第2話 ラフニール家

・0歳 4月4日 死神が来るまで、あと17年。


気づくと、俺は、見知らぬ二人の男女と一人の少年に囲まれていた。

男の方は銀髪で、ガタイがいい。

女の方は茶色の髪で、優しそうな目をしていた。少年は、大体3歳くらいの子に見えた。茶色の髪に銀のメッシュが入っている。 え誰?


男の方は言った。

「無事に産まれたのはよいが、泣かないな。」

女の方は、

「そうね……心配だわ……。」

と、眉を八の字に曲げながら言った。

少年も、心配そうに俺を見つめていた。


 ふと、自分の身体を見る。 

ーー手がちっちゃい。

 どうやら、本当に転生したみたいだ。身体が赤ん坊になっている!ーーまじか。


 つまり、この二人は両親で、じゃあ横にいる少年は……兄か!

ーー夢じゃないよな?本当に。


……どうやら、泣かないことを心配されているらしい。ふむ。泣けばいいわけだよな?

 よし、ここは一つ、俺の演技のうまさで安心てやろう。……まずは、人生で悲しかったことを思い出そう。えーと、

 

 ーー小さい頃、クリスマスにサンタさんからもらったゲーム機、3日で壊したこと……小学校で、友達の前で小便漏らしたこと……中学生の頃、一生懸命に描いた絵を先生に見せて鼻で笑われたこと……あれはマジでキツかったな……初めてできた彼女の前で大便漏らしたこと……高校の新しいクラスで自己紹介するとき、緊張でまた大便を……

 あっやばい、本当に泣きそうになってきた。

 

 まあいい!この気持ちを乗せて叫べ!

うおおおお!!!


「おんぎゃぁ!うぉんぎゃ!おんぎゅあ!おんぎゃあ!うぉぉんぎゃあ!!!!」


どうだぁ!俺の渾身の泣き真似は!     さあ安心しろ!!


…………。



父は、「元気なのは……いいことだよな……

ハハッ……」

    

母は、「……………。」


最後、兄。

「こわいよぉ〜〜〜〜!うえ〜ん!!」



ーーよし、失敗ッ!!!!

 くそがァ!……後で練習しとこ……。




俺は、鴨内かもない まこと。17歳。不登校。

だが、今は違う。

名前はシモン ラフニール。0歳。乳幼児。


 今の目的は、首を座らせることだ。


父は、マライ ラフニールという。結構腕の立つ冒険者だったらしい。

 母は、ランダ ラフニール。もともとただの酒場で働く町娘だったんだけど、父が旅の中で出会い、意気投合して結婚。二人とも冒険者を辞めて、今はここ、アンガ村という田舎で暮らしているらしい。

 そしてそんな中産まれた子どもが俺と、

俺の兄、レジアナ ラフニールだ。2歳。

 

 父は冒険者の時にかなり稼いでいたらしい。腕を買われ、有名な貴族の護衛をしたり、危険度の高い魔物を討伐したり。その分のお金のおかげで、息子である俺たちは不自由なく暮らせている。

 

 まぁ、まだ赤ん坊で自由に行動できない。

しばらくは周りを観察して、この世界のことをいろいろ知っていくのがいいだろう。

  

  ーーあやべ、うんちでる。














・5歳 7月5日 死神が来るまで、あと12年。

 おはようございます、5歳のシモン ラフニールです。

今日は、母の誕生日だ。


「誕生日おめでとう、ランダ。」

「おかーさんおめでとー!」

「うふふ、ありがとう」

 父と、兄のレジアナが料理をする母に祝いの言葉をかける。父が俺に言う。

 「ほら、シモンも、お母さんにおめでとうを言いなさい。」

 ……俺の出番か。ふふ。



「おはよう、母さん。今日はとてもいい日だ。

鳥のさえずりが聴こえる。空も晴れ渡っている。まるで、自然も母さんの誕生日を祝っているようだよ。ーーおめでとう。」



















さて、家族全員にめちゃくちゃドン引かれたところで、今の自分のことを話しておこう。あれからもう5年も経っちゃったけどね。

 まず、自分の身体の成長のこと。

 

兄や他の子供と比べ、かなり早い。

立ち上がるのも、話すことができるようになったのも早い。ーーおそらくは、特技スキル

『身体能力強化』のおかげだと思う。


 身長も高い。今の時点で兄と同じくらいだ。

ちなみに、俺の髪は兄と反対で、銀髪に茶色のメッシュが入っている。なんかいいね。兄弟って感じだ。 


 それと、この世界のことについて。母の本の読み聞かせで知ったことについて説明しよう。

 

 この世界は、もともとかなり文化や技術の発展が遅く、別種族との争いも絶えなかったらしい。そんな時、突然自分のことを《魔王》と名乗る人物が現れ、魔族を率いて人々を襲い始めた。

 そんな事態に驚いた人間達は、争いをやめ、互いに手を取り合い、魔王軍と戦った。多種族と協力したおかげか、文化や技術は急速に発展。最初は劣勢だったものの、初めてスキルを持った人間ーー勇者が現れ、次第に優勢に。

 勇者は、スキルを持った人々を集め、魔王の拠点へと向かい、大勢の犠牲を出しながらも、見事勝利。

 この一連の流れのことを、《魔神戦争》

  ……と呼んでいるらしい。かっこいい。

 ただ、皮肉なことに、魔王が討たれてからは、やれ魔王にやられた被害に対する責任やら、技術の独占がどうこうと、種族ごとの仲は次第に悪くーーというか、元に戻っていった。

 魔王がいた時の方がまだよかったってことか。やれやれ、勇者さんが天国で泣いてるぞ。


 というか、この魔王ってもしかして、ギャル神様が言ってたやつなんじゃないか?確か、

『目を合わせた人間を殺す魔法』?だかなんだかを頼んで転生したやつ。……じゃあこの魔王は人間で、しかも俺と同じ世界から来たってことか。

 でもこれ、はるか昔のことだもんな〜。

そんな昔から人間のこと転生させてんの?ギャル神様。……うーんわからん。情報が少ない。

 

 あそうだ、うちの兄について。

どうやら、俺のことあんまり好きじゃないみたいだ。

 一緒に遊ぼうと誘っても、

 「……一人で遊べよ。」と冷たい。

 多分だけど……

 俺は、このスキルのおかげで、かなりグングン身体が成長してきた。だが、両親はそのことに気がついていない。まさか、産まれたばかりの子供にスキルがあるとは思わないだろうし。

 そもそも両親はスキル持ちではないし。

 

 その結果、父と母は俺を過剰なほど心配していた。しだいに兄より俺の方に両親が構うことの方が多くなった。……それが気に食わないのだろう。


 後は、7歳になって始めた剣術の練習がうまくいっていないのもあるだろう。

 

 「ーーうりゃぁ!」

ーー外では、兄レジアナが剣を振っていた。 

「違う!もっと素早く!」


 父は、冒険者だったためか、自分の子供が7歳の誕生日になったとき、プレゼントで剣をあげることにしているようだ。そして、父じきじきに剣術を教えている……んだけど、正直言って兄には才能がない。いつも父に怒られてばかりだ。

 

 ……うーん。どうしたらいいかな。

両親と兄にスキルのことを話すか?……いや、多分逆効果か。

 剣の腕に対しては兄の頑張り次第だしな〜。

  

兄が剣の素振りをやめ、家に入ってくる。

ちょっと一声かけてやろう。

 「あっ兄さん!お疲れさま!」

「ヒッ……あ……うん。どうも。」


 

 うーん……なんか、避けられてるというよりか、怖がられてる?感じがするな。え〜?俺なんかしちゃった?なんかやらかしちゃいました?……何も思い当たる節ないけどなぁ。


 


 もしかして、俺が産まれたばっかの時の、泣き真似じゃないよな?あれがなんかトラウマになってるわけじゃないよな?

 ーーもしそうだったらごめん。我が兄よ。


 













・7歳 4月4日 死神が来るまで、あと10年。

とか思ってるうちに、もう産まれてから7年立っちゃいました。時の流れは、はやい。


「シモン、改めて、誕生日おめでとう。」

「……ありがとう、父さん。」

 俺の誕生日パーティーも終わり、みんなが眠りにつこうとしたところ、父に呼び止められた。 

 ーーなんだろ?


「お前ももう7歳か。……早いもんだ。身体の成長は早すぎるくらいだがな。」 

 そういい、父は苦笑した。

うん、俺も思ってた。

 

 あれからも身体の成長は止まらず、背もかなり大きくなっていた。知らない人が見たら、誰も7歳とはわからないだろう。


「……お前にこれを渡さなくちゃな。ほら、お前の剣だ。……鞘から抜いてみろ。」

そういい、俺に剣を渡した。


 おおお、ずしっと来る。これが剣の重さね。

そう思いながら、俺は剣を抜いた。

刀身に明かりが反射して、きらりと光る。

 目立った装飾があるわけではない、普通の剣だったが、ーーなんだか無性に嬉しかった。

 そうか、これが本物の剣。

 ーー俺の今日からの相棒。


 「ありがとう父さん。大切に使うよ。」

 俺はそういい、口角を上げる。

 「ああ。……明日から早速練習だ。今日は自分の部屋に戻ってもう寝なさい。」

そういって、父は自分と母の寝室に入っていった。









 

 


 

 




 













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転生したら退役した魔物喰いの騎士の弟子になったので、神様をぶち殺そうと思います。 ドアノブ半ひねり @yukida

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