第6話 ドラグニアガーゴイル

 ルシアンが叫ぶ声が聞こえると同時に、ヴァレリアは咄嗟に振り向いた。そこには、今まさに自身の身体を裂こうと爪を振り上げる龍の模倣ドラグニアガーゴイルが居た。


 「――血盾ブラッディ・シールド!」


 予期せぬ事態に反応が遅れてしまう。攻撃を防ぐために、咄嗟に血魔法を使うが状況は悪い。


 龍の模倣ドラグニアガーゴイルが二体?いや――こんな近くに二体もいるわけがない。

 ヴァレリアは、直ぐに状況を分析すると翼を落として地面に倒れた龍の模倣ドラグニアガーゴイルと、目の前の龍の模倣ドラグニアガーゴイルを見る。


 分裂したのか?よく見れば、身体が小さくなっているように感じる。


 ――核を二つ持っている?もしくは片方にだけ核があり自律可能?

 どちらにせよ、両方を倒さなければいけないわけだが、今のヴァレリアにはその余裕がない。


 「ルシアン!下のガーゴイルのとどめを頼む。俺はこっちを片付ける」


 できれば、ルシアンを戦闘に参加させたくなかった。しかし、今はそのようなことを言っている状況ではない。


 「わかった!」


 ルシアンはそう言うと、超貫雷撃トゥレイトラックニングという、威力を重視した雷魔法を地面に倒れる龍の模倣ドラグニアガーゴイルに放つ。

 そのまま、一体目の龍の模倣ドラグニアガーゴイルは倒され残るは一体のみ。


 「ヴァレにい!こっちは終わったよ!」


 「この際、血の大半を使ってでも核を破壊しなければ負ける」


 龍の模倣ドラグニアガーゴイルの核が岩の悪翼ウィング・エビルガーゴイルと同じ小石程度の大きさとも限らない以上――一撃で木端微塵に破壊する必要があると踏んだヴァレリアは、現状で最も破壊に適する血魔法を行使した。


 「真・血槌トゥルー・ブラッディ・ガヴェル


 ヴァレリアがそう呟くと、龍の模倣ドラグニアガーゴイルを挟み込むように鮮血の槌が一瞬にして構成される。至近距離でしか使用できない分、その速度も威力も桁違いな魔法――ガヴェル

 そして――超速雷撃エレクトロニングの何倍もある速さで振り下ろされたそれは、上空に浮かぶ龍の模倣ドラグニアガーゴイルを圧砕あっさいした。


 真血槌トゥルーブラッディ・ガヴェルを解除したヴァレリアは、龍の模倣ドラグニアガーゴイルが再生を行っていないことを確認する。どうやら、無事に破壊できたようだ。


 「終わったの?」


 ルシアンが問いかけると、ヴァレリアはすかさず答える。


 「ああ、うまくいって良かったよ」


 ――影の領域の境界を守るガーゴイルは死んだ。これで、ルミナーラの森へ入ることができる。

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