第39話 八咫烏
「タケじい、タケじい、大変な事になっちゃったよぉぉ〜!」
周りの観衆はオレとボス鳥を中央に残し、数歩後ろへ下がって円状に取り囲んだ。
「焦るでない創真よ、まずは鑑定じゃ!」
オレはボス鳥を鑑定する。
魔法障壁 Lv2
スキル 千里眼
おいおい、レベルが20もあるじゃないかっ! オレはレベル8しかないのに、どうやったら勝てるんだよお〜?
「ふ〜む、八咫烏か〜。随分と久しぶりじゃの〜」
「タケじい、八咫烏を知っているのか?」
「まぁな。1800年前にワシに仕えておった魔物じゃ! 弱点も知っておるぞえ」
どうやら弱点がある様で、少し希望が出てきた。
「創真よ、ワークマンで買った警笛を準備するのじゃっ!」
オレは気にはなっていた。何でワークマンで笛を買う必要があったのか?
きっと、タケじいは八咫烏に遭遇する事を知っていたに違いない。
「さすがタケじい、八咫烏と戦う為に笛を用意してたんだね?」
「いや、相馬が遭難した時に笛で助けを呼べるかな〜と思ってな。しかし、思わぬ所で役に立ちそうじゃわい。カカカッ!」
「……で、どうすればいいんだよっ?」
「ヤツは周波数の高い音に弱いんじゃ。おそらくは空からお主の目を狙って特攻を仕掛てくるはず。
その時に警笛を思いっ切り吹くのじゃ! そして、ヤツが怯んだら、剣の鞘でヤツの頭を力一杯殴り付けるのじゃっ!」
「わ、分かった」
八咫烏はこちらを睨みつけて言った。
「おう、兄ちゃん! そろそろ始めてもいいかあ? 逃げるなら今の内だぜっ!」
「ああ、いつでもいいぜ!」
オレは剣を抜かずに構えた。
「てめぇ、剣は抜かね〜のかあ〜? レベルが8の癖に舐めやがって!」
やはり、千里眼でオレを対戦相手に選んだ様だ。
「それじゃ、行くぜ〜! 謝るなら見逃してやるぜ〜? 今の内だぜぇ〜?」
「いいから早く来いよ〜」
オレはだんだん面倒くさくなってきた。
「後で後悔するんじゃね〜ぞ!」
そう言って八咫烏は空へ舞い上がると、オレに狙いを定め一気に急降下する。
「今じゃ、創真っ!」
オレは胸一杯に空気を吸うと、思いっ切り警笛を鳴らした。
ピィィィイイイ〜〜〜!!!
甲高い笛の音が辺り一帯に響き渡る。
すると、急降下していた八咫烏が、方向感覚を失って、きりもみしながら落ちてくる。
オレはすかさず八咫烏の頭を鞘で引っ叩いた。
ガッコォ〜ンンン!!!
八咫烏は一回転して吹っ飛び、気を失って地面に倒れた。
周りの観衆はしばらく沈黙していたが、オレの勝利を確信すると一斉に歓喜の声が上がった。
「良くやったソーマ!」
「やるじゃね〜か!」
「私は信じてたよ!」
「ソ、ソーマ!」
喋れよっ!
魔鳥達は慌てふためいていた。
「ソーマ、とどめを刺すなら今の内だよ!」
キャロルが腕押ししてきたが、それを制して皆んなに向かいオレは頭を下げる。
「皆んな、このボス鳥はオレの祖先と関係があるんだ。済まないが命を助けてやっても良いだろうか?」
皆んなは、にっこり微笑み、うなずいてくれた。
オレは気絶している八咫烏に近づいて体を揺する。
「う、う〜ん、何が起こったんだ?」
八咫烏は意識朦朧になりながらオレを見て叫ぶ。
「てめぇ、覚悟しやがれ〜!」
「ヤタよ、お主は創真に負けたんじゃ! 神妙に致せ」
タケじいが念話で八咫烏に話しかけた。
「えっ、その声は、もしや……主様ですか?」
「そうじゃ。久しいのう〜、ヤタよ!」
「主様は生きてらしたんですか?」
「違うぞ、ワシは子孫である創真の遺伝子の中におるんじゃ」
「そうなんで……えぇ〜!? この弱そうな若造の中ですかあ?」
「そうじゃ。相変わらず口が悪いのぉ〜」
「あ、主様〜、会いとうございました〜。ウウウ〜」
なぜか八咫烏はオレに抱きついて泣き始めたが、途中で泣き止み怪訝そうな顔をする。
「若造、おめぇ〜臭いぞ!」
「放っとけ!」
タケじいの説得もあり、八咫烏とオレは和解した。そして、一騎打ちの約束を守ると共に、鴉の紋が入った御守袋を渡された。
「おい若造、取っておけっ!」
このパターンは虹色魔石かぁぁ〜!?
オレが御守袋を受け取ると、八咫烏はメロン畑にいる全ての魔鳥を引き連れて、更に東へと去っていった。
オレ達パーティの魔鳥討伐はここで終了となった。
今日は魔鳥54匹。お金にすると金貨7枚。クエスト報酬が金貨10枚。合わせて金貨17枚の大戦果。
ちなみに、一人当りの報酬は、金貨3枚と銀貨3枚。残りは諸経費と宴会代になり、御守袋は創真が貰う事になった。
ファームガードのパーティはギルドに戻り、カレンの所で報酬と高級メロンを受け取ると、例の如く隣の酒場で宴会を始めた。
「カンパーイ!」
「今日はソーマが大活躍だったね〜!」
「ソーマ、オレの酒が飲めね〜のか〜?」
「ソーマ、素敵だったわ!」
「ソ、ソーマ……」
はいはい、何も言わないのね!
いつもの様に、美味い酒と肴、そして、とろける様な高級メロンを食べながら楽しい夜は更けていった。
今日はディーンの絡み酒を上手く交わし、ホロ酔い気分で和倉屋の露天風呂に入った。
「はぁぁぁ〜、生き返る〜!」
心も体もスッキリしたオレは、部屋に戻って御守袋を開ける。
すると、中から出てきたのは予想通りの虹色の魔石。
そして、付加能力は、な、なんと超レアスキル千里眼であった!
✒️✒️✒️
【八咫烏】
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