第3話 ボス戦?多分すぐ終わる

 扉を開けた瞬間に炎が飛んできたことで律はやけ焦げる。回避の暇すら与えずに、冷徹に一撃で葬り去る


 炎を放った主はその亡骸と思しき場所に目掛けて幾度となく炎を浴びせ続ける

 それは彼女がそれだけの行為をするにあたる存在という証明でもあった


 ……決着は着いた。炎を吐いた主である竜はそう確信し炎を吐くのを辞める


 残っていたのは黒焦げた肉塊。

 やがて時間経過で最初の位置に本来は戻るはずのそれは何故かその場所に留まっていた


 竜はおかしい、と感じていた。肉塊が消えないのだ

 その異様な肉塊に恐る恐る近ずいた瞬間だった


 ────「ははははは油断したなぁ!」


 突如肉塊が煙を上げて元の姿に戻った


 突然の事に竜は困惑し動くことさえできていなかった

 それでも、咄嗟に炎を吐けているのは流石竜といったところか


 しかし


「あのね知ってる?日本には仏の顔も三度までってことわざがあってね……」


 そう言うと吐き出された炎を


「君さあ!炎吐きすぎだって!……」


 そう言いながらぶった斬る。回避などしない。くらったならばそれ以上に回復すればいいだけ

 炎の熱により腕が瞬時に焦げるが、それを『超速再生』により無効化し律は歩いてゆく


「オラオラオラァ!そろそろ覚悟しろよォ?」


 律が竜に向かって飛び出す。炎を切り裂きながら竜に近ずき、その顎を削り取る


「ガオオオォォ?!」


 竜には本来、鉄よりも硬い鱗がある。それ故に多少の攻撃は通らないのだが


『経過身体強化』『攻撃回数に応じて攻撃力アップ』による圧倒的な攻撃のダメージは竜鱗すら破壊する程にまで強化されていた


 目にも止まらぬ速度でチェーンソーをキャッチした律は


「こいつでもくらいな!」


 竜の頭上から羽にかけてを一気に切り裂く。それは竜にとって、生まれて初めての大ダメージであった


 加えて、『攻撃回数に応じて攻撃力アップ』はチェーンソーの刃による攻撃の一つ一つに適応される。

 それ故に、一回転する度に有り得ないほどに攻撃のダメージが上がっているのだ


 ───「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


 竜はその時の痛みに呻く。

 人生初の大ダメージに頭の中に「死」という道の恐怖が目覚め、半狂乱となる


「──ははははは!いいねぇ!……おっとあたしとしたことが、ちょい熱くなりすぎたかな?……口調が乱暴になりすぎたかも……」


 再びチェーンソーを足で蹴りあげて片手で持ち、構える。


「というわけで、今からあなたのその鱗……ゴリ押しで叩き切らせてもらいますね!」


 地面に擦れるようにチェーンソーが触れ、そこからバチバチという火花が散る


『攻撃回数に応じて攻撃力アップ』の効果は、モンスターや物を攻撃した時にのみ発動するスキルだ

 それ故に彼女は無意識に床でその効果を発動させていたりする


「っ!そりゃあ!」


 その手から放たれたチェーンソーは尋常じゃない速度で竜の首を狙う


 しかし竜は思ったより硬かった。

 ──────まぁ硬いなら蹴って無理やり押し込むだけ何ですが


 そのまま倒れた竜の首に刺さったチェーンソーを蹴って押し込み、竜を絶命させたあと


「ふう、さっぱり……ってあたしの服が!……ほぼ素っ裸じゃん!恥ずかし!」


 もう既に服はギリギリ胸と、秘部を隠す程度しか残っていなかった。


 仕方が無いので、その格好のまま次の門を開けて中に入る


「『???』はぁめんどくさい!」


 開けた瞬間、私の体が3枚下ろしになる。


「あ?」


 ぐしゃっと言う音ともに倒れた私を見下すように一人の男が歩いてくる

「全く、この堕天使を打ち取れるなんて思わない事だよ」


 そう言いながらそいつはゆっくりと本を読み始める


「───へぇ?ちょうどいいや」


 私はゆっくりと三枚おろしになったからだを再生し立ち上がる


「なら堕天使?だっけ…………あんたの服、貰ってくよ?!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 俺は頭がクラクラしながら立ち上がる


 くそう、まだだ……もう何も吐くものは残っていない。

 プライドも、見栄も何もかも捨てた俺にはもう……


「これしかねぇんだよ!ちくしょうが!」


 光をまとった剣をぶん投げるが、一瞬で回避され俺はまたしても肉体を叩きられる


 ──────もう何度挑んだか分からない。


 目を開けると、またしてもあのスタート位置に戻っていた。


「ああああああああぁぁぁ!」


 俺がそんなふうに叫んでも他の人がもう反応しないぐらいには疲弊していた。

 肉体の疲れでは無い、精神の……魂の消耗。


 それは彼らの心を幾度となくへし折った


「なぁ、そこの男!俺たちにクリアさせる気なんてないんだろ!?違うか!応えろ!」


 クラスの野球部キャプテンの大宮が掴みかかるが、近くにいた騎士の手で止められる


『はぁうるさいですねぇ…………ん?おやおや、おやおやおやおやおやおや!ははははは!』


 突然狂ったかのように叫ぶと立ち上がり、困惑する俺たちに向かって男は


『素晴らしい!……先程このダンジョン

 ……及びボス連戦を全てクリアした……最初のひとりが生まれたようだ!はははは素晴らしい!素晴らしい!!!』


 俺は今の言葉が信じられなかった。

 なんだって?クリアした?!……このダンジョンをだと?


「おい!誰がクリアしたんだ!教えろ!」


 俺は怒鳴りながら掴みかろうとするがするりと避けられる


『ふむ、文名律と言う一人の女性のようだが?……彼女はどうやら1人でクリアしたようだ……

 おめでとう!彼女はまさにこの瞬間から自由だ!

 ……はははは君たちも頑張りたまえ!あと3人だ!』


 そう高笑いする男を睨みながら、俺は文名律という人のことを思い出す。


 ◇◇◇◇◇◇


「なぁお前ってなんでそんなに真面目なんだ?」


 俺は文名律という人間に前世で幾度か話しかけたことがある

 彼女は図書委員長でおっとりした、それでいて文武両道という相反すると言ってもいいレベルで矛盾を抱えた人だったはずだ


 確か、両親が大学の教授で頭が良くて

 ……ダメだ基本話しかけても

 無視してくる奴だったな


 ……道理で思い出が少ないわけだ


 ◇◇◇◇◇



 そんな女性がクリアした?


 そんな事実に俺含むクラスメイトのほとんどが叩きのめされる。彼女は一体どうやってクリアしたのか?


 そんなことを考えていると


『ふむふむ、では貴様ら3人で攻略することを許可してやろう!……ふはははは我は気分がいい!故に貴様らに最後のチャンスを与えてやろうというわけだ!』


 そう言ってパチンと指を鳴らすと再び分先程の剣を持った奴に殺された場所に戻る。


 さっきと変わらない光景、しかし違うのは……


「ちゃ、ちゃんと仲間がいる……」


 2人のクラスメイトがいた事だ。

 ……正直、1人の時と比べて何故か負ける気がしなかった


「2人とも、なんとしてでもクリアするぞ!」


 俺は2人にそう告げると、再び剣を握る。

 2人の反応はその言葉にしっかりと答えてくれた

 ……信号機、みんなで渡れば怖くない。


 その通りだと思う。俺は胸の中で固く誓う


「絶対に、ここから逃げ出してみせる……と」

















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