冬の過ごし方
今日の敦と太宰は、家電量販店に暖房器具を見に来ていた。秋も深まったので、朝晩など肌寒い時があるのだ。
「あ、太宰さん。炬燵がありますよ」
敦が指差すのは二人で向かい合わせに入るとちょうどよさそうなサイズの炬燵。うーん、と太宰は顎に手をやる。
「いいと思うんだけど、これ買ったら最後、私はトイレに立つのも面倒になりそうな気がする」
「確かに……」
炬燵に入ったままの太宰が「もうずっとここにいたい」などと云うのが、敦には容易に想像できた。これは却下だ。
「じゃあ電気毛布や電気あんかは?」
「布団に入る時は敦君の体温が高いからいらないかなぁ」
それを聞いて敦は少し顔を赤らめてしまう。一方太宰は真剣に暖房器具を見ている。二人で売り場をゆっくり歩きながら見ていく。
「あ、石油ストーブ。これ良いんじゃない?」
「そうですね。朝はエアコンが効くまで布団から出にくくなりますから」
そこまで云って敦は孤児院時代の凍える冬の朝を思い出す。起床喇叭が鳴ったら、どんなに寒かろうが布団から出なければならなかった。あんなのはもう御免だ。
太宰は恍惚とした笑みで石油ストーブを見つめている。
「不完全燃焼を起こしたら敦君と心中でき」
「やめましょう」
太宰の言葉の途中で敦が制止に入る。寝たまま二人で一酸化炭素中毒死なんて、太宰は喜ぶだろうが敦は御免こうむりたいのが本音だ。それならまだ、寒い寒いと云いながら二人して布団の中で抱き合っている方が全然良い。
「えー? じゃあどうするの?」
「今日のところは帰りましょう」
敦が太宰の手を引いて店から出ようとする。
「帰りに買い物をして、今日はおでんでも作りましょうか」
それを聞いて太宰の顔がほころぶ。
「あ、いいねえ。それだったら日本酒も欲しいな」
「いいですよ。でも飲みすぎないで下さいね」
「なんだか敦君はお母さんみたいだなあ」
「誰がお母さんですかっ」
二人はやいやい云い合いながら街を歩いていく。その二人の背で銀杏の黄色く色付いた葉がはらりと一枚、音もなく散り落ちていった。
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