第10話 その名は八岐大蛇

八岐大蛇、それは8つの首を持つ巨大な大蛇型の竜である

青銅のごとき硬さを誇る鱗を持ち、さらに加えて神性を持つため

一定値以下のダメージを無効化する能力、そしてその8つの首はそれぞれに意思があり

……さらに再生能力も持ち合わせており、普通の……いや、熟練の冒険者ですら勝てるかと言われたら分からないレベルの敵


──────なのだが



「「「「「「「なんだ貴様は!?」」」」」」」


既に首がひとつ切断されたことで、八岐大蛇もとい七岐大蛇になってしまったそれは驚きを隠せていなかった


「あ?なんだ再生するのかよ……ならもっとぶん殴るとするか!」


「「「「「「ぐあぁあああ!!!!!おのれぇ!貴様!人間の分際で神たる我を傷つけるなど!」」」」」」


その声を無視して、リツはお酒を手に取ると


「こいつに火いつけて……よぉし……知ってるか?お前、再生する系の敵はな……


チェーンソーが火を噴く。文字通り


剛炎をまとった状態で殴る。殴る殴る!


振り回される攻撃が当たる度、首がどんどんと消し飛んでいく


「オラオラオラオラ!!ん?まだ死なねぇか……なら纏めて……オラァ!」


「「「ぐあぁあ?!……何故止まらぬ!我の攻撃は貴様を確かに捉えているはずなのに!」」」


「?そんなチンケな攻撃、あたしを倒せると思うなよ?」


そう言いながらリツはにやりと笑った。その笑顔を見て残り首が2つになってしまった大蛇は

懐かしい記憶を思い出す


忘れもしない……

自分がまだ神だった時

私を打ち負かして挙句の果てに意識を8分割し

そのからだを蛇にまで落とされた原因


あの異世界の剣士の姿を!


姿形は全くの別人なのに、その戦う姿がまるでその時の姿を彷彿とさせたことで


大蛇の恐怖心が神としてのいや、大蛇のプライドをへし折る


「あ?まだ本気で戦ってねえぞ?」


最早逃げるのはこの体では不可能。

いや、元より大蛇にまで落ちた我は堕落に染まりすぎた

それ故にこの体に染み付いた肉の重さのせいで動くことすら出来ぬ


最早これまで……か。



──────「諦めないで!お父さん!」


娘のそんな叫びがどこからか聞こえた気がする……

いや、そうだな。

我には守るべきものがあった、それを忘れてはならぬ。


「……あの時とは勝手が違うぞ!異世界の剣士!我には守るべきものがある!故に……貴様には負けぬ!」


そう言うと、大蛇の体に光が集まり


「おお〜人型になったねぇ?……で?」


その体はリツとほぼ同サイズまで縮んでしまっていたが、代わりに

「今の私はかつての神の力の一端を預かりしもの!……人の子風情が……我を舐めるなよ!!!」


叫びながら、口を開けてそこから超高熱のレーザーを照射する


その口から放たれた光線は一瞬でリツを焼き、ついでに後ろの村すら焼き払った


「ん?今なんかした?……」


まぁリツにはノーダメだったが。

◇◇◇◇──────同時刻

近くにあった哀れな村は

その光により消滅寸前だった


まぁそして救いようのない村人は次々と焼き焦がされていく


「ああ!私の村が、私の財が燃えている!?!」


「お母さん!熱いよお……熱いよ……ぉ」


「大蛇様!私たちをお守りください!?お守り……ぎゃあああ……」


もし、大蛇とリツの戦いの苛烈さに気がついていなのならばさっさとその場を離れるべきであった

しかし、彼らは野次馬の精神で

お酒のツマミに見るような

そんな他人事の感覚で見ていた。


それ故に、その光をまじかで食らってしまった

哀れな結末である


そんな熱線が飛び交う村の中を走る一人の女性がいた


「……!はぁ、はぁ!……良かったまだ家は燃えていない! 」


もちろん、その子の名はノエル

リツと大蛇の戦いが苛烈になった

時にまっさきに家と母親の亡骸を心配して慌てて村に戻って来たのだ


幸いなことに、まだ家には光線が当たることは無かったが

それでも常に後ろの方で爆音が響いて悲鳴が少し聞こえている


私は

「お母さん……」

亡骸に手を合わせる。

おそらく、もう金輪際会えないのだと思うと涙が溢れ出すが、その涙を拭い


私は外に出る


途端、先程まで家があった場所に光線が着弾し

家諸共母親の亡骸を消し飛ばす。

その光景を見ながら、私は


「……さようなら……お母さん……ありがとう」


そう言って駆け出す。

目的地はもちろん、村長の家


◇◇◇


村長と呼ばれていた男は慌てて家の財宝の数々を運びだそうとしていた。

「……こんなはずでは……!……ええいどれもこれもノエルがあんな疫病神を連れてこなければ……」


そう言いながら男は財宝をマジックポケットにしまう。

このマジックポケットは異世界人が作ったもので、四方50センチ程なのに

中に大量のものを入れれるという代物だ


男は焦っていた。それ故に気が付かなかった


「見つけました!……村長、よくも私を生贄にしようとして……挙句の果てに母親を殺しましたね!」


「ええい黙れ!今俺は忙しい……ノエル!貴様さえいなければこの村は安泰だったのに良くもあんな……良くもあんな疫病神を連れてきやがったな!」


男は激昂し殴り掛かる

「……ぅ……」


その拳はノエルの顔面にクリーンヒットする

しかし

ノエルは黙ったままだった。

不気味なほど静かなノエルに驚く村長。


ノエルの顔をよく見ると

それでおしまいですか?という顔をしていた


村長は慌てて逃げ出す。

彼はプライドひとつで村長にまでのし上がった男だった

その過程でたくさんの犠牲を出てきたが、それを無視し続けていた


しかし、彼女の顔を見ときその犠牲者の顔が一気に脳内に駆け巡り始めた


「お、おれの前から……消えろぉ!!」


村長はそう言うと、マジックポケットから一振の剣を取り出してノエルを刺す。


しかし、彼は臆病であったが故に手元が狂い

なおかつ、ノエルのことを内心舐めていたが故に

綺麗に回避される。


そしてそのままつんのめって倒れる。


起き上がろうとした途端


◇◇◇◇◇


──────「あ?ここは誰の家だ?」


リツは誰かの家まで飛ばされていた。

続けて


「まだ死なぬか……お主本当に人か?……」


男がゆっくりと着地する。

今の状況は正直五分五分だった

神の力

もとい本来の力を発動しているスサノオは先程までの八岐大蛇の姿とは次元が違う動きをしていた

それでも、五分五分まで持って行っているのは一重にリツの恐ろしさの一端がわかる場面でもあった


……「へぇ?案外強いじゃん……流石に神様相手にゴリ押しは難しかったか?」


リツは久しぶりにいいサンドバックが出てきたなと思っていた

実際、リツはまだ本気を出していない。


一方、スサノオには着実にダメージが蓄積しておりあと数分ないし数回の攻撃を受ければ肉体が限界を迎えかねない……そんな状況


スサノオは流石に無茶をしすぎたか……と己の詰めの甘さを悔いた


「……なんだ貴様ら……お前はあの疫病神!?……ええいこんな時まで私の邪魔をしてくるか!私はこの村の村長だぞ!」


村長は怒りのあまり自分の立場の弱さを忘れて怒る。

しかし


「あ?誰だテメェ……ああ?」


一切興味が無い、と言うふうに突っぱねる

その時の村長の顔をもしほかの人が見ていたのならば、滑稽過ぎて笑っていただろう





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