第28話 打ち上げ

 ツチノコ三連星はエリンによって呆気なく倒されてしまった。

 残りのマモシも、いつの間にか姿を消していた。

 オレのパーティデビュー戦は、ここで終わりとなった。


 今日の討伐はマモシ120匹とツチノコ3匹。かなりの大戦果である。


 ギルドで換金すると、マモシが銀貨72枚、ツチノコが金貨3枚、クエストが金貨7枚、合わせて金貨17枚と銀貨2枚の大儲けだ!


 1人頭の報酬は金貨3枚と銀貨2枚。そして、諸経費を引いた残りの金貨1枚で打ち上げをする事になった。


「キャロル、大儲けじゃないか!」


「ソーマのお陰だよ」


「これから打ち上げかい?」


「ああ、ソーマの勧誘も兼ねてね!」


 キャロルとカレンが親子の会話をしながら、他のメンバーに隣の酒場へ連れられて行く創真を眺めている。


「あっそうそう、クエストの報酬を忘れる所だったよ。ピエールさんとこの高級ワインだよ。打ち上げで飲むと良いさ」


 キャロルは高級ワインを片手に酒場へと向かった。


 初めて入る酒場。いつもギルドから遠目に見ていた酒場。みんな楽しそうに飲み食いしている様子を羨ましく思っていた。

 ついに酒場へ足を踏み入れたオレはワクワクしていた。


「さあ〜みんなぁ、宴会だよ〜! 報酬もたんまり入ったし、好きな物を頼みなっ!」


「よっしゃぁ〜! 上等な肉と酒だあ〜! どんどん持ってこいや〜!」


 ディーンがウエイトレスに注文をしている。


「お、おれは焼き魚が欲しい」


「私はピザが食べたい!」


 皆、凄い勢いで注文を続ける。


「ソーマは何が欲しい?」


 エリンが上目遣いで聞いてきた。


 ドキッ!


 オレは恥ずかしくなって、壁に掛けてあるメニューへ視線を移すと、オレンジジュースが目に止まる。


「じゃあ、オレンジジュースで」


「ソーマ、男なら酒だろぅ〜! エールを持ってこ〜い!」


 ディーンにオレンジジュースを却下され、エールビールに強制変換されてしまった。


 オレはまだ高校生なんだけど……


 テーブルの上には、様々な料理が並べられ、メンバー全員の前にはギンギンに冷えたエールビールが2杯づつ置かれている。


「それじゃあ、今日のクエスト達成に〜乾杯!」


「カンパーイ!!」


 キャロルの乾杯の音頭で宴会が始まった。


 オレは初めてのお酒に躊躇して、ちびりちびり飲んでいると、ディーンが絡んでくる。


「おいソーマ、エールの飲み方はこうするんだぁっ!」


 ディーンは木のジョッキを口につけると一気に飲み干した。


「エールおかわりぃぃ〜!」


 ディーンは既に2杯とも飲み干したらしい。


「酔っぱらいは放っといて、今日はソーマがいてくれて助かったよ、ありがとう」


「わ、私も、助けてくれてありがとう」


 ポッ!


「いやぁ〜、たまたまです」


 オレは女性陣の感謝に照れて、エールを一気に飲み干した。


「おっ、ソーマ、いい飲みっぷりじゃないかぁ! 料理も沢山あるからどんどん食べな!」


 オレだけでなく、メンバー全員が腹を空かせていたのか、料理の争奪戦が始まった。オレも負けじと料理をほおばる。


「ところで、ソーマは異国からの旅の途中って言ってたよね? この街にはいつまでいるんだい?」


 どう答えようか? しばらくは鋼の剣を集めなきゃいけないし……


「お金が貯まるまで、しばらくいるつもりです」


 キャロルがニッコリ微笑んだ。


「そしたら、うちのパーティに入らないかい? 経験も積めるだろうし、旅立つ時まででいいからさぁ〜」


 オレは考えていた。スライムやアルミラージは運が良かっただけだ。数の多い魔物、レベルの高い魔物、1人での魔物討伐は、いずれ限界が来るだろう。


「タケじい、どう思う?」


「良いと思うぞ。レベルの高い魔物と戦えるし、何より剣以外の武器や魔法を間近で見る事ができる。この先はゴブリン以外の魔物も日本に出て来るかもしれんでのう」


「えっ、そうなのか?」


「必ず、槍や弓、魔法が必要になってくるじゃろう」


 オレはタケじいのアドバイスでパーティに入る事にした。


「キャロルさん、よろしくお願いします」


 そう言って握手を交わすと、キャロルにその腕を引っ張られ、豊満な胸がオレの肩に当たっているのを気にする事なく、深々と肩を組まれた。


「みんなぁ〜、今日からソーマもパーティのメンバーだ。仲良くしてやってくれ〜!」


 それからは、飲めや騒げやで閉店まで宴会が続いた。

 

「ウップ……もうろめません」


「ソーマ〜、ダラしね〜ぞ〜、男なら酒の10杯や20杯はへ〜ひでのぺないと、タメラゾー!」


 ディーンの絡み酒のお陰で、オレはエールを4杯と高級ワインを飲まされて、ろれつが回らなくなっていた。


 ちなみに、高級ワインは高級な味だったそうだ。オレには分からなかったけど……


「お客さん、もう12時、閉店だよ。さっさと出てっておくれっ!」


 オレ達は酒場を追い出され、ギルドの前で解散となった。


 今後の予定については、ギルドの伝言板でメンバーと連絡を取り合っているらしく、毎日チェックする様に言い渡された。


 皆と別れてから、千鳥足で和倉屋にたどり着きチェックインを済ませると、露天風呂に入る事なくベッドに倒れ込み、そのまま眠りに落ちてしまった。

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