第24話 ゴールドウェポンカード

 ──ガイアがゴールドウェポンカードに念をこめると、カードは剣へと姿を変えた。

 この剣は店頭では手に入らず、素人ではお目にかかれない代物でもある。

 発見当初、その剣が刺さっていた岩から歴代の勇者アーサー王が引き抜いたものであり、黄金のつるぎ『カリバーン』のカードとも言う──。


「なるほど。カリバーンに手を加えて、そのように変化する武器を作ったのか」

「いいや。カリバーンの素材を溶かし、黒水晶の草を混ぜ込んだ特注品さ」


 ──僕はカリバーンの剣の柄に指を引っかけて、大きく剣を回す。

 シャーペン回しと同じような原理だけど、少しばかりコツがいるので、プログラミングで俊敏さの能力を上げている。

 まあ、ステータスを上げると言っても、このゲームの製作者がかけたであろうリミッターがかけられてあり、一時的だけど。


「なっ、黒水晶の草は入手自体も限られて手に入るのも困難のはず」

「ああ。ウィスプのおじいさんに感謝だな」

「なんだと。ウィスプって元勇者だった者じゃないか。すっかり平和ボケし、こんな田舎の村で鍛冶屋を営んでいるとはな」

「お陰様で商売繁盛らしいぜ」


 フジヤマ魔王がやけにウィル・オ・ウィスプのおじいさんを高く評価している。

 そのウィスプのおじいさんは今は疲れ果てて休憩中だけどね。

 何でも10年分の力を使い切ったらしい。


「そりゃ、武器や防具に詳しく、それらを身に纏う精鋭の勇者の一人でもある、ウィスプが作ってるんだ。欠陥品はまずありえない」

「そういうことだな。こちとら時間が惜しくてね。さっさと仕掛けてきなよ」

「ちっ、余裕だな。ガイアとやら」


 フジヤマが軽く舌打ちしながら、黒いマントをひるがえす。


「むう、こうなったら仕方ない。禁断の奥の手を使うか」

「最初からそうしてよ。一方的にボコるのも気が引けるだろ」

「なーに。どんな攻撃をしようとしても、この魔法からは逃げられないさ」


 フジヤマが大きく手を回し、怪しげな詠唱を発する。

 周囲の空間が歪み、今度は両手を胸の前に近付け、黒いボールのような球体を形作っていく。


「むうううーん!」

『ドオオオオーン!』


 両手の球体を一つに合わせ、静電気と共にサッカーボールのような大振りな黒い玉を膨張させるフジヤマ。


「なっ、両手にありったけの魔力を集めてるのか?」

「ガイア、あれはヤバいよ。いにしえに封印されている闇魔法のたぐいだよ」


 あの魔法のエキスパートでもある、魔法戦士のノーツがビビるくらいだ。

 魔法が不慣れな僕でも、見た目からとてつもない威力なことも伝わってくる。


「お二人とも私の唱える防壁魔法バリアに集まってください。何とか魔法をしのいでみせます」

「はい、ウェン様。お願いします」

「ええ、あのような強力な魔法となると、発動した後に僅かな隙ができるはずです。そこを狙って最大級な攻撃で反撃しましょう」

「そうだな。強烈で痛いのをお見舞いしてやる」


 ウェンが唱えた円球のドームに入り込み、相手の出方を伺う。

 ビリビリと肌を刺激する黒い空気の流れを感じる。

 今まで数あるヤバい魔法を見てきたが、この魔法は特にヤバい。

 魔力の質がとんでもなく濃いからだ。


『ドオオオオー……ギュギュギューン!』


 一つとなった漆黒の魔力の固まりをフジヤマが片手に持ち変える。

 闇の玉は螺旋状のブラックホールになっていて、今にも飲み込まれそうだ。


「冥土の土産は済ませたか。愚かな冒険者たち」

「そうやってニヤけているのも今のうちだぞ」

「ニヤけたくもなるさ。この魔法を使わせるのも元魔王相手での王位継承戦でしか使ったことがないんだからさ」


 前の魔王がこの魔法により、王位の座を奪われた。

 つまりフジヤマは前の魔王より、断然強いということだ。


「滅びよ……」

『ギュン!』

「そしてこの世界に終焉を……」

『デビルデッドマター!』


 フジヤマが放った黒い玉がコロコロと僕の方向に向かってくる。


『ドコオオオオー!』


 速度は人の歩くスピード並みと遅め。

 魔法が通り過ぎても土埃さえも舞わず、威力も大したことないようだ。

 何だ、焦らせるなよ、音が派手だけで見かけ倒しかよ。


「何だ、どんな強烈なやつかと思ってたけど、ただのボール遊びじゃないか。このくらい僕の力で」

「駄目です、ガイアさん! 急いで障壁の中へ!」

「ガイア逃げて!」

「あははっ。二人とも心配しすぎだって」


 二人とも魔法の知識があるわりには大袈裟だな。

 何かあってもプログラミングで初期化したらこんなくだらないものなんて……。


「なあ、カードもそう思うだろ。これさえあれば怖いものなしだって」

「……ってカードが喋るわけないよな」


 カードを細身の剣に変化させ、正面に突き付ける。

 こんな陳家ちんけな魔法に逃げるのも一生の恥だし、こうなったらスピードを生かして頭から貫いて斬ってやろう。


『ドォォォン!』


 剣と魔法がぶつかり合い、闇の魔法が風船のように割れて散る。

 その一寸先には僕が握った剣が見えた。


 ほらね、理屈でも通用するさ。

 丸いボールが尖った剣に勝てるはずがないんだよ。


「ハハハッ。やっぱり勇者の圧勝だったな。何てことない攻撃さ……」

「がぶっ!?」


 数秒後、僕の体が大きく揺れた。

 反動で口から血を吐き、よろめくように片ひざを地につける。

 状態異常をかけられたのかと、ウィンドウを開こうにも一切反応がない。

 さらに時間差で両手が両断されて塵となり、コマンド入力すらもできないのだ。

 僅か数秒の間に何が起こったんだ?


「ガイアさん!」

「あーあー、あの馬鹿。闇魔法相手に攻撃が通じるわけないでしょ。もう知らないわよ」

「ゴホッ、ゴホッ!」


 この分だと、両手だけじゃなく、内臓関係……肺などもやられてるな。

 だったら意識を通じて、念話で画面を開き、今の攻防をスローで確認すればいいだけだ。


「フフフッ。俺の闇魔法を食らってもまだ意識があるとはやるな」

「ゴホッ……ふざけんなよ……」


 なんてヤツだ。

 攻撃そのものを無効化して、ウェンのガードさえも削り取り、さらに倍にして僕限定でこっちに跳ね返すなんて。


 さらに切り札だったカードも闇の玉に粉々になって飲み込まれ、跡形もない。

 これが禁じられた闇魔法というものか。


「どうやら勇者としての器は大きいみたいだな」


 フジヤマが勝ち誇った顔で僕の眼下に来る。

 クソゲーだけあり、念話でプログラミングをするには無理があるようだ。


「だがな、ガイアよ。最期に笑うのは俺の方だったようだな」


 フジヤマが僕の肩に手を置くと、笑い声と同時に世界がぐるりと反転した。


「さらばだ──」

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