異世界攻略の最適解が『ゴリ押し』一択だった件〜魔王?神?殴ればいつか倒せるでしょ?

皆月菜月

第一章 異世界転移編

第1話 プロローグは泥の味

 昔から細かいことを考えるのは嫌いだった

 特に数学、公式なんて覚えること自体が面倒くさすぎたのでひたすら本自体を暗記してゴリ押した

 ……点数は割と良かった



 英語?そんなものは英語帳ごとゴリ押しで覚えればいい。片っ端から全て覚えれば頭に入ると信じていたから

 ……割と高得点だった


 理系科目は基本ゴリ押しで、文系科目もゴリ押しで突破した


 体育?当然フィジカルでゴリ押し一択。技術力なんていらない、相手を上回る力でねじ伏せればいいだけ


 面接なんて死ぬほど嫌い。ゴリ押しすると高確率で不合格、だから自分に嘘をつくのが気持ち悪い


 回避?防御?そんな考えは私は持っていない。だってそんな暇があれば殴って倒した方が早い


 まぁそんなこんなで私はゴリ押しが好きだった。

 ゲームも同じだ。昔から回復がぶ飲み、回避などせずにひたすら殴り続けるばかり

(だってそっちの方が楽だし……避けるのとか面倒くさいし)


「リッツーマジでゴリ押しばっかじゃん!」


 リッツーとは私のこと、文名 律


 ぶんな、じゃなくて『ふみな』ね。


 よく一緒にゲームしていたネッ友からは『ゴリ押しの姫』『脳筋バーサーカー』とか言われていた

(脳筋では無くてただゴリ押しの方が早い事が多かったからなんだけどね)


 私は正直ゴリ押しできるならゴリ押しすべきだと思う。だって細かいことなんて気にしてたら禿げるよ?

 まぁ私の場合はよく学校でも先生やら母親やらに、あんたは無理やり突き進みすぎ!

 なんて怒られがちなんだけどね


 まぁそれでも割と楽しい日々を過ごしていた。

 ──────あの日までは


 目が覚めたら教室じゃ無くなっていた時、まずは壁をぶん殴ることから始めたのは私だけだろう。


 泥を口に含んでいたのか、ジャリジャリしているが無視して横に吐き捨てる


 すぐに周りにクラスメイトが倒れていることに気がついたが


 私は無視して壁を殴る。

 何故って?

 ……だってそこに壁があったから


『ははははは!異世界へようこそ!おや?まだ貴様らは寝ているのか……ふむ仕方がない!起きろ』


 突然頭の中でうるさい声が響く、うるさすぎて耳がキーンとなるぐらいにはうるさかった声の主は私たちの前に現れた


 先程の声に合わせてみんなの意識が覚醒して言ったのだが

 ま、阿鼻叫喚とだけ言っておくよ。

 実際、私たちは洞窟の中にいた。衛生面では最悪だろうし何より地面がねっちょりしていて制服とは明らかにミスマッチな場面だった


『ふむ貴様ら黙れ』


 声の圧によりその場の空気が固まる。

 その様子を見て満足したのか、その男は再び話し始める


『さてさて改めて、異世界にようこそ!諸君らは我々の女神の力により異世界へと呼び出された』


 今度は別の意味で阿鼻叫喚だった。

 異世界転移、なんてシチュエーションは流石に高校2年生の燻る厨2心に火をつけた


 目の前にウインドウが表示され、そこには

『異世界で自分がどんな戦い方、生き方をするかイメージしてください』

 と書いてあった。

 皆が目をつぶりおそらくたくさんの妄想を膨らませている時に私は目を開けながら考える

『……ゴリ押し一択』

 ダメだ、何度色んな戦闘スタイルを思いついても結局これになってしまう


 もっとエレガントな感じか?……(いやいやそんな手間かけるならぼこぼこにした方が早くね?)


 なら魔法?……(唱えてる時に殴る方が早そう)


 結局周り回って『ゴリ押し』になってしまうのが私の宿命なのか?

 とか考えていたら再び男が話し始める


『ふむ君たちの妄想は理解した!……くくくくく、はははははは!!!愚か!実に愚か!』


 いきなり愚かとか言われたら誰だって唖然とする

「愚かって何ですか!私たちは真剣にあなたに言われた通り想像したんですけど!」


 その声に合わせて皆もそうだそうだ!と言っているのをみて


 案外みんな考えてる事は一緒なんだな……と私は顎を撫でながら眺める


 普段はあんなに異世界?そんな妄想なんてしてるんだとか言ってたヤツも賛同してて本当に人間って面白い


『ふむ、まぁ君たちの理想は分かった……では早速その力を貴様らにさずけよう!女神様あとは……』


『はいはいー!私が女神様ですよー崇めて奉りなさい!……』


 なんかエッチだ。服装がと言うか雰囲気?みたいなのがエッチだ


 そんな女神様に男どもの鼻の下が伸びている。

 その様子を見て嫉妬している女性もまた面白い


『はいはいいきますよ〜えい!』


 その女神の掛け声に合わせて、みんなの身体が光り始める。

 さしずめ、ホタルイカのように。


 光の中で私は目の前に武器選択と出てきて驚いた。

 ──勿論、チェーンソーを取得。だって異世界で剣とか振るうよりこっちの方がゴリ押しスタイルにあってるイメージだったから


 途端、手の中にずっしりとしたチェーンソーの重みが伝わってくる。

 それに合わせて、いくつものスキルが表示されて私の中に入ってくる


「えっと……『超速再生』『完全耐性』『経過身体強化』『攻撃時回復』『攻撃回数に応じて攻撃力アップ』『適応』『魔力自動補充』『自動軽減』『魔力カット率自動上昇』『敵討伐時回復』『魔力自動回復』『敵討伐時魔力増幅』『自動魔力増幅機構』……まだあるけどなんか見えないな……」


 っていうかすっごいゴリ押しする気満々のスキルばかりだった。

 多分自分がやってるMMORPGでもこんなスキル構成だったはず。

 ということはそれに近しいものを持ってきたのか?


 光が戻った時、みんなの見た目が少し変化していた。

 おそらくあれは理想な自分という事か?……まぁ私は元がプリティとか求めてないですし変わってないとは思うけど


「お前何手に入れた?……俺はね『超攻撃魔法』!『魔力無限!』」


「おいおい俺は『ハーレム作る能力』でハーレム作るんだから邪魔すんなよ?」


 ……あれ?

 私は首を傾げる

 他の人はスキルを多くて3つ程度しか手に入れていなかった。

 私だけなんか多くね?……


『ふふふふふ皆様、欲張りなお方達ですねぇ……願いが少ないほど多くのスキルを貰えたというのに……そんなに欲張るからスキルが少なくなってしまったんですよ?』


「はぁ?!……自分が欲張って何が悪いんだよ!」


 なるほど、私がスキルが多かったのは『ゴリ押し』だけしかイメージ出来なかったからか


 そう言いながら男は女神を下がらせながら浮かれている私たちに衝撃の一言を投げかける


『──では皆様、力は手に入れましたね

 いいことです……ですので


 皆キョトンとしている中、私は勝手に納得していた。

 それはそうだ、そもそもなんで洞窟なのか分からなかったがここはダンジョンというわけか


 私は取り敢えず武器を手に持ち、ゴリ押しする準備を始める


『───ああそれから……制限時間内に外に出れるのは4名のみ。

 ほかの人たちは我々の奴隷として使役させていただきます……勿論外に出ればその瞬間から自由……

 どうぞこの異世界を堪能してください』


 はぁ?と皆が呆気に取られている間に男がパチンと指を鳴らすと


 私たちはいきなり細道に飛ばされる。


 アナウンスがかかり


『まずは皆さん1人で挑戦して頂きます

 勿論、モンスターも出てきますし、死んだら先程の場所からやり直しとなります

 ……おやなんでそんなことを?と怒っていらっしゃるようですが……


 当然どうやって扱うかは私たちの自由な訳です……

 ほらほら、早くしないと他の人が先にゴールしてしまうかも知れませんよ』


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふざけるのはいい加減してくれ!」


 俺は叫んだが、反応は無い。くそ、マジで性格の悪い奴らだ


 俺はぶつくさと文句を言いながらも


 待てよ?逆にチャンスじゃね?と思った


 ここで女性達にアピールすればクラスのマドンナ、真子ちゃんと付き合えるかも!

 ……ふふふふふ


 俺は急に未来がより開けた気がして立ち上がる。

 そうと決まれば、まずはモンスターなんてあっと言う間に倒してやらないとな!


 俺は浮かれながら少し歩く。

 するとそこにモンスターが現れる


 ──────「は?」


 俺は勝手にこうイメージしていた。いわゆる通過試験的なもので大したモンスターは出なくて

 だけど最後に超強い敵が現れてそれをチート能力で倒して俺最強〜ってやるという


 そんな妄想は見事に打ち砕かれる


「「「「GGGGAAAa!」」」」


 高さ3mほどの大柄なモンスターが立っていた。

 そいつは身の丈ほどの大柄な大剣をゆっくりとこちらに向ける。

 そして


「ぇ?……なんで俺、倒れて……」


 体を貫くような衝撃が走り、俺は強制的に体が倒れる。

 起き上がろうとしても、体が動かない。

 かろうじてなんとか起き上がると


 ──────「ひ、ゃあああああ!……あ、足、俺、俺の足足足……足……」


 膝からしたが無くなっていた。そこから真っ赤な体液がボタボタと垂れて

 血溜まりを作り……その足を貪り食う大柄なモンスターと目が合ってしまった


 あ……


 最後に見えたのは、手にした剣を振り下ろす描写だけ



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は先程の場所で目を覚ます。

 胸の鼓動が収まらない、何かが胃の中を伝ってせりあがってくる


「ゲボ、……ごぼぼぼ……ごぼぼぼ…………はぁはぁ……はぁ……げほ……」


 俺は自分の足を無意識に触れる。良かったまだ着いている


 見ると周りでも阿鼻叫喚の様相が広がっていた。

 男女問わず皆吐いたり泣いたりしている。


 俺も先程の光景を思い出し、体の震えが止まらなくなる

 ──────あんなのを倒せ?と


 剣を抜くなんて考えにすら至らなかったぞ?


「おい!お前あんなの勝てるわけが無いだろ!」


 俺がそうやって言った途端

 その男を含むいつの間にか集まっていた騎士と冒険者のような見た目のヤツらがにやりと笑うのを見て


 俺は確信する。


 ──────「こいつら、はなから俺たちを外に出すつもりなんて無いんだ!」と


『おやおや?皆さんチート能力は貰ったはずでは?

 その有様を見るに……

 やはり異世界人は心が弱いのですかな?』


 ふざけんな!と俺は怒鳴ろうとしたが、既に疲れ果ててしまっていた。


『ちなみにこのダンジョンには基本的に『ゴブリン』『スライム』『ワーウルフ』しかいませんよ?』


 そう言いながら男は内心でこうつぶやく


(まぁ実際は上位個体ですけどね)


『さて?まだまだ時間はたっぷりあります……早くしないと一生奴隷、かも知れませんよ?』


 俺は自分の腹を殴り、吐き気を抑えながら立ち上がる。


 ちくしょう、諦めてたまるか……せっかくの異世界なんだぞ!


 そんな俺を見て、再びみんなが立ち上がる。


『いい意気込みですね……

 ……ではまた』


 そう言うと再び飛ばされる。


 俺は息を吸い込み

 魂の限り叫ぶ

「──────やってやるよこの野郎!」



 ◇◇◇◇◇



 ところ変わって出口。


 傭兵と騎士が会話していた


「また悪趣味なことを好むねぇ……この国の王様だと言うのに……」


「まぁ異世界人なんて信用ならないし、試すってのは賛成だぜ?……しっかし可哀想だよなあ……なんせ……」


「ここにいるのは基本外の世界の上位レベルの奴しか勝てないようなモンスターばっかだからな……俺3年ぐらい見てるけど今まで出てきたヤツ殆ど見たことねえもん……」


「しかもこの後に三体ボスモンスター倒さなきゃ出られないんでしょ?……マジで無理ゲーでしょ……まぁ異世界人は利用価値が高いから1度心を折るのが重要だもんな」


「心を折って勝てないと植え付けてから勝てるように先導していく……まぁ立派な洗脳行為だよな……」


 そんなことを話しながら座っていると、洞窟の方から何かが回転する音が聞こえてくる


「「?!誰だ!」」


 2人は慌てて臨戦態勢を摂るが、そいつには1ミリも敵意を感じなかった。


 ──────「あの……出口ってここですか?」


 そいつはボロボロの服にモンスターの体液を纏わせ、ゆっくりと歩いてきた。


 その服装から間違いなく先程の異世界人の中の独りだと理解した2人は


「あんた、まさか……クリアしたのか?!嘘だろ、この洞窟を!!」


 ──────「?勿論ですけど……ゴリ押しすれば普通に行けたんで……」


 2人は信じられないという顔をする。もし自分達でもクリアできるかは怪しいレベルのものを


 こんな女性が、しかも異世界人がという事実に困惑する。


「あんたすげえけど……

 その……まだこの先にボスが居るんだ……だからそいつを倒して初めてゴール何だよ……」


 そう申し訳なく言うと、女は


「はぇーまだ居るんだ。ま、いっか……さっさと潰すとしようかな〜」


 そう言いながら門の方に歩いていった。


「!そうだあんた名前は!……それだけ教えてくれ」


 思わず名前すら聞き忘れるところだったが、すんでのところで思い出し尋ねる


「?文名 律ですが……何かついてますか?不思議な顔……まるで狐につままれ……この世界って狐いるのかな?……」


 ◇◇◇◇◇◇


 門を開けて中に入っていく姿を2人は見届ける


「なぁ、でも確かあのボスって普通にやべえやつばかりじゃ無かった?」


「そうなんだよ……だから流石に……」









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