第33話 ミンミンの悲劇

 ネットの中は大混乱に陥っていた。


>>オイオイ、これはヤバいぞ!

>>誰か警察に電話しろっ!

>>警察には何て言えばいいんだ〜?

>>動画を見せればいいだろ〜

>>直接行かなきゃ無理だろ〜

>>何でもいいから連絡してくれよっ!

>>そう言うお前が連絡しろよ!

>>そうだ、みんなで電話しよう。数打ちゃ当たるかも?

>>…………


 その間も生配信は続いていた。


「ギギッ! ギヒッ! ギギャッ!」


 マネージャーがカメラを後ろに振り向けると、周りは凶悪顔のゴブリンに囲まれていた。

 次の瞬間、ゴブリンがマネージャーに襲いかかりカメラが地面に転がると、偶然にも画面の片隅にミンミンが映っていた。


 マネージャーが引き裂かれる姿を見て、ミンミンが悲鳴を上げる。


「キャァァ〜! 誰か助けてぇぇ〜!!」


 ゴブリン達は凶悪な笑みを浮かべて、ゆっくりとミンミンに近づいていく。


「イヤァァ〜、来ないでぇぇ〜!」


 そして数匹がミンミンを取り囲むと、鋭い爪で着ている服を切り裂いていった。


「やめてぇぇ〜、イヤァァァ〜!!」


 ゴブリン達はミンミンを裸にすると、次々と上に乗り腰を振り始める。

 1匹目が終ると2匹目が、2匹目が終ると3匹目が……


「 ヤメてぇ〜、ヒィッ、ヒィ、アッ、アアッ〜!」


 その後はゴブリンに抱えられ、小屋の中に姿を消してしまった。


>>…………

>>…………

>>…………


 視聴者達は衝撃的な映像にしばらく沈黙したが、我に返ると皆が警察に電話をかけ始めた。


 深夜の東京、警察所の電話が鳴り響く。また、直接警察へ出向き動画を見せる者も数多くいた。


 あまりの通報の多さに警察も事態を重く受け止め、動画が途切れてから1時間で警察が動いた。


 それから30分後、深夜の多摩湖に数十台のパトカーが集まり、100人の警察官が小屋を包囲していた。


 包囲している警察官には突入の指示が出ておらず、別の部隊の到着を待っている様であった。



☆☆☆☆☆☆☆



 そこから、ちょうど1時間前。


 防衛大臣から真壁室長に連絡が入った。


「真壁君、多摩湖にゴブリンが出たそうだ。早速だがGATを出動させてくれ給え!」


「了解しました。至急出動させます!」


 香織パパは一息つくと、息子の陸に電話を掛けた。


「父さん、こんな夜中にどうしました?」


「陸、多摩湖にゴブリンが出た。小屋に人質4人と立て籠もっている。それを警官隊100名が包囲している様だ。至急GATを派遣してくれ!」


「了解しました!」


 陸は近藤を叩き起こし出動命令を出した。


 GATの宿舎にサイレンが鳴り響き、30分後には格納庫の前に全員が整列していた。

 その中心に立つ真壁陸佐も、背中にGATの文字が刺繍された黒い戦闘服を着ている。

 

「真壁陸佐、GAT小隊9名全員揃いました!」


 近藤からの報告を受け、陸は隊員達に作戦を告げる。


「諸君、結成初日だが多摩湖にゴブリンが現れた。数は10から20だ。人質4人を取って小屋に潜んでいる。その周りを警官隊100名が包囲している状況だ。朝霞から多摩湖までは30分。被害が出る前に急ぐぞ。全員乗車!」


 高速機動1号車には真壁陸佐と近藤、2号車には土方が指揮する形で乗り込む。


「GAT隊出動だ!」


 陸が号令を発すると、高速機動車は多摩湖へ向けて発進した。


・・・・・・・


 ちょうどその頃。


 警官隊が包囲している小屋の中から1匹のゴブリンが外に出てきた。

 そして、ゆっくりと警官隊に近づいてくる。


「止まれぇ〜!」


 ゴブリンの正面にいた警官が動揺して発砲した。


 パンッ!


 銃弾はゴブリンに当たる寸前で止まり、ぽとりと地面に落ちる。

 ゴブリンはニヤリと笑みを浮かべると、更に近づいてくる。


 パンッ! パンッ! パパパンッ!


 危険を感じた他の警官も一斉に銃を発砲するが、全て何かに遮られゴブリンに当たる事は無かった。


 そして、ゴブリンは一気に距離を詰めると、目の前の警官の顔を鋭い爪で引き裂いた。警官は即死であった。

 それを見ていた警官隊は一斉に逃げ惑い、あっと言う間に包囲網は総崩れとなった。


 1匹のゴブリンは勝ち誇った顔をして、小屋の仲間を呼ぶ。


「ギギィ〜、ギギギ〜!」


 すると、小屋の中から15匹のゴブリンが姿を現し、一斉に警官隊を襲い始めた。


「うわぁ~、来るなあ〜!」


「ぎゃぁぁ〜! ぐぇぇぇ〜!」


「逃げろぉぉぉ〜!」


 ゴブリンの標的にされた警官隊は、次々とゴブリンに殺されていった。


 後方から見ていた警官隊の隊長は、あまりの想定外に何の指示も出せずに固まっている。

 補佐役の警察官が本部へ狂った様に救援を求めている。


 それから10分後、GAT隊にオペレーターから無線連絡が入った。


「GAT隊、急いで下さい! 警官隊がゴブリンの襲撃を受けて壊滅寸前です!」


「了解。あと5分で到着する。それまで耐えてくれ!」


 陸は前方に見える多摩湖の森を見つめながらGAT隊に指示を出す。


「GATの諸君、警官隊が襲われている。到着次第、戦闘開始だッ!」


 近藤が陸からマイクを受け取り作戦を告げる。


「近藤だ。突入のフォーメーションは打合せ通り、斎藤、永倉、藤堂は前衛。土方、原田は中衛。山南、沖田は後衛。井上は記録だ。分かったかあ!」


「了解!!」


 やがて、1号車の前方には大混乱に陥っている警官隊の姿が見えてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る