第13話 その男、勇者?!ただしカス野郎

イラつく。ああイラつく!



俺は怒りに任せて近くにあった雪だるまを蹴り飛ばす

たぶんどこかの子供が作ったそれの滑稽な顔すら俺をバカにしているように感じて


「くたばれ!あいつら全員!」


俺は全力でキレながらその雪だるまを粉々にすり潰す


時刻は深夜1時。

正直、近所の人に怒られてもおかしくないレベルの時間帯に俺は一人家までの道を歩いていた


────13時間ほど前のこと


俺はサラリーマンとしての仕事を果たすべく、PCに向き合っていたのだが


「おう!亮太!すまんがこいつもやっといてくれ……!」


俺は課長の顔を見てマスク越しに舌打ちする

(クソが、自分でやれよ!)


「はい!わかりました!すぐにやります!」


まぁ課長に舌打ちするような度胸があれば俺は多分会社を立ち上げていただろう


俺には彼女がいる。それはもう俺なんかには不釣り合いなほどに優しくてかわいい彼女だ


大学の時、ひょんなことから仲良くなり今まで一緒に付き合っている


俺は焦っていた。何故なら今日はクリスマスイブ

世間で言うところの、所謂恋人達の最盛期


そんな日に仕事を増やされたことは正直、ぶん殴りたいレベルで腹が立つことだった

(まぁそんなことをしたら俺の首が飛ぶ)


それでも必死に終わらせようとしてPCに向き合っていた時の事だ


「亮太〜お前まだ仕事やってんのかァ?……まぁお前は恋人なんていねぇだろうし

……今日はちょいと遅くまで残って俺の仕事やっといてくれねえ?……

俺さぁ……めちゃくちゃかわいい彼女が待ってんだよね……」


後ろから先輩の有家が近寄ってきた

(クソ!馬鹿にしやがって……ってか自分で残業しろよ)


「ちなみにこれが彼女の写真ね!」


そう言って俺は強引に押し付けられたスマホの画面を見る


……「な!めっちゃ可愛くね!いやぁ俺もついにハッスルする日が来たってことかなぁ!……っーわけでよろしくな!」


俺はその言葉の全てが頭に入っていなかった


先程スマホに写っていたのは紛れもなく俺の彼女だ

……まさか顔が似てるだけの他人?じゃないよなと

(内心焦りつつ)


俺は

『すまん、今日仕事が遅くなりそうで帰れないかも!』


とメールを送る。するとすぐに返信が来て


──────「え?……」


そこには、少ない文字で


『さよなら貴方と居ても楽しくないの』


と書いてあった。俺はそれを信じられず何度も、何度も確認する


「……ははは……ちょっと仮眠するか」


俺は信じられなくて、それが夢であると信じて少しの間休む


しかしいくら目をつぶっても、顔を叩いても、そのメールは変化しなかった


それどころか、メールを送れなくなっていた。つまりブロックされたということ


……俺は1人で机を叩く。

(まさか……有家?……あいつが俺の彼女を取ったってことか? )


俺の心に憎悪の火がともる。

俺は仕事を全力で終わらせて支度し、彼女に問いつめるために彼女の家に向かう


しかし、家に入ることは出来なかった。


家の前にいたガタイのいい兄ちゃんに


「?なんや我?死にたいか」


と脅された俺は、自分の命がおしくなって慌てて逃げてきた。


恐らく今頃彼女と有家は性の6時間を謳歌してやがるかもしれない

(だめだそんなこと考えるな!)


しかし、俺がこっそりと家の窓に近ずいたとき

彼女の普段は見せない艶色のある声が聞こえた


その瞬間、俺は逃げるように……その場を離れた


◇◇◇◇◇


俺は一人虚しく、家に帰ろうとするが


「クソ!こんなに雪が降るなんて聞いてないぞ!」


──────今日は東京は珍しく大雪だった。

俺は体に積もった雪をはらいながら家の前の階段をゆっくりと登る


「はぁ……俺は弱いな……」


やりようはいくらでもあった。

それこそ、あの場に無理やり押し入って殴って奴らをボコボコにして彼女を救い出してもよかった。

(まぁそんな力は俺には無い)


俺は不幸だ


そう思いながら俺はアパートの前の階段を登り終えようとした

──────その時


俺は綺麗に凍った階段で足を滑らせて頭から地面に叩きつけられる


俺の意識はそこで終わった

(ついでに多分俺の人生も)



◇◇◇◇◇◇


『???───可哀想なお方……そうね、世界をこれだけ憎む力があれば……なれると思うわ』


俺は聞こえてきた謎の声に叩き起される。


目を開けるとそこは、天空に浮かぶ島だった


俺が何が起きたのかを理解出来ず、狼狽えていると

『あらあらはじめまして……私は女神サタナエルと申します……』


そう言って俺は女神と名乗る人物に出会った。


それから俺は自分が不幸な死に方をしたこと、それを哀れんだ女神様の力で異世界に転生した事


そして俺には勇者の資格があることを教えられた


「……待ってくれまだ頭が混乱している……俺は死んだのか?」

(それにしても異世界?まじでそんな展開あるんだ)


『ええ……ここは死者、もしくは呼び出された者のみがたどり着ける楽園……そして貴方は選ばれました

……そう……『異世界を救うための力を持った勇者に』……どうでしょうか貴方にはふたつの選択肢があるのですが』


そう言って提示されたのは

(勇者として世界を救う戦いに身を投じるか、女神の駒になるか)


そんなもの決まっている。


「俺は勇者になる!……それでお願いします 」


すると女神はにっこりと笑い

(かわいい)


『では……貴方様にチート能力と……異世界で必要な知識、それから役立ちそうな能力をつけて……

あ、そうだ……この世界にはステータスが無いんですけど新しくステータスの表示を付けますか?』


俺はもちろん必要だと答えた。

(ステータスの存在しない異世界転生なんてただのゴミじゃん……ちやほやされるにはやはりステータスは最重要項目だからな)


──────『それでは勇者様!10人の魔王に支配されている異世界を……お救い頂けますでしょうか?』


俺は息を吸い込み、答える


『ああ!任せろ!』


こうして俺の異世界での人生が幕を開けた。


『───任せろ!』


そう言って下界に降りていった男を眺めながら女神は


『やっと行ったか……あのゴミめ……まぁ勇者としての利用価値を存分に使わせてもらったあとはそうだな……家畜の餌にでもしてやろう』


「女神様!ステータスアナウンスが完了しました!……」

その声を聞きながら女神は


『あの忌々しい魔王さえ消えればこの世界は平穏で安寧に包まれた止まった世界を作り出せるというのに……まぁそこはやつに期待するとして……』


◇◇◇


俺が目を開けると、王宮のような場所にいた。


「ようこそ!勇者。ここはエデンズノア帝国……理想を追い求めるもの達が集いし国……そして私こそが帝王ノアである」


俺は跪く。

くせで土下座まで仕掛けるが、そんな俺に対して


「何を跪いている?勇者、お前は我々の希望なのだ……まずはこのリストに書いてあることを行え……それがお前の役目だ」


「……本当にこれをやっていいのか?」


俺はそこに書いてあった事を本当にしていいのかと尋ねる。

理由はもちろんここに書いてあることをもし前世でやれば間違いなく死刑だからだ


帝王が頷いたことで俺は

(まじで?こんなにすきにしていいのかよ……最高だな!異世界!)


そう、ほくそ笑んだ



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