻んだとしても何ら不思議ではない。
「………いや、やっぱおかしいよ」
「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!」
一人でツッコんでいると光で書かれた紙を見ながらゲラゲラと笑う神様。
「あの………どうしました?」
「ヒヒッ………いや〜、これこれ!オメー、マジで取り柄とかねーのな」
神様が手渡して来た紙を俺は受け取って確認する。
《生命力》SSS《筋力》C《魔力》C
三つの単語と三つのアルファベット。こんなのを見せられたところで何なのかを俺がわかるわけもない。
厳密に言えばこれがステータスだと言うのは何となく分かるのだがどう言う判定なのかがよくわからない。
「これ、どう見るんですか?」
「あ?あぁ、そうか。そりゃ教えねーと見れねぇわな。………っと、それは後で教えてやるよ」
神様は俺から紙を取っていき声を上げる。
「オメー等!結果は後で教会の連絡板に貼っておく!時間がある時に確認してくれ!それじゃあオレ様コイツとちょっと話があるから」
行くぞ、と神様が教会に入っていき俺も着いていく。入ってすぐの並べられた長椅子に神様がドカッと座って俺にも隣に座るように促してくる。
言う通りに隣に座ると神様が再び紙を俺に手渡してくる。
「さっきの話しの続きだけどよ。この単語の方は見ての通りだ。オメーの生命力と筋力、魔力を測れる」
「それ、どう言う原理ですか………?」
「原理ってオメー………もしかしていちいち原理とか聞くタチか?」
「まぁ………数学とかも何でそう言う式になるのか知りたい方でしたけど」
神様が呆れたようにため息を吐く。
「簡単に言えば元々これは生命力を測る魔道具だったんだよ。でもそれに別の項目を計らせたいなってなったラッセンディルって貴族が魔力を一定量吸い取る構造と加えられた力加減で筋力を測る構造を発明、取り入れた」
う〜む………、つまりは構造を考えて取り入れることができたラッセンディルって人が凄いって話か………。
「んで、話を戻すけどアルファベットって言うのはまぁ、評価値の話だ。大体はF、E、D、C、B、A、Sの間で評価されてCが平均だ。つまりオメーは一般人くらいの力しかないってことだな!」
笑顔で言ってのける神様。
神様はそれで良いのか?他の教会はバケモンみたいな力があるのに俺はそこ等辺の村人Aみたいな力しかない。
絶対に魔王も倒せないし、下手したら死んじまうよ………。
「あぁ、それに関しては大丈夫だ。時折マジで才能があるSSやSSSって奴も出てくるんだけどオレ様の恩恵で生命力をそれにしてやったから」
「ナチュラルに心読んで返事するのやめてもらえます?」
「悪い悪い。だがま、おかげでオメーは不死と言っていい程の生命力になってる。つーか、もう不死だ」
「これだけでそこまで分かること何ですか?」
「オレ様がやった恩恵だせ?そんくらいあるに決まってんだろ」
何じゃそれは………。
………しかし、不死と言ってもいい生命力、と言うより不死ならばそれはそれでチートではないだろうか?極端に言えば敵を倒すまで突撃すればいいのだから。
「でもそれでも結局攻撃が通らなきゃ意味がないじゃないですか………。明日にはきっと信者の皆もガッカリしますよ。死なないだけでそれ以外は普通の人ですし」
戦えないスキルとかだったら使えないとかの理由で追い出される。追放系でよく見る展開だ。
「あぁ?」
俺の言葉に神様は青筋を立てながら俺を睨む。
「な、なんスか………?」
「オメーよぉ、オレ様の信者舐めんなよ?」
長椅子から立ち上がると自身の石像に向かって歩き出す。
「オレ様の信者は大半が街の市民だ。オメーと同じくらいの評価かそれ以下の奴だっている。………誰もオメーを笑ったりはしねーよ」
「………………」
ニカッと笑いながらこちらに振り返る。
絶対に嘘だ。俺は騙されたりなんてしない。人間は自分より下の奴を見れば馬鹿にするし差別する生き物だ。
………でも何故だろうか。目の前の痴女とも言っていい様な姿の神様が、夜だと言うのに後光が差し掛かって見える。
………少しは信用してもいいのかな?
「少なくともオレ様はオメーを受け入れる。モモ、オレ様の目的の為に協力してくれるか?」
俺は石像の前で、石像と同じ様に堂々と佇む神様、ナトス様を長椅子から立ち上がって真正面で膝を突く。
「それがナトス様の願いならば」
完全に信じることはまだ無いだろう。それでも今はナトス様とその信者達を信じようと思う。
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