第22話 反撃の狼煙を上げる

 ──所々に亀裂がある洞穴から体を起こすフジヤマ魔王。

 黒い甲冑は土で薄汚れただけで傷一つない。

 すぐ横にはルナがいて、俺の体に回復魔法をかけている最中だった。


「すまないな、ルナ」

「いえ、私はフジヤマ魔王様にお仕えする身ですので。このくらいどうってことはないですよ」


 戦士から前魔王の力で魔王へと称号を変え、数ある冒険者と剣を交えてきたが、このような痛手を受けたのは初めてだった。

 モクモクと吹き出す砂塵で周囲が見渡せないが、それは勇者側も同じだろう。


「しかし例の二人組がいても、追撃には来ないな。そんな軽薄な女連中に見えなかったけどな」

「フジヤマ魔王様、その件なら問題ありません。ステラが防壁魔法でこの周囲を覆いましたので。並大抵の者でも崩れない強力な障壁でもあります」

「なるほど。勇者程度の実力でも無理ときたか」

「レベル5程度の勇者なら尚更なおさらかと」


 俺は拳同士を軽くぶつけ、向こうの様子を確かめる。

 パラディンと魔法戦士の実力で破壊できるバリアではないが、まだ鍛冶屋に居る勇者と手合わせしていないのも事実。


 だったら攻撃の構えは外さない方がいい。   

 俺は体勢は変えず、見えない壁を前に苦戦している二人の女性に目をやった。


 確かノーツにウェンと親しく名前を呼び合っていたな。

 勇者には悪いが、両者とも美人系でいい女だったし、しかも腕は立つようだし、俺の配下に加えるという手もあるだろう。


 ルナとステラが猛反対しそうだが、これで俺の集団も闇ギルドの定員パーティーのように5人となる。


 女ばかりというハーレム設定でいささか不満な組み合わせだが、元から強すぎて頼もしい野郎とか期待もしてないし、世界を占拠して渡り歩くのに、この先、女性の助言も必要となってくるだろう。


「それにはアイツ……勇者の存在が邪魔だ」


 俺は上空に剣を立てて、体から次々と溢れ出る瘴気を剣先に集めていく。


「あっ、フジヤマさん、こんな地底の場所から、その強大な必殺技の使用はあまりにも……」

「心配性だな、ステラ。仮に反動で障壁や洞穴が壊れてもステラの実力なら、秒単位でバリアを貼り直せるだろう?」

「でも、その瞬間に間合いを取られたらどうするの……?」

「いや、その時には俺の技で粉砕してるさ」


 それに自身が秘めていた俺を吹き飛ばすほどの大技を見せてきたんだ。

 大技で来たら、同じく大技で返す。

 きちんとした礼儀は必要さ。


「いくぞ、そのひ弱で乙女な体格で無事に事が済むかな」


 俺は一歩下がり、ターゲット二人に目がけて強烈な突きの攻撃を放つ。


『デストルネードダークニードル!』

『ギュルルルルー!』


 俺は女だからと情けをかけずに、急速回転した突きの攻撃を繰り出した──。


****


「──うーん、これは思った以上に頑丈な障壁ですわね」

『ギュルルルルー!』


 ──ウェン様がペタペタと透明な障壁を触っている最中、何かの回転音がこの壁に接近してくる。


「いかん、ウェン様、危なーい!」

「きゃっ!?」


 ワタクシは条件反射でウェン様の腕を強引に引っ張り、強烈なドリルの攻撃を飛翔魔法で大きく飛び越えた。


『ドコオオオオオオーン!』


 フジヤマ魔王が空振りした技が、近くの魔物が住む藁葺屋根を円状に削って吹き飛ばし、天井に地上に繋がる穴を開ける。

 その破壊力からして、いかに強力な技ということを思い知る。

 あんなの並みの冒険者が食らったら、肉体を貫通して即ゲームオーバーだよ。


「いてて……。なんて破壊力だよ……」

「ありがとうございます、ノーツ」

「いえ、ウェン様がご無事で何よりです」


 ふへえ、良かったあああー。

 何年寿命が縮んだかな。

 咄嗟とっさの判断だったが、ウェン様に怪我はないようだ。


「へえー、俺の必殺技をガード不可能と見抜いて、即時に避けるなんて。ノーツとやら、魔法戦士にしとくのはもったいないよ」

「ああ、高速回転して針のように迫ってきたからね。それに音にも殺気が見え見えだったから」


 ワタクシは下手に刺激しないよう、魔王からのお褒めの言葉を受け取る。


「ふーん、そうか。やっぱりその力、俺たちのメンバーに欲しいな」

「何でよ、乙女にこんな酷い仕打ちをして……」


 下手すれば命を奪われる所だったワタクシたちへの誘い文句。

 言ってることとやることがめちゃくちゃで、一体何を考えてるのか。

 この魔王の素性が計り知れない……。


「俺は強い相手なら女でも対等に扱う主義でね。どうだい、俺たちと一緒にこの世界を滅ぼさないか?」

「はあ? コイツ正気か?」

「そうだ。俺は至って真面目さ」


 男女平等と言い放ち、堂々と仲間に誘ってくる魔王。

 ルナとステラという女も、この魔王の口の上手さで引き入れたという感じか。


「──だったらそう思われないよう、戦って戦い抜いて、正義のこころざしで勝ち続ければいいさ」


 魔王とのやり取りの中、待ち構えたように正論を唱えてくる声。

 こんな緊迫した場面でキザな言葉を投げかけてくる冒険者は私の知る限り、一人しかいない。


「えっ、その声はガイア?」

「ああ、お前たちが時間を稼いでいたお陰で何とか終わったよ」


 ガイアが大きく腰を伸ばしながら、軽く柔軟体操をするが、例の剣どこか、鞘さえも身につけていない。


「えっ、でも剣は? まさか不安になって、鍛冶屋から飛び出して来たの?」

「うーん、それは見てのお楽しみかなー」


 ガイアらしくない接し方に戸惑う私。

 どんなイベントも真っ直ぐにこなし、やりかけの作業なんてしない性格のはず……。

 それともあれらは演技であり、この自由さが彼の本性なのか?


「ふざけるな。手持ち無沙汰なお前に俺の必殺技が防げるものか!」

「だったら試してみたらいいさ。ヘッポコ魔王さん」


 何も武器を持ってない意志で武力行使はしないと見せかけて、罵った言葉で威圧してみせるガイア。

 まさか、武道家みたいに素手で戦いを挑むつもりなの!?


「クッ、この魔王を侮辱するとは。よかろう、この剣の錆にしてくれる」


 フジヤマ魔王が赤い剣を手前に構え、さっきよりも深く腰を下ろす。


「二撃目、この近距離で防げるかな?」


 今度は助走もせずに、その場から先ほどの必殺技を繰り出すようだ。

 腰の角度を変えたのも技からくる反動を抑えるためか。


『デストルネードダークニードル!』

『ギュルルルルー!』


 二撃目となる高速回転した突きの攻撃に丸腰で挑むガイア。

 もしや剣作りは当の昔に失敗して、戦う術がなくてもワタクシたちを守るため、この場に戻ってきたんだろうか。


「ガイアー!」


 ワタクシはガイアの名を大きく叫ぶ。

 勇者だからって格好つけて。

 無鉄砲にもほどがあるよー!



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