もう諦めて欲しい

 敦が武装探偵社に入社して二年ほどが経つ。身の回りもだいぶ落ち着いてきたので鏡花との同居をやめて、二人は寮の部屋で別々に一人暮らしをするようになった。

 そんな敦の最近の困り事と云えば。

「宅配便でーす」

 その声に敦は玄関を開けて荷物を受け取る。少し重い。見ればよく知った通販サイトの箱だ。しかし何かを頼んだ覚えはない。はあ、とひとつ溜息をつくと、部屋の中に戻って箱を卓袱台の上に置く。

「太宰さんってば、また僕んちを届け先に設定したな……」

 そう。これは今に始まったことではない。

「だって寝てる時に荷物持って来られたら受け取れないじゃない」というのが太宰の言い分だ。時間指定するなりなんなりすればいいだろうと敦は言ったが、太宰は「やだ。めんどくさい」の一言で敦の家を荷物の届け先にしている。

「こんにちはー、敦君。邪魔するよー」

 そこへ太宰が部屋に入ってくる。いつの間にやら合鍵を作られてしまったので、それにも文句を云ったのだが聞いてもらえなかった。

「丁度良かった。太宰さん、また何か届いてますよ」

 呆れ顔で箱を指差すと、太宰は笑った。

「あ、こないだ頼んだアレかな」

 太宰が嬉しそうな顔で梱包のガムテープを剥がす。ガサガサやっていると思ったら、箱の中からは七輪と太めのロープが出てきた。卓袱台の上に並べて視線を動かしている。

「うーん、敦君と心中するならやっぱり首吊りより練炭かな?」

「太宰さん、もう自殺とか心中とかやめましょうよ」

 げんなりした顔で敦は云う。この二人は恋仲だが、太宰は一向に心中を諦めてくれない。

「ええ~? だって心中で同時に死ねば片方が片方を置いていくなんてことが起きないのだよ?」

 その昔に太宰を置いて死んでいった男の話は、当人から聞いたことがある。だからこそ。敦は顔を引き締めて太宰をぎゅっと抱き締めた。

「僕は太宰さんを置いて死にませんから」

「……それだと私があの世で寂しい」

「じゃあ、二人で長生きしましょう。この世で二人で出来ること、全部やってからでも遅くはないですよ」

 その言葉に、敦の耳を嬉しそうな太宰の笑い声が擽った。

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