神様から貰った力が不死だった件
@yamadasmith
一章
1部
キィィィィィ、ドン!
何度目だろうか、こうやって主人公がトラックに跳ねられて異世界に転生する物語を読むのは………。
もういいよ。いい加減別の方法で異世界に行けよ。今までそうやって何人のトラックの運転手が犠牲になったんだよ。
そう思っていた。
なのに………………………。
「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!!やっべ、腹痛ェ!あんだけ文句言って自分がトラックに轢かれて死んでやんの!」
藤崎百、和歌山出身の十九歳大学一年生。生前は有名な都内の公立大学へと進学し、将来は有田にある実家のミカン畑を継いで世界一にしたであろう前途有望な青年、の筈だった。
「あぁ!なーんであんな事しちゃったかなぁ、も〜」
大学への道すがら信号を待っているとふと、子猫が目に入ってしまった。
当然そこは赤信号で車が行き交う危険地帯。
周りの人間はスマホに目がいってるのか気づかない様子。
そして次に目に入ったのはご都合展開のように猫に向かって走ってくるトラック。
………このままじゃあの子猫は間違いなく死ぬな。
知らぬ間に足が動いた。
走って子猫を抱き上げる。最早衝突する事は免れない。
だから俺は子猫を身体で覆った。少なくとも子猫への衝撃を緩和できる。
運が良ければ俺も子猫も助かる。
「なんて思ってましたよ!無理でしたけど!」
「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!」
子猫が無事に逃げて行ったのは分かったがそのまま気を失って気付けばこの真っ白な空間にいたわけである。
………ところで、だ。
「あの………先ほどからずーっと笑っていらっしゃる貴女様はいったいどちらの誰さんで?」
この空間に来てからずっと笑っている彼女だ。
サラシにダメージジーンズと言う何ともラフな格好に目立つ赤い長髪。
彼女の笑い声となじりに反応してさっきから出来事を思い出していたがそう言えば彼女は誰なのだろうか?
「あん?オレ様はナトス。あれだ、神だよ神」
「はぁ………」
どうやらナトスと名乗った彼女は厨二病痴女だったようだ。
「誰が厨二病痴女だよ」
「あれ!?口に出てた!?」
「出てねーよ。オレ様がオメーの心を読んだんだ」
そう言う厨二病痴女に俺はある事を試してみる事にする。
俺が考えた事を何をしたいか含めて言い当てれば彼女は心が本当に読めるという事だ。
……………正直言ってオレっ娘お姉さんめっちゃ性癖です。結婚前提に付き合ってください!
「え?結婚?ヤダよ。オレ様、オレ様より強い奴としか結婚しねーから」
「……………」
俺は言葉も出せずに目を丸くする。
どうやら本当に心が読めるらしい。
「分かりました。一先ず貴方が神様だって信じます」
「そうか。良かった」
痴女の神様が俺に近づきながら何度も頷く。
「オメーは死んだ」
「………………」
別に驚きはしない。何となくわかっていた事だ。
「本来なら死んだらそっちの世界の閻魔のヤローに直行なんだけどよぉ、オメーに聞きてー事があるからここに呼んだ」
痴女が目の前に現れた席にドカッと座って俺を見据える。
「き、聞きたいこと?」
「あぁ」
俺の後ろにもいつの間にか席が現れたのを確認して警戒しながら俺も座る。
「オメー、何で猫助けた?野良猫なんざ、死んでまで助ける意味が分からねー」
「……………心を読めばわかるでしょ」
「何でもかんでもそれで解決してたらつまんねーだろうが!オレ様はオメーの言葉で聞きてーんだよ!」
足をジタバタさせながら暴れる痴女神様。最早大人の赤ん坊と言っても良いだろう。
諦めて俺は口を開く。
「目の前で死なれたら後味悪いでしょ。見殺しにしたわけだし」
痴女神様が目を丸くして黙ってしまう。
………え、何この沈黙?俺なんかおかしなこと言ったか?
妙な沈黙の後に痴女神様が吹き出して再びゲラゲラと笑い出す。
「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!オメーはどんだけオレ様を笑い殺させる気だぁ?」
本当に失敬な女だ。この痴女が本当に神様なのか?
神様抜いて痴女でもいいと思えてきた。
「言っとくけど、さっきから考えてること筒抜けだからな?オレ様は痴女じゃねー!」
「あ、はい。すいません」
キレ気味に俺の胸ぐらを掴んでくる。
なるほど。どうやら彼女は結構短気なようだ。
短気な痴女お姉様、素敵です。
「よーし、今度痴女考えたら短気だからぶっ飛ばすぞ」
「ま、まぁ本題に戻りましょうよ!俺ってこの後どうなっちゃうんですか?閻魔様のところに逆送還されちゃうんですかね?」
ぶっ飛ばされたくはないため俺は話題を逸らす。
「あぁ!そーだそーだ!オレ様オメーの事気に入ったからよ、転生させてやる!」
「転生………!?」
転生と言えばあれか?トラックに轢かれて気付けば異世界の神様の目の前で、チートスキルとか貰えて最強になって「俺また何かしちゃいましたか?」とか言うあの!?
「興奮してるとこ悪いけどオレ様、オメーに与えられるのは恩恵だけだ」
「恩恵?」
「そうだ。今回オメーを転生するのには理由があってな、実は最近オレ様を含めて何人かの神で受け持っていた世界に魔王が現れたんだよ。だからそれぞれで一人気に入った人間を自身の恩恵を授けて転生させようってなったんだ」
「はぁ………」
「で、恩恵って言うのはそれぞれの神の得意とする物を与えるんだ。オレ様は生死の神だからオメーには生死に関する恩恵が与えられる」
なるほど………。つまりはチートスキルみたいなのを選ぶ事はできないと言うことか………。
「でだ、丁度オレ様達を束ねる最高神の座も最近開いたばっかだし選んだ転生者に魔王討伐を競わせて一番早かった転生者を選んだ神を最高神にしようって事になったんだ」
「つまり神様はその最高神って奴になりたいんですか?」
「まぁな。色々あるんだよオレ様にも………」
俺は顎に手を添えて考える。
確かに素敵な申し出ではある。どうせ断ったって死んでいる以上行くのは天国か地獄だ。
「で、オメーの答えは?」
「………わかりました。その申し出を受けましょう」
「よっしゃ!」
俺の答えに神様は勢いよく立ち上がって自身の座っていた椅子蹴り飛ばすと床から魔法陣が現れる。
「うぉ!?魔法陣!」
「眩しければ目ェ閉じてな!今からオレ様達の世界に送ってやる!」
と、言われても初めて見る魔法だ。眩しかろうが目を開けてしっかり見る。
「おぉ?おぉ………!」
初めて見る魔法に最早感動すら覚えてしまう。
輝きながら円を描き中に紋様がスラスラと描かれていく。
「良いか!目ェ覚めたら先ずは教会に行けよ!マッチョの像とかガリメガネの像じゃなくってちゃんとオレ様の像がある教会だぞ!」
「はい!」
神様の言葉に俺は頷きながら一歩、前に進んで魔法陣の中へと入る。
「それじゃあいくぜ!」
さらに魔法陣が輝きを増して俺の視界は真っ白になっていく。
流石に眩しかったので俺は目を塞いで腕で光を遮る。
◇◆◇◆
身体に風があたる感触がする。
チュンチュンと鳥の囀りが聞こえる。
「転生は………成功したのか?」
辺りを見ながら現状を確認する。
世界観的には中世ヨーロッパ辺りだろうか。石造りの建物が目立つ。
向こうのほうには大きな城も見える。
服装は質素な白いシャツと黒いズボン。
そして俺の頭にある違和感。これは………。
「スポーツブラ………?」
中世ヨーロッパ風景に相応しくない現代のスポーツブラ。そしてヒシヒシと感じる後ろの視線。
そこにいたのは怒りなのか恥ずかしさなのか、いや多分両方が入り混じった、顔を真っ赤に染めた茶髪ショートの褐色少女。
「し、下着を返せっス!」
「あのアホ痴女神ィィィィィィ!!!」
俺の異世界転生生活は健康的なストレートと強烈な痛みと共に幕を開けるのだった。
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