第1話 ギャル神様

「ーーい。ーーくん。ーーない君。

 鴨内誠くん。起きて〜、朝だぞー。」

ーー誰の声だろう。女の人の声だ。でも母さんじゃないし、えっと……


 パッと目を開ける。そこには金髪で、学校の制服のようなものを着て、耳にはピアスが何個か、長い爪にはネイル、髪にはアクセサリーをたくさんつけたーー俗にいうギャルが立っていた。結構、いやめっちゃ可愛い。

 

 いやまって誰?というかここどこ?

そう思い、周囲を見渡すと、ーー砂漠が広がっていた。ビュゥと風が吹くと、砂がぶわりと舞う。空からは日光がジリジリ降り注ぐ。サボテンもある。ーーえ?ほんとにどこ?


 さっきまで何してたっけ?えーと......



 確か、今日も学校休んで家の布団で寝てた。それから、母親が学校からの電話に出てて、電話越しに謝ってるのがぼんやり聞こえて、辛かったから耳を枕で塞いで、布団に潜り込んで、それからーーどうしたっけ?


「こんにちは。私は、神様でーす☆イエーイ!

そして君は、死にました。ついさっきねー。

いやー君もかわいそーだねぇ。十七歳で心筋梗塞でポックリなんてさー。」

 突然ギャルが言う。ーー何言ってんだこの人?


「あの、急に何を......というか、ここどこなんですか?」

 僕が尋ねると、彼女は言った。

「ここ?ここはあーしの世界だよー。ま、わかりやすい言い方だと死後の世界だね。なかなかいい景色でしょ?君のために結構頑張ったんだかんねー。」

「ごめんなさい。言ってる意味がよくーー」

「あーもう、物分かり悪いなぁー!テンション下がるわ。異世界転生?とかいうやつなんだわ。ほら、あのラノベ?とかアニメ?とかいうやつの。」


 

 「最近お前らの世界ではさ、まじ人が死にすぎてんの。ほんで、死後の世界はもー死者の魂の処理で大変なわけ。処理っていうのは、こいつは悪いこと結構してるからあっちに、こいつ結構善いことしてたからあっち、みたいに振り分けんの。割と時間かかる仕事でさ。そんなもんで、あーしたち神様からしたら、もー大変で、なんかいい方法ないかっていろいろ話してたわけなんよ。


 そしたらあんじゃん!君たちが作った本に載ってんじゃんいい方法が、って。ギャクユニュウ?てやつよ。


君たちの世界で死んだ魂の中の一部を、一旦別の世界に移し替える。でもすぐ死んでもらっちゃ困るから、特別ななんか与えて、楽しく生きてもらってる間に、あーしたちは魂たちの処理をする。めっちゃいいじゃんこれ!って、あーしたちはみんなしてびっくらこいたわけ。いやー君たち人類もなかなかやるねー。ほめてつかわす!!」


 ……なんだかとんでもない話をされているが、いったん納得するしかないだろう。実際、そうじゃないとこの周囲に広がる砂漠について説明できないし。ーーでも俺マジで死んだの?えー?やっぱ納得したくないなぁ。

 ギャルーーいや、ギャル神様は続けて言う。


「まぁそういうことだから。大丈夫っしょ?

君そんなに人生楽しくなさそうだったし。実際君、ストレスで心筋梗塞になってっし。第二の人生楽しんでみたら?」

人生楽しくなさそう、ってーーなかなか結構失礼なこと言うなこの神。 

 まあ事実なんだけどさ。ていうか俺、ストレスで死んだの?マジ?納得したくないことがどんどん増えてくじゃん。……まあいいか。よくないけど。


 「……さっき、転生するとき、特別な何かを与えるって言いましたよね?例えばどんなもの

があるんですか?」

俺は気になったことを聞いた。

ギャル神様は答える 

 「あぁ、えっとね。君が今からいく世界は、剣と魔法の世界。で、そこには特技スキルっていって、まあ才能の言語化?みたいな感じのがあって。それを与えんの。

 今まで与えたやつで言うと、例えば『聴力増加』っていうスキルはめちゃめちゃ耳が良くなるし、『炎魔法』だと炎魔法の威力がめちゃくちゃ上がるし、『龍変化』だと、いつでもどこでもドラゴンに変身できる。

 スキルは、普通はいつどこでどうやって身につくのかもわかんない珍しいやつだから、それがあるだけであの世界では結構エリートになれるよ。知らんけど。」

 ふーん、まじで異世界転生ものそのままじゃん。ちょっとだけワクワクしてきたかも。


「それは、こちらが内容を自由に決められるのですか?」俺は二つ目の質問を神にぶつける。

「うん、自由に決めていいよー。」

 まじか、いいの?何が良いかな〜?魔法系はテンプレだけどいいよなー。ここは思い切ってチート能力でも頼んじゃう?

やばい。“自由にして良いよ!”とか言われると逆に決めらんないな〜?

…………よし。


「じゃあ『身体能力強化』でお願いします。」


「ふーん?そんなんでいいの?」

「はい。」

「ならいいや。」

 もともと、鈍臭さや運動神経のなさが原因で……いじめられてたんだ。第二の人生くらい、思いっきり身体を動かしてたいものだ。

 それに、ゲームとかでも魔法やアイテム使うのはあんまり好きじゃなかったしね。やっぱり男なら剣よ。


 「そっか。結構欲ないんだね。前に転生した人たちとかすごぉいよー。やれ『催眠』だの『奴隷化』だの、『目が合った人間を殺す魔法』だの。」

 え?そうなの?まじかそこまで?みんなエグいの考えるな〜。ちょっともったいなかっーー

ーーあれ?

「……スキルって、発現すること自体が珍しいんですよね?そんな中で、そんな好き勝手できそうな力があったら、大変なことになるんじゃ……?」


 「うん。さっき言った『龍変化』の人は、ニ万人くらい殺してたね。《これでやっと夢が叶うッ……!!》とか言って。『目が合った人を殺す魔法』を頼んだ人は、数えきれないくらい本当にたくさん殺してて、65歳まで魔王やらとして君臨してたみたい。まあそいつも?勇者なんたらにいつのまにか倒されてたけどね。」


俺は言った。

「それは……だめなんじゃないですか?」

「なんで?」

「……人がたくさん死んでるから。」


 

 「なんで?人間なんかすぐ増えんじゃん?あーしたちにとっては別にどーでもいいし。あっちの世界の担当の神様からもオッケーもらってるし。それに、君たち人類からも結構好評だったんだよ?」


「でもそれはーー人間として良くないことなんじゃ……」


「じゃあさ?君をいじめてた子達はなんなの?君のことなんかどーでもよかったから、いじめなんかできたんじゃないの?


結局さ、人間そんなもんだよー。死なんて、

生なんてそんなもんなんだわ。知らんけど。」



ーーそうか、そうなのかもしれない。

俺をいじめたやつだって、楽しそうに笑っていたじゃないか。俺が死んだと聞いたって、へーそうかで終わるんだろう。



ギャル神様はいう。

「うん。じゃあそういうことで……わー!!忘れてた!!あははごめん!一番大切なこというの忘れてた。」

「何ですか?」

俺はふと我に帰り、ギャル神様の言葉を聞いた。


君が、前世で死んだ年齢の『17歳』の

誕生日。

その深夜。

あーしの手下が君の命を回収しにやってきます。

だから、おとなしくズバッとやられといて。

これは、本来死ぬ筈だった運命を変えた者にかけられる、守らないといけない契約。

そして、呪い。


 ーーえ?

「死ぬまであっちにいられるわけじゃないんですか?」

「そんなうまーい話ないよ!あははは!」

「……手下っていうのは?」

「あー。君たちの世界でいうと、死神かな?

ほんとはそんな手下なんか出さないで、するっと魂を抜いたりできたらいいんだけどね。

こっちもいろいろ事情があって。」

「ーー倒せたりは?」

「ーー本気で考えてんの?むりむり!あはははは!!!

 今まであーしの手下を倒せた人間なんて

 

まぁ、おとなしく、17歳までの人生、楽しむといいよ。」


ギャル神様はそういうと、人差し指をくいっと下に向けた。


すると、自分の立っていた地面ががぱりと円状に開いた。




17歳で死ぬ、だって?もういっかい?もっと早く言ってくれよ。

……とんでもないことになったが、もうしょうがない。第二の人生、精一杯楽しむとしよう。


そして、僕の身体は落ちていった。


穴の中の闇に。










ーーまってこれ、けっこう怖いッ!!


「うわああああああああああ………


 


 


















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