第49話 ドワーフが集う店

「いらっしゃ〜い!」


 店に入ると女将さんが声をかけてくれた。

 歳は40代、150センチ位の背丈で気が強そうな金髪美人だが、女性なのに筋骨隆々で肩幅が広い。

 どことなく、日本が誇る霊長類最強女子さんに似ている。

 

「お客さん、1人?」


「はい」


「じゃあ〜カウンターに座ってくれる〜?」


 オレはうなずきカウンター席に座るとメニューを渡された。


「お客さん、この店は初めてかい?」


 女将が水の入った銀のコップをくれる。


「はい。最近この街に来たばかりなんで」


「へえ〜、あんたよく見ると異国人だね? 旅人なのかい?」


「ええ、しばらく滞在しますが、そんなところです」


「そうかい、私達ドワーフ族も外から来たんだ、よそ者同士仲良くしようや!」


 ウインクをして優しく笑うここの女将は、母親の様な雰囲気があり好感が持てる。


 オレはメニューを開くと、肉料理セットとエールビールを頼んだ。


 後ろのテーブル席では長い髭を生やした筋骨隆々の、いかにもドワーフらしい風貌の団体が酒を飲んでガヤガヤしている。


「ラゲルタ、火酒5つ追加だあ〜!」


「あいよっ!」


「あんたっ! 肉料理セット1つ頼むよ!」


「おう!」


 太い声の男が、厨房で客席に背を向け調理をしている。後ろ姿だが、筋骨隆々でやはり長い髭を生やしている。背丈は160センチ位か。また、女将の名前はラゲルタというらしく太い声の男が旦那の様だ。


 ドワーフのイメージはもう少し背丈が小さくて老けた顔という感じだったが、ここにいる人達は、この街の人と比べれば少し背が低い程度で大きな違いは無い。また、若い顔のドワーフもいるが、髭を生やしているので実年齢よりは老けて見える。

 但し、共通して言えるのは男も女も筋骨隆々で肩幅が広い事だろう。


 オレが店の中を観察している間に料理が出来た様だ。


「はいお待ちっ! 肉料理セットとエールだ」


 ラゲルタさんは、じゅうじゅう鳴っている肉厚のステーキ、山盛りポテトフライ、山盛りサラダ、それと銀の大きなコップに入ったエールビールをオレの前に置いた。

 ちなみに、バスケットに積まれている田舎パンは好きなだけ食べても良いらしい。


 どれもが大盛りサイズ。普通の人では食べきれない量だ。しかし、大食いのオレにとっては普通、むしろ少し足りない位だ。


 オレはエールを一口飲むと、ホークとスプーンを構えて一気に食べ始めた。

 あっという間になくなる料理を見て、ラゲルタさんが驚いた顔をしている。


「お客さん、いい食べっぷりだね〜。先祖にドワーフの血でも入っているのかい?」


「いえ、たぶん無いと思うんだけど、ドワーフ族は大食いなんですか?」


「ああそうだよ。純粋な人族はこの量に驚いて、次からはこの店を避けるのさ。アハハハハ!」


 オレは料理を全て平らげ、エールを飲み干して言った。


「オレはこの店が気に入りました。また来ます! いくらですか?」


「アタシも気に入ったよ! あんた名前はなんて言うんだい?」


「ソーマです」


「ソーマかぁ、アタシはラゲルタだ。よろしくな!」


 ラゲルタさんと握手を交わし、食事代の銅貨60枚を支払い店を出ようとした時、後ろのテーブル席で盛り上がっているドワーフの1人に呼び止められた。


「兄ちゃん、ちょっと待ってくれ。その剣は通りの武器屋で買ったのかい?」


「はい、そうですが……」


「それは俺が作ったんだ。使い心地はどうだい?」


「ええ、手に馴染んでとても良いです」


「そうか、そうか、どうだ兄ちゃん、俺のおごりでもう一杯付き合わないか?」


 オレを誘ったのは気の良さそうな感じのドワーフだった。


 オレは少し考えた。ここで武器職人と繋がりを持っておくのも良いかもしれない。


 オレはうなずき2人でカウンターに座った。


「兄ちゃん、エールで良いかい?」


「はい」


 オレ達2人の前に、エール2つとビーフジャーキーが出てきた。


「干し肉はアタシからのおごりだよ!」


 オレはラゲルタさんにお礼を言ってビーフジャーキーを口に運ぶ。


 美味い! 料理も美味しかったが、これは格別だ! それにエールが進むっ!


 オレを誘ったドワーフもラゲルタに礼を言うと、早速話が始まった。


「俺の名は、アウレって言うんだ。よろしくな!」


「ソーマです。よろしく!」


 オレ達はエールで乾杯をした。


「実はな、俺はまだ25歳で駆け出しの鍛冶屋なんだ」


 えぇ〜!? 30代に見えるんですけど〜!


「お前の風の剣は俺が最初に作った特殊剣なんだ」


「特殊剣?」


「ああ異国人だから知らね〜か。剣には普通剣と特殊剣があるんだ。魔石の数と同じ数の能力が付与された物を普通剣。魔石の数より多くの能力が付与された物を特殊剣と言うんだ」


 なるほど、風の剣は魔石を2つ使い、速さと攻撃のバフ、それに瞬歩と3つの能力が付いている。これが特殊剣という事だ。


「風の剣はそれなりに満足しているんだが、俺はもっと凄い剣を作りたいんだ。先輩達に負けない位の……」


 アウレはちらっと後ろを見た。


 どうやら、後ろの席に負けたくない先輩がいる様だ。


「ソーマ、俺がもっと凄い特殊剣を作る為に、お前の風の剣のメンテナンスをさせて欲しい。良い点と悪い点、何が足りないか、なんでもいい、定期的に意見を聞きたいんだ。だからお前の専属スミスにしてくれないか?」


 専属スミス!?


 アウレの剣は非常に使い易い。瞬歩も気に入っている。それに、香織パパからの特別依頼もある。鋼の剣が充足してから考えようと思っていたのだが良い機会かもしれない。


「分かったよ。アウレ、よろしくな!」


 オレはアウレと握手を交わし、早速特別依頼の話をした。


「なあアウレ、カタナって知ってるか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る