第9話 悪夢はただ1人を狙う

──────「なーんてね……嘘嘘!!……おかえり!私の可愛い娘!」


唖然としてるノエルを母親と思しき女性が抱きしめる。


──────「お母さん?……?嘘なの?」


その声のトーンはかなり震えていて

未だに衝撃が残っていることを私に教えてくれている


「ちょっと!もう!……嘘に決まってるでしょ!

あんたが全く帰ってこないから

どーせどっかで迷子になってるんじゃないかと思ってちょっと怖がらせただけよ!」


そう言って再び抱きしめた母親と思しき女性が


──────「……怖がらせただけ……なら……良かったのに」


と意味深に呟いたことをリツは聞き逃さなかった。

抱きしめるときに耳を塞いであげていたので、その声はノエルには届いていない


「そちらの方は?……もしかしてノエルちゃんのお友達?」


私は

「まぁどちらかと言うと手伝ってあげたただの他人です」


と返した


母親と思しき女性は少しだけ寂しそうな顔をしたあと

「そうだ!ノエル?ミキちゃんがいつもの広場で集合って言ってたよ?……行っといで」


と言うと、顔を隠すように歩いていった


「うん!わかった……けど、なら何で私の物が全て無くなってるの?」


──────「それは…………強盗がうちに入って汚くされちゃったから……よ」


「そっか〜なら仕方ないよね」

軽い感じで返すノエルをみて、私は深くため息を着く。


──────誰だって分かる。それが精一杯の嘘であることが

何なら最初からずっと嘘しかその女性はついていない


それをノエルに伝えるべきか迷っていると

私の方を見て首を横に振る。

おそらく、言わなくても分かっているという事なのだろう


「ノエル?そう言えばお祭りがあるけど貴女何をするつもりなの?」


私はお祭り?と疑問に思いノエルの方を見ると、どうやらノエルもまた知らなかったと言う顔をしていた


「?初耳なんだけど……そんなの今までやってたっけ?」


再び顔を背けて母親は

「ええ、そうよ……今までずっと……そうずっとやって来たのよ」


そう意味深に呟いた


◇◇◇◇◇


「ミキ!……ただいま〜疲れたよ!」


ノエルがそう言いながら近ずいた相手の名はミキ


「……可愛いね、君何歳?」


私は聞かざるを得なかった


「ミキはね……8歳だよ!!!」

そっか〜8歳か〜


なんでそんな子にただいま〜って言ったんだろうかノエルは


すると

「ミキ〜私もう疲れたよォ!……なでなでして〜」

と言い始めるノエル。お前は何歳だ?とツッコミかけるが


それをよしよしと撫でるミキの姿を見て納得する

何ならうちの母親よりお母さんっぽい……


「ノエル……貴女は頑張ってる!頑張ってるから可愛い!」


この子が一体どんな人生を歩んできたのかすごく気になる所だが

「ノエル……ごめんね今日は少ししか遊べないの……お祭りの準備があるから……」


その言葉にうなだれるノエル。その様子を見て慌てて

「あ!でもまた明日なでなでしてあげるからねそうだ!そこのお客さんに村を案内してあげたら?」


と言われ……

「うん!わかった!またね〜」


……本当にどっちが子供何だか


◇◇◇◇◇


────ここが私のお気に入りスポットなの。

街を一通り見て回ったあと、最後にそんな場所を紹介される


「ここは……いい眺めです」


本当にいい眺めだった。

まるで夕焼けに溶けてしまいそうになりながら私はノエルの過去の話を聞く


──────「私ね、大きくなったらすっごいたくさんの人を救う魔法使いになるってキメてたんだ」


幼い時、小さい子供だけがかかる病気が蔓延して村の同年代の子達が沢山亡くなった

……隣の家のリンちゃんも

カナエちゃんも……シズルちゃんも皆一同に亡くなった


そんな時、通りすがりの魔法使いがこの村を助けてくれた


そしてその姿に私は憧れた。

憧れるだけじゃ何も変わらないけど、それでも毎日魔法を勉強しようと頑張ったけど


…魔力だけは人十倍あったからチャレンジしてみたけれど、結局コントロールが出来なくて諦めた


「───それでも諦めるのが怖くて私は街に何度も行っては

学校に通わせて欲しいと学校の先生にお願いしたんです……まぁ無駄でした」



話を聞いていた時、後ろの方で

「おーいノエルお姉ちゃん!なんの話ししてるの?」



そう話しかけてくる声があった

「?!ヨシ!それにミツル!ナナ!あんたたちこんなとこ来ちゃ危ないって言われてたでしょ?」



3人の子供がかけてきた。それぞれ手に何かを隠し持っているようだ


「えへへ……せえの……はい!これあげる!」


「……これは……杖の飾り?……あんたたちが作ってくれたの?」


子供たちは誇らしそうに

「うん!ノエルお姉ちゃんに絶対似合うと思って」

「お父さんとお母さんに内緒で」

「こっそり集まってみんなで作ったんだ!」


……私は目頭が熱くなる。

子供たちの純粋なプレゼントに心が潤う



「あんたたち……ありがとう」


気がつくと、リツさんが居なくなっていた。

たぶん退屈だったんじゃないかな


私は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら家に帰る


すると


「ノエル、来ない方がいい……来たら多分貴女は苦しむだろうから」


リツさんの声が何故か家の中からする。

「?なんで家の中に居るんですか?

あ、まさかお母さんと何か話をしていたとか?」


反応は無い。ただ、静寂が少し続いたあと


「……あなたにこれを受け入れられる覚悟があるのなら入ってくるといい」


その声に何か嫌な予感を感じ取った私は思わず扉を開けて中に入る


──────そこには


──────そこには


……そこには、口から血を吹いて倒れているお母さんの姿があった


「────っ!……お母さんまた変な冗談……だ……よ…………ね……ねぇ!ねぇ!!嘘だよね!嘘嘘嘘嘘!嘘!!!……ねぇ……嘘って言ってよ!!言ってよ!!!」

私は必死に体をさする。

冷たい

まるで石のように固くなった体からそれが事実だと頭では理解する


それでも必死に呼びかけるが


反応は無い。そしてその目には光が無かった


「……これが置いてあった……貴女当ての手紙……読むなら覚悟を決めて」


リツが手渡したのは遺書。

私は震える手でその手紙を読む


『ノエル、身勝手な母親でごめんなさい。

貴方がお酒を買いに行っている間にあなたを生贄として八岐大蛇様に捧げることが村の会議で決まってしまったわ。


当然私は反対したんだけど、私一人じゃ村の総意を変えることなんて出来なかった。……不甲斐ない母親でごめんなさい。


せめて、貴方が村に戻って来ないでくれと祈ることしか出来なかった……でも貴女は帰ってきた。

帰ってきてしまった……だから貴方が生贄になることが決まってしまったの。


……』


私は涙がこぼれ落ちるのを止められなかった

それでも、何とか涙を拭き続きを読む


『……私は先に逝っているね……ごめんね……

私がもっと強ければあなたを守ってあげれたのに……でもね……私は……幸せだったのよ


だからね……あいしてるわ……ノエル』


「──────ふんアイツめ先に死におったか」


突然後ろから掴まれる。

振り向くと、村長と父親、それからたくさんの村人が集まっていた


代わりにリツさんはどこかに消えていた。


「ノエル、お前は犠牲になるんじゃない、この村を救う英雄になるんだ!わかるか?……お父さんはな、誇らしいよ!

……お前がこの村のために英雄になってくれれば、たくさんの人が救われるんだ……」


「そうじゃ。八岐大蛇様に食べられるのは未来永劫素晴らしいことなんじゃぞ?……だからのう……逃げるでないぞ……何せお主は上玉……あの時の生贄にしなかった恩をここで返してもらうぞ?」


「素晴らしいと思うわ!あなたのような崇高なる精神の持ち主なら私たちを救う英雄になってくれるわよね?」


「お姉ちゃん!頑張って!」


──────「……うん……分かっ……た……」


「おお!分かってくれたか!さっすが英雄になる子供だ!俺は昔からお前のことを信じていたぞ!」


私は流されるように服を着せられて神輿に載せられる。

そうして、あっという間に生贄の儀式であるお祭りが始まってしまった


「ノエルお姉ちゃん!やっぱり可愛い!」


「すごいなぁ!私もいつかあんなに綺麗な格好してお神輿に乗りたい!」


……私は何を思えばいいんだろう。

いっそここから逃げ出せば、たくさんの人を犠牲にして生き残ることは出来るだろうか


でも、そんな罪悪を持ってこの先、生きれるのかな?

……結局努力しても私は魔法使いにはなれなかったし


それならここで英雄として生贄になった方が私の人生に意味が生まれるのかな?


────分からない


──────分からない


────────────分からない


「さぁさぁ!皆、ノエルが我々の英雄になってくれる日だ!……さあ飲めや歌えや!……」


私は流れるように体を清められる。

流してくれているのは、いつもご飯を持ってきてくれたおばさん


「あんたも立派になったねぇ……その歳で英雄になれるのかい……幸せなことだねぇ……」


私の髪をとかして、立派な死装束を縫ってくれたのは

村1番の美女のユウラ


「ありがとう!貴方が英雄になってくれることで私も王都で夢を叶えられるわ!」


私の最後の晩餐を作ってくれたのは

村1番の料理屋「虎虎寧」

の店主のヤキチさん


「おめぇの最後のご飯、いつも好きだったやつにしとくぜ?……しっかしおめぇがついに英雄になるのか……感慨深いなぁ」


──────皆嘘つき。


私はいやでもわかる。

彼らは自分が助かったこと、誰かが犠牲になってくれることで自分たちの幸せが続くことに感謝してるだけ


誰もその証拠に私の顔を見ない。

もし見てしまったら罪悪感で壊れてしまうから


◇◇◇


「おお!やっと来たか!……それでは皆様主役のご登場です!拍手でお迎えをください!」


「「「「パチパチパチ!!!」」」」


綺麗に飾り付けられた服/死装束


綺麗に飾り付けられた会場/死に場所


たくさんの贈り物/神のご機嫌取り


見守る優しい村人たち/嘘つき達


──────『ぶぉぉおおおお!!』


「さあ!祭りの開幕だ!皆々様!お手元にお酒は用意致しましたか?……それではこの村の繁盛と隆盛を祈って……乾杯!!」


「「「「「「「「「「「「「乾杯!!!」」」」」」」」」」」」」


祭囃子が聞こえる。/それは別れの歌


やがて、しばらくすると山の方からズル、ズルという何かが這う音が聞こえてくる。


────「おお!八岐大蛇様がまいられたぞ!!」


巨大な影が村に近ずいた。

それは首のひとつをゆっくりと村長の方に近ずける


村長が微笑みながら/私利私欲を肥やすため


その化け物に近づいて話しかける


「おお!我らを守りし偉大なるお方!八岐大蛇様!

此度は素晴らしき捧げものを致しまするのでまた今年もこの村をお守りくださいますよう……よろしくお願い致しまする!」


その言葉に八岐大蛇は

「「ふん……まあ良い守ってやらんこともないが……それより我は喉が乾いたぞ…………」」


「「「そうだな……喉が乾いた!!」」」


「「せっかくだ!あの上玉の前に何か飲めそうな贄はあるか?」」


首が口々にそう呟く。


私はその姿をじっとみながら、せめて最後まで凛とした姿を保とうと努力するが


「おお!でしたらちょうど良い贄がございまする!」


そう言って村長が連れてきたのは。


──────連れてきたのは


……


「っ?!なんで……ミキ!……ヨシ!……ミツル!……ナナ!……何で、何で……」


私が絶望しそうな表情で眺めていると


「子奴らを新鮮な飲み物として捧げさせていただきますが……いかがでしょう?」

村長の無慈悲な言葉が私の心を締め付ける


そして私は一瞬彼らと目が合ってしまった。

その表情はとても悲しそうだった


「「「「「「まぁ悪くはなさそうだ」」」」」」


「「もっと豊満なやつが良かったが……まぁいいだろう」」


そう言うとゆっくりと首を伸ばして4人を垂れ幕の後ろに連れ出し


──────「っ!まって!ダメぇぇぇぇ!!」


”ぐしゃっ”と言うかわいたような音と湿った音がして

垂れ幕に黒い染みが着く。


私は一気に全身の血が冷たくなるのを感じていた。寒い。暗い。視界が突然半分になったように感じてしまう


私が犠牲になるのは別にいい。でも


──────「何であの子たちまで犠牲にならなきゃ……いけなかったの……?……ねぇ!」


私は知っている。彼らにはたくさん夢があったことを


ミキはたくさんの人を助けるお医者さんに

ヨシは王国1番の戦士に

ミツルは料理人に

ナナはギルドの受付嬢に

……そんな夢を私は聞いてしまっていた


叶うといいねと言ってしまっていた


私の悲鳴は、誰の耳にも入らない。──────否、入ってはいるが誰も反応しない。


私が絶望の縁に立たされたことを確認して八岐大蛇は


「「ふふふふ!やはり人は絶望している時が1番の食べ頃なのだ!!……はははは!!!ではそろそろ食べてやるとしよう……」」


「おお!八岐大蛇様!……我らの誠意をぜひ受け取りください!

ノエル!良かったな捨て子だったお主を生かしておいて正解だったわい!さて村の皆の衆!……グラスを掲げて拍手の準備を!」


パチン、パチンと言う音がして私の前に首がゆっくりと近ずいてくる


「「ほほう!ここ数年で1番の出来じゃないか……よかろう、これからしばらくはもっとたくさんの贈り物を貴様らにくれてやろう」」


その言葉に村長が


「おお!!ありがたきことでございます!!」


そう言う。


拍手はどんどんと早くなる/最期のカウントダウンが始まる


私はゆっくりと目をつぶり、最後はせめて楽に死ねるといいな

と心の中で呟いた。


八岐大蛇の息が近くなる。


ゆっくりと大口を開けて私を飲み込もうとするそれを肌に感じながら





──────ああ、でもやっぱり魔法使いになりたかったなあ……まぁ叶わない夢だったのかな……


そんなことを最期の最後に思った。














──────「それが君の最後にはふさわしいとは私は思わないんだけどね?」



ズドン。チュイイインという何かを切断する音がひびき、私の近くにあった気配がどこかに消える


恐る恐る目を開けると



──────「り……リツ……?さん?」


いつの間にかいなくなっていたリツが立っていた


片手に謎の武器を持ち、それを肩に担ぎながら


「さぁて!大蛇狩りの時間と行こうじゃあないか!!!!……作戦はズバリ……ごり押すべし!」



嬉々とした表情でそう、叫んだ


そしてこちらを振り返って私の方を見て


「せっかく生まれた命なんだ……楽しんでこそ……じゃないか?」


その言葉は私の心に火をつける。


「「「「「「「「なんだ貴様!!!」」」」」」」」


大蛇がそう尋ねるが


「──────あ?なんだテメェ?やんのか……たかが蛇ごときがいきがってんじゃねぇぞ?

……所詮どっちが強いかの勝負なんだ……雁首揃えて全部切り落としてやろうか?」


そう言うと武器を構えて飛びかかる


────こうして八岐大蛇と律の戦いが今、幕を開ける事となる

















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