第31話 鬼軍曹の訓練
「……承知しました真壁室長」
東雲はスマホで上司への報告を終えると、ノートパソコンを開き再び仕事を始めた。
・・・・・・・
ここは朝霞駐屯地、GAT室内訓練場。
近藤隊長の前には8人の隊員が整列しており、全員がGATの新たな黒い戦闘服で身を包み、腰には剣を帯刀している。
ヘルメットは付けておらず、左耳には小型マイクと一体になった無線機を装着し、首には細身の暗視ゴーグルが掛けられ服に固定されている。
体にプロテクターは一切無く、指の抜けた革手袋をはめ、右腰のフォルダーには拳銃が収まっている。
見るからに攻撃重視の戦闘装備だ。
「皆んな良く集まってくれた。我らの名はGAT小隊。いずれは中隊になると思うが、その初期メンバーがこの8名だ。これからGAT小隊の訓練を始める。沖田師範、前へ!」
沖田陸士が近藤の横に立つ。
「皆さん、この度は剣の指南役としてGAT隊に参加させて頂きました。試衛館と変わりなく皆さんを指導させて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します」
隊全員が顔を引きつらせている。
「それでは訓練を始めますわ。抜刀!」
近藤は沖田のいた位置へ移動する。ちなみにロングソードは沖田が持っている。
「皆さんの剣は、私のロングソードのレプリカです。重さは変わらないですが、あくまで練習用なので、出動の際は気を付けて下さいね。構えてっ!」
全員が中段に構えるが、日本刀とは重心が違うので剣先が下がっている者がいた。
「斎藤、剣が下がっているぞッ!」
「ハ、ハイ!」
S移籍の斎藤がたじたじである。
「この剣はロングソードだ。日本刀ではない。だから、体に馴染むまで素振り100回だぁ。斎藤から声出して10数えたら隣だ。始めぇぇッ!」
イチ、ニッ、サン、シッ〜……
沖田の指導、いやスパルタが始まった。
正面素振りが終ると左右袈裟斬り、胴斬り、小手斬り、突きの素振りをそれぞれ100セット。
1時間後に全ての素振りが終り、15分の休憩が与えられた。
水を飲む者、倒れている者、さすがの自衛隊員も疲れている。
「総子さん、相変わらず厳し過ぎだぜ」
「オレ、GAT辞めようかなあ〜」
「ワシは特別手当の為に我慢するぞ〜」
皆の思いはそれぞれだが、総子を恐れているのは共通の思いだった。
休憩が終ると訓練場の電気が消え、辺りが真っ暗になる。
「次は夜間を想定した訓練を始める。暗視ゴーグル装着。正面素振り100回。近藤から始めぇッ!」
イチ、ニッ、サン、シッ〜……
過酷な訓練はまだまだ続く。
・・・・・・・
今からちょうど20分前。東雲がGAT作戦棟にある真壁陸佐の執務室に、ロングソード8本を運び入れていた。
「真壁陸佐、ロングソードを持って参りました!」
真壁陸佐の執務机の前には東雲が敬礼をしており、後ろには2人の職員がそれぞれ4本の剣を抱えている。
「東雲君、ご苦労様。ちょうどGAT隊が訓練中なんだ。悪いが、そこまで運んでくれないか?」
「ハッ!」
真壁陸佐に従って3人が室内訓練場に入った時の事だった。
突然、照明が落ちて周りが真っ暗になった。そして、暗闇の中から総子の怒声が聞こえてくる。
「近藤〜、最後まで振り下ろせぇッ!」
「藤堂、原田〜、手抜きするなぁッ!」
「土方〜、一周遅れてるぞぉッ!」
陸は暗闇の中、訓練が終るまで、総子の怒声をただ呆然と聞いていた。
やがて照明が点くと、GAT隊全員が地面に倒れていた。
「や、やぁ総子さん」
「あらっ、真壁陸佐も練習に参加なさいますかぁ?」
陸が大きく首を左右に振ると、総子は小さく笑った。
「総子さん、近藤はどこですか?」
「あの〜、あちらに倒れていますけど、オホホホホ」
総子は頬を赤らめながら、訓練場の中央に倒れている隊員達を指差す。
「……」
総子さんは一体どんな訓練をしたんだあ?
陸は近藤の言葉を思い出し、一般人が自衛隊員をここまでへこませた事に関心する。
「総子さん、体力自慢の自衛官をここまで追い込むなんて……さすがです」
「いや〜ん。からかわないで下さいよ〜陸佐ぁ!」
総子の性格が少し分かった陸であった。
「総子さん、メンバー全員のロングソードが納品されたので持ってきたんですが、どうしましょうか?」
「嬉しいです。これでいつでも出動できますねっ!」
「そ、そうですね。よかった……」
ロングソード8本を総子に渡して、陸達は訓練場を後にした。
「はいは〜い、休憩は終わりですよ〜。真壁陸佐が本物のロングソードを持って来られました。皆さ〜ん本物に付け替えて、今度は走る訓練をしましょう。整列ッ!」
近藤を先頭に訓練場の端を10周、暗闇で10周をして、その日の訓練が終わった。
「次の訓練は月曜日からで〜す。皆さん明日は体を休めて下さいね。お疲れ様でした~!」
皆倒れている中、総子はロッカールームへと引き上げて行った。
「近藤さ〜ん、生きてますか〜?」
「藤堂か、何とか生きている。お前は大丈夫か?」
「ギリギリ生きてます。こんな訓練は入隊当時の鬼軍曹以来ですよ~。もっとも、あの頃は新人で体力がありませんでしたから、今思えば大した事無かったんだと思います」
「この訓練はS並だよ。なぁ永倉?」
「ああ、Sの訓練より厳しいかもしれん」
2人の特殊作戦群を、ここまで追込む鬼軍曹の総子であった。
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