ハッピーエンドは何処に在る?

 敦が太宰の部屋で使った掃除機を仕舞っていると、ぽんと肩に手が置かれた。振り返れば太宰が笑顔で立っている。

「あーつーしーくーん♡」

 太宰の手にはゲームソフトのパッケージがあった。敦は孤児院育ちなのでテレビゲームの類には疎い。何かアニメ風の可愛い女の子がいっぱい描かれているなあ、くらいの感想しか出てこない。太宰は敦にソフトを渡した。

「これは昔買った恋愛シミュレーションゲーム。

 でもどの女の子も誰も私と心中してくれないんだよ。ひどくない? みんな私と結婚しちゃうんだ」

「ええと、少なくとも恋愛ゲームで心中がハッピーエンドになるものは無いと思います」

 ひどく真っ当な答えだが、太宰は笑うと人差し指を立てた。

「というわけで敦君の初体験! 恋愛シミュレーションをやってみよう!」

 太宰がいそいそとテレビにゲーム機を接続すると、敦から受け取ったソフトを入れた。敦が座るとコントローラを渡される。太宰から大雑把に操作方法を教わると画面を見つめた。

 しばらくメッセージ送りをしてゲームを進めていくと、画面に一人の女の子が現れた。よく見れば選択肢が二つ表示されている。『一人で帰る』か『二人で帰ろうと声をかける』かだ。

「さあ運命の分かれ道だ。敦君はどっちを選ぶ?」

「ええと……恋愛ゲームならこういう時は『二人で帰る』ですよね」

 敦がその選択肢を選ぶと、女の子からの好感度ゲージががくんと減った。

「ええっなんで!?」

 その後も敦は見事にハズレの選択肢を選び続け、どの女の子にも振られ続けた。酷い時には横から割って入った女の子にナイフで刺されることもあった。

「うわ~、私の知らないエンディングばっかり出てくる」

 太宰が興味深げに画面を見つめている。敦が涙目になりながら「もう心が折れそうなのでやめていいですか」と云えば、太宰はゲーム機の電源を落とした。

「あ~面白かった。君は本当に期待を裏切らないよねえ」

「太宰さんってば酷いですよお」

「別にいいじゃない」と太宰は笑う。「現実では私を落とせたんだからさ」

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