第30話 剣術指南役 沖田総子

 ゴブリン討伐隊、通称GAT隊が結成され、現場指揮官の近藤隊長の元へ8人のメンバーが集った。


 メンバー全員が試衛館の門下生であり、近藤の勧誘に応じて自衛隊員の中から招集されたのだが、1人だけは民間から剣術指南役として招待されていた。


 彼女は沖田総子。高校教師にして試衛館の師範代。剣道高大女子チャンピオンの経歴を持つ剣の達人だ。

 ただ1つ性格に難を抱えており、普段はおしとやかだが、剣を持つと人格が体育会系女子へと変わり、ここに集まったメンバーは少なからず彼女の洗礼を受けていた。


 GAT隊には朝霞駐屯地の一角、今いる作戦会議室の建屋、隣の室内訓練場及び第3格納庫、そして200名を収容できる宿舎が割り当てられている。

 

 近藤が一通りの説明を終えると、数名の事務方が壇上の隅に整列した。


「説明は以上だ。この後は事務方が貴官らを案内する。昼食後はロッカールームにある新装備に着替えて、一四〇〇に室内訓練場に集合だ。解散!」


 各隊員が事務方について会議室を出ていくのを見て、陸が近藤を問い詰める。


「近藤、なんで総子さんがここにいるんだ?」


「先輩は民間人の勧誘も許可されました。私は上官の命令に従っただけであります!」


 近藤はニヤけ顔で返答した。


「……もういい。それで真面目な話、なんで総子さんを招待したんだ?」


「総子さんは、この部隊に必要な人材だと思ったからであります。この部隊はいずれ200人に達しますが、皆が剣術に優れているとは限りません。部隊の質を維持する為には、優れた実践剣の指導者が必要なのであります」


「しかし、こんな危険な仕事を彼女がよく承諾したなぁ〜?」


 近藤は視線を外し、遠くを見つめて答える。


「総子さんは、ちょっと変わってまして……剣が好きというか、実践がしたいというか……まあ見てれば分かりますよ」


「まったく……」


「それと総子さんには、SATの装備の改良に力を貸して頂きました」


「了解した。それで今日集まった8人は使い物になるのか?」


「はい、その点はご心配なく。試衛館の中でも選りすぐりの8人を集めました。いずれ彼らには小隊を任せようと思っております」


「そ、そうか……とにかく、まずは今の8人を小隊として機能する様にしてくれ」


「ハッ!」


 陸は鋼の剣を近藤に渡して会議室を後にした。



☆☆☆☆☆☆☆



 異世界長期滞在5日目。


 チュン、チュン……


 オレは宿屋のベッドで気持ちの良い朝を迎えていた。


 ようやく家に帰れる。母さんは元気にしてるかなぁ〜?


「創真よ、母親は元気だと思うぞ。なぜなら日本では半日しか経っとらんでな〜。カッカカカ!」


「分かってるよ。気持ちの問題だよ!」


 オレは宿の朝食を腹一杯食べると、チェックアウトをして武器屋へ向かった。


「いらっしゃ〜い!」


 武器屋の主人が愛想笑いを浮かべて擦り寄ってくる。


「ご主人、今日は鋼の剣を10本買いに来たんだけど、銀貨が2枚足りないんだ。何とかならないかなぁ〜?」


「え〜え〜良いですとも。大和様はお得意様ですから多少の足が出たとしても問題ございません。但し、お金が届いたら期待してますぞ〜」


 しめしめ、計画通りぃ!


「ご主人、ありがとう」


 オレは主人に礼を言って金貨4枚と銀貨8枚を渡して剣を抱えると、重大な問題に気付いてしまった。


 10本も持てないよぉぉ〜!


 武器屋の主人が笑いをこらえながら、オレにズタ袋を手渡す。


「よかったら、これを差し上げますよ。ククッ」


 このおやじ、笑ってやがる。先日の仕返しかあ〜?


 オレはズタ袋を受取ると、鋼の剣を10本入れて持ち上げようとする。しかし、重過ぎて持ち上がらない。

 一本抜き、二本抜くと、なんとか持ち上げる事ができた。


 またもや、武器屋の主人が笑いをこらえながら、オレに銀貨8枚を差し出す。


「大和さん、今日は8本にしときなさいよ。ククッ」


 顔を真っ赤にしたオレは、ぶっきらぼうに銀貨8枚を受取ると、そそくさと店を出た。


「ありがとうございました。またのお越しを〜!」


 したり顔で笑う店主を見て、次は値切ってやるからな〜と捨てゼリフを吐いて転移の丘へ向かった。


「創真よ、今回はしてやられたの〜。ククッ」


 タケじい、お前もかっ!


 北門を出ると丘までそう遠くは無い。しかし、登り坂で剣8本が入ったズタ袋はとにかく重い。


 10歩進んでは休憩をとり、ようやく丘の上に辿り着いた。


「ハァハァ、やっと着いたど〜!」


 オレはその場に倒れ込む。


 しばらくすると体力も回復し、転移を唱えて久しぶりの日本へ帰還した。


 日本、いや自分の部屋に帰還すると、土曜日のお昼12時。母親は仕事に出ており家には誰もいない。


 早速オレは東雲さんに連絡を取り、1時間後に喫茶『隠れ家』で会う事になった。

 

 鋼の剣、いや大和商店カタログではロングソード8本をゴルフバッグに詰め込むと、商売道具のバッグを片手に隠れ家へと向かう。


 隠れ家に到着すると東雲さんが奥の席で待っていた。


「ご無沙汰してます」


「大和様、なんだかお疲れの様ですね?」


「まぁ色々ありまして」


 オレが席に座ると、早速、秘密の取引きが始まった。


「例の物を確認してもよろしいでしょうか?」


 テーブルの上にロングソード8本を並べると、東雲さんは一本一本鞘から剣を抜き確認をしていった。


「見事なロングソードです。確かに8本受け取りました」


 それから東雲さんが電話をかけると、外からスーツ姿の男が2人入ってくる。そして、テーブル上の剣を布で包み外へ運んで行った。

 

「2人は防衛省の職員ですので心配には及びません。それで請求書は書いてこられましたか?」


「……まだです」


「ふぅ〜」


 東雲さんはため息をつき、もう一度、優しく丁寧に伝票の書き方を教えてくれた。


「はい確かに、8本✕50万円=400万円、振込みは月曜日になります」


「あ、ありがとうございます!」


 一通りの取引きが終わりアイスコーヒーを飲んでいると、東雲さんが焦り顔で尋ねてくる。


「それで、次の納品はいつ頃になりますか?」


「そんなに急いでいるんですか?」


「はい、桜島のゴブリンの数が予想以上に増えています。猶予期間を2ヶ月とみていましたが1ヶ月に縮まりそうです。特殊部隊の訓練も必要です。大和様、どうか一刻も早く武器を調達して下さい!」


「が、がんばります!」


 東雲さんが喫茶店を出て行く際に、ここで昼食を取っていくように言われ、オレは防衛省のツケで有り難くエビフライ定食を頂いたのだった。



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