第9話「使役」

 翌日、報告が終わって旅経つ私達は街の市場で食料を集めていました。歩いていると、街中が妙な話で盛り上がっています。


「聞いたか…。森でウルフが大量に死んでいたらしいぞ」


「ああ、憲兵の知り合いも言ってたよ。しかも血が全部抜かれて干からびてたんだとよ」


「ひぃ~こわ。スライムはウルフを倒せるような魔物じゃないし、新種の魔物かな…」


「午後には上級クラスの冒険者に捜査依頼が出るらしい」


 そんな話で持ち切りでした。


「ふあぁ…あっ。すみません」


 私は油断してあくびをしてしまいました。


「寝不足かアンジェリカ?昨日、夜遅くまで本読んでたろ。便所行く時、部屋からろうそくの明かりが見えてたよ。」


「ふむ。勉強熱心は良いですが、休むことも大事ですぞ」


「す、すみません。宿に興味深い本があってついつい夜更かしを…」


 また、私は嘘をついた。最近、私はみんなに本当の話より嘘をつく数のほうが増えてきている気がします。


 昨夜のこと。私は深淵竜の魔導書の1ページが読めるようになったことに気づいたのです。文字は知らないはずなのに、勝手に頭が理解する。


「魔物の血をすすり…魂を縛り使役すること…?」


 自然と目の前に右手を伸ばすと、そこに私が血をすすったウルフが闇の塊で造られたかのような姿で現れたのです。


「ひぃっ!?こ…これが魔導書の力…?お…おすわり」


 ちょこんとウルフは座りました。


「わぁ…真っ黒でもふもふ…。もふたって名前にしよう」


 この力があれば、私は戦えるはず。でも、みんなにどう説明すればいいのかわかりません。しばらくは検討です。そしてまた、あの血の空腹感がやってきたのです。


「ぐ…うっ……。召喚すると血を消費するんだ…?」


 私は何を食べても満たされないため我慢できず、短刀を持って深夜に森へ行ったのでした。


「もふた、出ておいで。」


 もふたは森に入ると、まるで感覚が私と共有されているかのように状況が頭に送られてくるのです。


「まず一匹目…見つけた」


 もふたがウルフを追い回し、私の前に追い込んで、それを私がとどめを刺す。


「じゅる…ごくっ…あっ~おいしっ」


 脳が焼ききれるような快楽に、身体が打ち震えるのです。


 1匹飲み終えれば、また1匹。それを繰り替えす。


 そして散り散りになったウルフをもふたと共に追いかけまわし、一晩中八つ裂きにして回ったのでした。


「げふ…ごちそうさまでした」


 血を吸いつくし、魂を私に縛りつけて、気が付けば日が昇る直前。私はまた血だらけになっていました。でも、もう不思議と抵抗感はありませんでした。私は、私の力で魔獣を倒せた。


「あは…アハハ…」


 幸福感と達成感。最高の気分でした。あのお店に感謝しなきゃ。


 私は拠点の街へ戻る前にお店に挨拶しようと探したのですが、路地裏には通った扉は無く、見つけられませんでした。


「備蓄もオッケー、装備もオッケー、体力気力もオッケー!みんな、拠点へ帰るぞ!」


「ここから3日程度か。まずは1日馬車で最初の街まで行くが、何か依頼があれば受けるか?」


「あ~、そうだな。今回の報酬で路銀どころか生活資金はあと数年は困らないけど、遊び暮らしは性に合わないからな。受けようぜ」


「そうそう!生涯冒険ってのがこのパーティの基本なんだから!」


「困った人がいたら、助けましょう!」


「おう!雪山で突き落とされたり、川に落ちていたりする人がいるかもしれないからな!」


「ルーカスさん!!!」


 私達は笑いながら馬車のところまで来たところです。馬達がずいぶんと落ち着かないようで、運び手が皆苦労して宥めているようでした。


「あの、どうしました?」


「ああ、すまない。もう少しで出発だというのに急に馬達が荒れ始めてな。こんなこと今までなかったのに。何かにおびえているような…」


「昨日森でウルフの大量死があったからだろうな。動物ってのはそういうのに敏感なんだろ」


「すまないが、今日は出せそうにない…。金は返すから、あとから追いつく形でもいいかい?半日もあれば落ち着くと思うんだ。」


「いいよ。追いついたら全額渡すようにする。ってことでみんな、徒歩だ!」


「「「は~~~い」」」


 こうして私達は徒歩で聖王都から出たのでした。

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