第29話 GAT隊結成

 異世界長期滞在4日目。


 チュン、チュン……


「う〜ん、うっ!?」


 いつもの爽やかな目覚め……では無かった。


「気持ち悪い。頭がガンガンする。み、水が欲しい……」


 オレは二日酔いだった。


 部屋に備え付けの水を飲み干し、またベッドに潜る。朝食のノックが鳴るが、とても食べる気がしない。そのまま二度寝して、目が覚めると夕方になっていた。


「う、う〜ん」 


 だいぶ体が楽になったが、外に出る気にはなれない。

 アイズウィンドウが点滅しており、レベルが上がっているのだろうが、見る気にもなれない。

 二日酔いがこれ程とは、想像以上に辛いものであった。


 とりあえず、露天風呂に浸かって目を覚まそう!


 オレは露天風呂へ向かった。夕方なので他の客は誰もおらず、1人ゆっくりお湯に浸かる。


 「ああ〜、気持ちいい!」


 お風呂のお陰で目が覚めると、視界の隅でずっと点滅しているアイズウィンドウを見る気になった。

 オレはお湯に浸かりながら唱えた。


「オープン!」


 今では慣れたもので掛け声が省略形になっている。


 視界にステータスが表示されると、レベルが2つも上がっていた。


大和創真 Lv8 ジョブ 商人

魔法障壁 Lv1

スキル

1.英雄遺伝子

2.異世界転移

3.交渉術

4.短剣術

5.剣術  必殺技:連撃、切払い、後の先

6.念話術

7.飲酒

8.大食い


 必殺技に「後の先」が出てきたのは分かる。しかし、何だこのスキルは?


 飲酒と大食いってスキルなのかぁ〜?


「創真よ、飲酒は程々になっ!」


「はいはい、今後は二日酔いになる程には飲みませんよっ」


「うむ、気を付ける事じゃ。ところで、ついに目標のレベルに到達したようじゃな?」


「ああ、レベルは8。お金は金貨5枚と言いたい所だけど、今日の宿代で金貨4枚と銀貨8枚なんだよなぁ〜。交渉すれば鋼の剣を10本買える自身はあるんだが……」


「よかろう、冒険の目的は達成という事で、さっそく武器屋へ出発じゃ!」


 グゥゥ~……


 オレの腹の音だ。朝から何も食べておらず、もうすぐ夕食の時間だ。武器より団子という事で、武器屋へ行くのは明日になった。


 夕食のバイキングでは大食いのスキルを発揮?し、テーブルの料理を片っ端から平らげ宿の食事係をドギマギさせた。

 さすがにお酒を飲むのは止めにした。


 夕食後にはすっかり体調も良くなり、明日は武器屋で鋼の剣を10本購入する事にして、今日はゆったりした夜を過ごす。


 部屋の窓から夜の大通りを眺めると、宿屋以外にも居酒屋やレストランなどが軒を連ねている。通りを歩く人達も、千鳥足の酔っぱらいや、楽しそうにガヤガヤ騒ぐグループで結構賑わっている。


 夜の街をしばらく眺めてからベッドで横になると、外の喧騒を子守唄にしてオレは眠りに落ちていった。



☆☆☆☆☆☆☆



 創真が眠りについた頃、日本時間では土曜日の午前10時。


 東京朝霞駐屯地の作戦会議室に、近藤陸尉以下8名の自衛隊員が招集されていた。


 壇上のテーブルには近藤が座り、もう片方の空席の人物を待っている。

 段下には2人掛けの長テーブルが左右に並べられ、前2列に集められたメンバー8名が座っている。


 前列右端にはメガネをかけたインテリ風の男が、タブレットを触りながら何かを調べている。彼の名は土方陸尉29歳。近藤の同級生で情報部からの移籍だ。

 その隣には目つきの悪い斎藤陸尉32歳。彼は特殊作戦群『S』からの移籍。

 前列左端には歴戦の猛者を思わせる風貌の永倉陸尉33歳。同じく『S』からの移籍。

 その隣には優しそうな顔の山南陸尉30歳。女軍医だ。


 後列には温厚な顔の井上陸曹35歳。後方支援部隊武器科からの移籍。

 その隣は血気盛んな藤堂陸士26歳と原田陸士25歳。共に東部方面軍陸戦部隊からの移籍だ。

 最後は沖田陸士26歳。民間からの移籍で1人だけ一般人の服装をしている。


「全員、起立! 敬礼!」


 近藤が号令をかけると、入口から真壁陸佐が入ってきた。

 陸はメンバーを見回すと、沖田陸士に目が止まり驚きをあらわにする。


「ふ、総子さん? なんでここにぃぃ〜?」


 総子も驚いた顔をしてつぶやく。


「真壁さん? 自衛隊の偉い人だったのぉ〜?!」


 近藤が気を利かせて皆を座らせると、説明を始めた。


「本日集まってもらったメンバーは、桜島に巣食うゴブリンを駆逐する為の対ゴブリン特殊部隊である。

 部隊は200人規模の中隊を予定しているが、まずは私の知己で8名を選出させてもらった。

 8名の中には民間人が1名入っているが、この部隊の剣術指南として来てもらった。粗相のないように気を付けて欲しい。今後の事は真壁陸佐から直接話して頂く」


 近藤が陸に話を振った。


「私はこの部隊の指揮官を務める真壁陸佐だ。この部隊はゴブリンを討伐する為の特殊部隊。そして、武器は銃ではなく、この剣を使う!」


 陸は鞘から鋼の剣を抜いて皆に見せた。


「今の所、ゴブリンを倒せる武器はこの剣だけだ。まだ1本しかないが近い内に皆の分が揃う手はずだ。

 最後にこの部隊の名前だが、ゴブリン討伐隊(Goblin Attack Team)通称『GAT』と決まった。諸君らの働きに期待する!」


 陸の話が終わると質疑が始まり、近藤が丁寧に答えている。

 その間、陸と総子は不思議な再会の驚きを隠せず、互いを見つめ合っていた。




✒️✒️✒️

【近藤陸尉のイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/617FDLxg

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