第32話 多摩湖の犠牲者
土曜日の夜9時。
「創真〜、夕食が出来たから起きなさ〜い」
オレは隠れ家でエビフライ定食を食べた後、疲れがたまり家で寝ていた。
「母さん、おはよう」
「おはよう、今日は創真の大好きなエビフライよ。店長が賞味期限切れ間近だからって、いっぱいくれたのよ。たくさん食べてね!」
「う、嬉しいなぁ〜」
また、エビフライだった。
美味しい夕食を腹一杯食べて、風呂から上がると午後の11時。異世界転移のタイムインターバルが解除されるまであと1時間。
オレは異世界用の装備に着替えながら、タケじいと今後の方針について話し合っていた。
「創真よ、お主のスマホが点滅しておるぞ」
「そんな事よりタケじい、多摩湖のゴブリンはどうしようか?」
「お主1人で行っても太刀打ちできんじゃろうし、剣も渡したばかりじゃ。体制が整うまで、もう少し時間が必要じゃろう」
「それじゃ〜、東雲さんの要望通り剣の調達に専念しようか?」
「ま、それが良いじゃろう」
直近の方針が決まった頃にはタイムインターバルが解除されており、転移を唱えて異世界の冒険へと旅立った。
この時、オレはスマホを見ておけば良かったと、後で後悔する事になる。
☆☆☆☆☆☆☆
創真が異世界へ旅立つちょうど1時間前。
慎吾は創真にラインを送っていた。
『創真、今夜12時にミンミンが久しぶりに生配信するらしいぞ。それがなんと、多摩湖でゴブリンを見つけろ企画だって!
この前、お前がネットの書き込みを見て目の色が変わってたから、一応知らせとこうと思ってさ。ラインを見れるか分からんけど、生配信のリンク先を貼り付けておきます』
「創真にラインを送ったし、時間までネットでも見ようかな」
ミンミンの配信チャンネルは久しぶりに賑わっていた。腐っても一度はユーチューバーとして名を馳せたミンミンである。
慎吾は暇つぶしに、チャンネルの書き込みを眺めた。
>>ミンミン、久しぶりの配信だね
>>ゴブリンコレクターを名乗ってたからな〜
>>あのゴブリングッズはどうなったんだ?
>>今じゃ誰も見向きもしね〜しな〜
>>今夜の生配信楽しみ〜
>>懲りずにゴブリン探検隊だってよ〜
>>ゴブリンは桜島だろ〜、多摩湖に居るわけないっしょ
>>まあ暇つぶしに観てやろうぜ!
同時刻、ミンミンとマネージャーは多摩湖で生配信の準備をしていた。
遠くには釣り人が悲鳴を聞いたという無人の管理小屋があり、古い街灯にうっすらと照らされている。
ミンミンは配信用の色っぽい服装に着替えて、車のミラーでメイクの最終確認をしている。
「ミンミンさん、本当にやるんですか?」
「当たり前でしょ! 予告もしたんだから後には退けないわっ!」
「わ、分かりました」
「私が前を探検風に歩くから、あなたは少し後ろから、どんな事があっても撮影するのよ!」
マネージャーはうなずくと一歩下がってカメラを構える。
「それじゃあ〜始めるわよ。カメラスタート!」
ミンミンの生配信が始まった。
「みなさ〜ん、こんばんは〜! ゴブリン探検隊のミンミンで〜す。今日は〜これから〜ネットに書き込みがあった多摩湖のゴブリンが〜本当にいるのかを〜確かめようと思いま〜す。みんな〜楽しみに待っててね〜!」
ミンミンが林の中の小路を進み、カメラがそれを追う。
しばらく行くと、ミンミンが後ろを振り向きカメラに向かって小さな声で囁く。
「みなさ〜ん、あそこに見える小屋が〜、ネットに書き込みがあった小屋で〜す。ゆ〜っくりと近づいてみましょう」
ミンミンはゆっくりと小屋に近づいていく。時たま後ろを振り向いては聞き耳を立てて、何も聞こえない事をアピールする。
「只今、小屋から10メートルの距離にきました。まだゴブリンの気配はしませ〜ん。本当にゴブリンはいるのでしょうか〜?」
ミンミンが更に近づき、小屋から5メートルの距離に来た時だった。
ガサッ。
小屋の中からかすかな物音が聞こえた。
「皆さん、今の聞こえましたか〜? 小屋から物音がしました。何かいるかも知れません。気を付けて進みましょう」
まるで現地レポーターのナレーションを聞いているかの様な人を惹きつける話し方だ。
ミンミンはゆっくりと進み、ついに小屋の側まで近づいた。
「皆さ〜ん、小屋の側まで来ましたが、あれから物音が聞こえません。さっきのは気のせいだったのでしょうか〜? あそこの窓から中を覗いて見ようと思いま〜す!」
ミンミンは窓の下まで来ると、そ〜っと頭を上げて中を覗いた。すると、そこには驚愕の映像が映し出された。
裸の女性3人が床に倒れている。
街灯を頼りに目を凝らすと、その内の1人のお腹がぷっくりと膨れており、微かに息をしている様だ。
ミンミンは一度しゃがみ込むと、カメラに向かって震えながら話す。
「み、皆さん、今の映像が見えましたか? 大変な事になっています。裸の女性が3人倒れています。視聴者のどなたか、直ぐに警察を呼んで下さ……」
「ギギィッ!」
話しの途中で、ミンミンの顔が恐怖で固まっていた。
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