第23話 新しい武器
──僕はフジヤマ魔王の必殺技『デストルネードダークニードル』に臆することもなく、両手を水平にし、ごく自然体で迎え撃つ。
『ギュルルルルー!』
高速回転しながらも、確実に僕の心臓を狙ってるのが分かる。
「なっ、何のつもりなのさ!?」
「まさか、あの攻撃を正面から受け止めるつもりですか。そんなことをしたら……」
「ガイアの馬鹿、避けないと死ぬぞー!」
ああ、ちゃんと存じてるよ。
恐らくアレは即死級の必殺技でもあり、まともに食らったらゲームオーバーだろう。
だけど一番の弱点ができる場所でもあるんだ。
「フハハハッ、この技を放った以上、もう勢いは止まらない。自殺願望か、何か知らんが、潔く串刺しになれっ!」
「馬鹿野郎、這ってでもいいからかわせー!」
さっきからノーツがとんでもないことを叫ぶが、僕の足は恐怖と好奇心が入り混じり、思うように動かない。
そこへフジヤマの技と緊迫した空気が目と鼻の先に迫る。
『ギュルルルルー……ドコーン!』
「ガイアー!」
──ガイアが技を食らい、受け身すらも取らず、まともに攻撃を受けたまま、牛舎の小屋の方へと吹き飛ばされる。
そこから聞こえてくるのは興奮する牛の声だけでガイアの面白そうな悲鳴すらもない。
「フフフッ。呆気ない幕切れだったな。勇者よ」
「ガイア、こんな非情時に何をしでかすんだよ……」
「さてと勇者は生涯を終えたし、あとはここにいる雑魚共を片付けるだけ。強者は弱者を支配するという名言通り、実に美味しい仕事内容ではないか」
ガイアの助けを諦め、ノーツが腰にあったアサルトダガーを構えて、ウェンを守るように前に立つ。
基本、刺した相手を一撃で倒せる、暗殺の特殊能力もある武器であるが、自分よりも弱い敵じゃないと発動すらもない。
よってこれは普通のダガーを持ったただの牽制である。
「いえ、ここは私が。フジヤマ魔王様が直接お相手するような敵でもありません」
「何だ、ルナよ。久々の戦闘に心が疼いているのか?」
「疼くというか、初めてのボス戦のような懐かしい感じでしょうか」
──回復系や補助魔法を得意とするプリーストでもあるルナが、前線に立って戦うのが意外だった。
弱そうに見えて、あの子には強力な武器とか、何か秘められた力があるとか?
「そうですよ、フジヤマさん。ルナの言う通り、油断したら駄目ですよ。すぐに反撃をしない様子から、相手が何らかの策を持ってるのは間違いないからです」
そのステラもルナと同様に用心深くなり、ルナの隣に並ぶ。
周囲を警戒してか、よく磨かれた樫の杖をこちらに突き付けて、無言で杖を握り締めていた。
『──キイイイイイーンー!』
──そこへ耳がおかしくなりそうなハウリングのキンキン音が周りを反響させる。
続いて牛舎の屋根から眩しい光が漏れ出し、小屋に居た牛たちがロデオのように激しく暴れる音がした。
『ドコオオオオーン!』
光のオーラの上昇で一気に吹き飛ぶ藁葺屋根の天井と地上に繋がっている大穴。
その穴から漏れる眩しい光と同時にガイアが宙から飛び降りてきた。
「──あのねえ、あまり僕を困らせないでくれないかな」
「なっ、俺の必殺技の直撃を受けても戦闘不能にならないとは!?」
まるで天から舞い降りた天使のように地に足を下ろしたガイア。
あの強力な技を素手でガードしたと言うのか。
「だったら二発目も試してみれば? 見た感じだとMPを気にする必要もないだろ」
「くっ、ふざけたマネを。だったらお望み通り、ここからお前の心臓を突き刺してやろう」
「ああ、できるものならな」
一撃必殺の技で倒せなかったことを根に持ったのか、ガイアの挑発をいとも簡単にくみ取るフジヤマ。
「いくぞ!」
迷うことなく、フジヤマが前傾姿勢となり、鋭い剣先を向ける。
『デストルネードダークニードル!』
『ギュルルルルー!』
風を切るような回転音がガイアの耳にも届く。
でもガイアは避ける素振りもない。
それどころか、危険な剣相手に両手を前に出した。
「ガイア、だから正面から受け止めるな! 馬鹿は命を亡くしても馬鹿のままなんだぞ!」
ノーツが馬鹿ばかり叫ぶが、当の本人は言うことを聞こうともしない。
「ギュルルルル……ドガッ!」
「フッ、どうやっても勝てない相手に立ち向かい、最期を求めるとは愉快なものだ」
フジヤマの剣技の回転が急に止まり、傷ついたガイアの左胸で寸止めしていた。
いくらガイアが弱くてもあっさりと倒しても面白くない。
フジヤマはガイアの体を貫く前に反撃してくるのをずっと待っていたのだ。
「勇者ガイア、勇敢なのは良いことだが、時にその無謀な判断がこうやって無駄に命を散らすことになるのだぞ」
「まさに無駄死にとはこのことだ」
──チャンスをふいにしたなと口ずさみ、フジヤマが剣を一度離して、弱い者への情けからか、今度は技も使わず、力任せにそのまま突きを入れる。
今はウェンとやらの補助魔法すらもかかっていないのだ。
これなら普通に攻撃してもやすやすと命は奪えるだろうと……。
「……そいつはどうかな」
「ガイア!?」
ガイアがクワッと目を見開いて、左胸に重ねていた薄い物を光らせる。
「ちょっとばかり焦ったけど、僕の敵じゃないことは確かだよ」
よく見るとフジヤマの攻撃した剣の先が黄金のカードで防がれていた。
「何だ、その名刺のようなアイテムは?」
「ああ、これが鍛冶屋で完成した僕の新しい武器、ゴールドウエポンカードさ」
「はあ? そんな紙切れがか!?」
フジヤマが信じられない顔でそのカードを細目で見つめる。
そうだよね、ステータス画面を通じて、どこから視点を変えても普通のクレジットカードみたいだよね。
僕も初めはその変わりように驚いたよ。
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