第2話 進むしか出来ない女

 ──────数十分程前のこと


 彼女は他の人と違い全力で駆け出していた。


 理由?そんなもの決まっている、ゴリ押しする奴がわざわざ周囲を警戒するわけがないのだ


「うお!でっか!……なんだこいつ」


 彼女は最初の敵に遭遇する


 相対するは、巨大な剣を持ったゴブリン……先程、一人の男が脚を切り落とされた奴と同じ種族

 まあ知る由はないが


 そいつは身の丈ほどの剣を振り上げ、彼女を叩き切る。

 その顔は弱いものを叩き潰すという快感に歪んでいた……

 その一撃が彼女の体をまっぷたつに割いた時快感が最高潮に達したのか舌なめずりをする……


 その一撃にて彼女は……


「やったねぇ!コレで正当防衛になっちゃうなあ!」


 喜びながらチェーンソーをくるくると回し、ゴブリンの腕にその刃を突き立てる

 ギャリギャリと言う音がして、ゴブリンの腕から血が滝のように噴き出す


「GAAAAAAa?!!!」


 その声は驚きと怒りに満ちていた。当然である、先程まで自分のおもちゃだと思っていた奴が牙を突き立てて来たのだ


「あはは!そんな腕が飛んだ位で驚くなよ!?」


 彼女の体からはものすごい煙が発生する。そして斬られた箇所がみるみるうちに治っていく。

 それこそがスキル『超速再生』の効果である


『超速再生』、それは魔力を消費し体力と肉体の欠損を即座に回復するというスキル

 ……ゴリ押しスタイルの彼女にとってまさに鬼に金棒とでも言うべきものだった


 彼女、律の放つ攻撃が腕を切り落としたことで当然ゴブリンは怒りが最高潮に達したのかとてつもない咆哮と悪臭を放つが


「ああ?うるせえし、くせえ……もう黙れ」


 律はチェーンソー型の武器の刃を高速に回転させる。

 それを肩に担ぎ、ゴブリン目掛けて押し付ける

 一瞬でゴブリンの足を切り落とし、そのまま防ごうとする剣ごと……


 ────ゴリ押す。ゴリ押しきる


 火花が散っている。

 ギャリギャリギャリギャリギャリギャリと言う音がゴブリンに近くなる


 骨と鉄で作られただけのでかいだけの大剣はみるみるうちに削られていく


 その顔に恐怖にも似た感情が映し出される……

「ありえない?って顔をしてるなぁ……なんでそんな顔をしてるんだ?……」


 まぁ理由なんてわかる。生態系の下の存在に負けるなんてと言う感情はどんな生物でも共通だ


 足が切り落とされたことで必然的に前かがみになるゴブリンを私はチェーンソーで切り倒す

「GAaaaaaA!!!!!……Ga」


 肉体を支える力が消えたゴブリンはそのまま塵になって消えていく


「へぇ?モンスターって塵になるんだ……まぁいいや!」


 あっという間に1匹倒した彼女は次の獲物を探して歩き出す


 ──────少し歩いた時


 目の前に巨大な液体の塊が見えてくる。おそらくだが、スライムというタイプのモンスターだろう


 ……本来、スライムは炎や魔力のこもった攻撃しか通じないので彼女は不利的状況だった


 ───が、知ったことでは無い。


「オラオラオラァ!なんだァ?てめえ逃げてるんじゃねえぞ!プルプルしやがって!」


 ちなみ彼女は武器を持つと性格が変わるタイプだったりするので悪しからず


 地面を擦りながらチェーンソーの刃が火花をあげて振り下ろされる。

 が、それはまるで液体には通じなかった。

 しかし


 振り下ろしたチェーンソーが当たった箇所が少しだけ抉れて、辺りに散らばる


 その様子を見て律は


「……なーほどね、液体みたいでも所詮限度があるよなぁ?!」


 ……そう言いながらにやりと笑う


 スライムが放つ水属性の魔法攻撃は確かに幾度となく彼女を貫いた。

 しかしそんなもので彼女は止まらない

 肉体が穴だらけになっても即座に再生するし魔力さえ

『魔力自動回復』により勝手にリチャージされる


 つまり、スライムには打つ手がなかった


 主催者の趣味でなるべくじっくりと苦しませるタイプのスライムだった事も災いして殆ど虐殺に近い攻撃をされていた


 ──────やがてその身を作る核が露出してしまったが、そんなところをわざわざ狙うような人間では無い


「オラオラオラァ!あ?何隠してんだ?……」


 気がつくとスライムの体は残り1割ほどしか残っていなく、おそらくスライムにとっての弱点を必死に少ない部位で守ろうとしていた


 しかし、そんなことどうでもいいので律は核ごとスライムの肉体を砕く


「こいつは叫ばなかったからうるさくなくて助かるねぇ!」


 そんなことを言っていると、先程の先頭音につられてミニゴブリンとミニスライムがたくさん寄ってくる


 普通は、連戦に次ぐ連戦に絶望するところだが律は


「めんどくさいなぁ、まとめてかかってこいよ!」


 そう言いながらチェーンソーに着いたスライムの肉片を振り払う

 その顔には悪魔のような笑みを浮かべて



 ◇◇◇◇◇


 ワーウルフは持っていた武器を投げ捨てて命乞いを始める


 当然、と言うべきだ。


「もごもご……ペッ!さっきからスライムの塊が口に入って気持ち悪い!」


 そんなことを言いながらここに至るまでにいたはずのモンスターの血肉を体に付着させ

 狂気の表情を浮かべながらチェーンソー片手に引きずりながら歩いてくる奴なんて勝てるわけが無い


 ワーウルフは知能が割と高い魔物だ。だからこそ、絶望する羽目になっている……こいつはやばい、と

 そんな様相をみて


「あれ?道がない……こいつを倒せばいいのか?……なら……」


 そう言いながら彼女はチェーンソーを蹴りあげる。

 そうして蹴り上げたチェーンソーを蹴り飛ばす

 判断が遅れたワーウルフはそのまま壁とチェーンソーに挟まれ、体を貫かれながら絶命する


「お!この先道があるなぁ?……こっちがゴールか?」


 ──────これまでに彼女が倒したモンスターは

『ゴブリンチャンピオン』『ハイクラススライム』『アシッドスライム』『ステルスパンサー』『グランドクラブ』『レジェンドワーウルフ』である


 どれもこれもレベルは80を超え、もし外の世界で出くわしたなら死を覚悟するレベルの魔物ばかりだった


 それを彼女はゴリ押しで全て押し切った。


 近くにいた傭兵と騎士に話を聞き、彼女は最後の試練に挑む。



「さて、最後はどんな奴がいるのかな?」


 そう言って扉を開けた瞬間、炎が彼女を襲う
















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