明日の約束

 深夜。敦と太宰はコンビニに来ていた。偶然二人揃って空腹で目が覚めたので、一寸した夜食を買いに来たのだ。

 財布を持っている太宰が敦の持つ籠を覗き込む。

「敦君はポテチとコーラでいいの? アイスも食べない?」

「えっ、いいんですか」

「いいよ。その代わりに七百円くじ引いてくれたらね」

 その台詞に敦はまたか、と苦笑する。何故か太宰は必ず敦に七百円くじを引かせるのだ。曰く、「死にたいと思っているのに毎度失敗する私と、私に拾われて武装探偵社に入れた敦君の運の良さは月とスッポン。比べ物にならない。だから敦君が引けば絶対当たる」という事らしい。実際に敦は云われるままくじを引いて外れた事はない。だいたい太宰の喜ぶものが当たるので、敦は最近これも何かの異能力ではないのかと疑い始めているくらいだ。

 レジに商品を持っていくと、予想通り七百円くじの箱が出された。太宰が敦を急かすように肘でつつく。敦は、お酒でも当たればこの人は喜ぶかな、なんて思いつつ箱に手を突っ込む。そうして手に当たった最初のくじを引っ張り出す。その場で開いてみると、缶ビールが一本当たった。店員が「おめでとうございます」と笑う。太宰は諸手を挙げて喜ぶ勢いだ。

「やった! ありがとう敦君!」

「これぐらいなら幾らでも」

 そして精算を済ませると二人は商品と景品を手に帰路を辿る。辺りに漂う夏の終わりかけの空気はぬるい。道には街灯の光もあって、歩くのに困らないくらいは明るい。

 歩道を歩きながらまばらに行き交う車たちを眺めやる。そう云えば、と敦は手にしたレジ袋をガサガサやった。

「太宰さんの買ったのってワンカップとカップ麺でしたよね。ビールも飲むんですか?」

 それを聞いた太宰は嬉しそうに笑うと、「そうだねぇ」とズボンのポケットに手を突っ込む。そのまま夜空を見上げると、こう答えた。

「ビールは明日の楽しみにしておくよ」

 それを聞いて敦は何故かとても胸が満たされる想いがした。だって、日々自殺を試みるこの人が、明日の事を云うから。

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