第27話 ツチノコ三連星
ここまでマモシの討伐数は15匹。オレは1匹も仕留める事が出来ずに、ファームガードの見事な連携を傍観していた。
左はエリンのファイアボールでマモシを枝から落とし、落ちた所をキャロルが仕留める。
対して右はロイドの矢でマモシを落とすが、ディーンがたまに後ろへ逸らす。
そこでオレの出番なのだが、毒が怖くて躊躇する。後ろに逸らしたマモシをロイドが短剣で仕留めるという悪循環に陥っていた。
どう見ても足を引っ張っているのはオレだ。
なんとかしないと……
オレは念話でタケじいに助けを求めた。
「タケじい、どうすればいい?」
「創真よ、これはレベルうんぬんではない。お主の心の弱さが表に出てきておる。そんなに毒が怖いか?」
「そ、そりゃあ怖いさ」
「人型の魔物はもっと怖いぞ。その怖さを吹っ切らぬと、これから先へは進めんぞ!」
タケじいの言っている事、頭では理解できる。だけど怖いものは怖いんだ!
「創真よ、キャロルの動きを観察してみよ」
タケじいの言葉に従い、オレはキャロルを観察する。
キャロルはDランクだけあって動きが機敏だ。しかし、タケじいが言っている事とは違うと思う。もっと深い何かがあるはずだ。
更に目を凝らす。マモシが動き出す前に、キャロルが踏み込む。そして首をはねる。その次も、その次も。
オレは気付いた。斬り込むタイミングが全て同じという事を。
「創真よ、全ての生き物は動作をする前に溜めが生じるのじゃ。溜めとは隙なりと言うてな、どんな連続の動きにも溜めはある。そこを狙って斬り込むのが奥義『後の先』じゃ!」
後の先……
相手の動きに合わせて動く事だと思っていたが、本当の意味は動く前に動く事の様だ。
ちょうどディーンをすり抜けて、マモシが近づいてくる。
体をくねらせながらオレの近くまで来ると、一瞬動きを止めて飛び掛かる体勢を取る。
ここだぁッ!
オレは瞬歩で間合いを詰めると、風の剣を小さく振り抜き、マモシの鎌首を切り落とした。
「見事じゃ!」
タケじいに褒められた。後の先、まだ習得には至らないがコツは掴めたと思う。
それから、オレの動きは見違える様に変わり、お昼になる頃にはディーンの取りこぼしや、たまに来るキャロルの取りこぼしを、全てオレの方で仕留められる様になっていた。
「そろそろお昼にしよう!」
キャロルの号令で、ぶどう畑から出て昼食となった。
広い農道の脇に、エリンが良い匂いのする籠から、肉や野菜を挟んだロールサンドを取出して敷物の上に並べていく。
「皆んなぁ〜、お昼の準備が出来たわよ~!」
「おお~エリン、今日も美味そうな弁当じゃね〜か!」
「エリンの弁当、旨い!」
「エリン、いつもありがとう!」
皆それぞれに、エリンに礼を言って昼食を食べ始める。
「ソーマもこっちに来て食べてぇ〜!」
エリンが手招きしている。
「えっ、オレの分もあるの?」
「当たり前じゃない! ちゃんと5人分を作ったんだからぁ〜」
エリン、なんて良い子なんだぁ〜!
オレも一緒に座り、エリンのロールサンドを食べると、いつもの携帯食とは違い本当に美味しい。
それに、この数日はずっと1人飯。仲間と話をしながら食べる昼食は格別だった。
「ソーマ、途中から動きが良くなったね〜。何か掴んだのかい?」
キャロルがニコニコして聞いてくる。
「ディーン、ポロポロ後ろにこぼす。ソーマ数こなして腕上がる!」
ロイドがつたない片言で答えた。
「なるほどね〜、ディーンが下手くそだからソーマが腕を上げた訳だね〜」
「な、何だよ〜。オレはソーマの為と思って、わざと後ろに逸したんだよ!」
「ハハハハ〜」
皆んなの笑い声が飛び交う楽しい昼食だった。
「さてと、エリン。今の段階で魔石はいくつ集まった?」
「え〜と、60個です」
「うん、良いペースだね。午後もこの調子でいくよっ!」
午後からは更に奥の方へと進んだ。奥の方はマモシの数も増えていき、数に比例してみんなの疲労も増えていく。
皆に疲れが見え始めた頃、前方から3匹の太ったヘビがズリズリと近づいてきた。
「何だコレ〜?」
「創真よ、コヤツらはツチノコじゃ!」
「ツチノコって本当にいたんだ〜!?」
マモシより一回り大きいのだが、頭と体にくびれが無い。ずんぐりむっくりの体型に、思わず笑ってしまう。
「ど、どうやらマモシのボスの様……だアハハハハッ!」
ディーンが最後まで喋れずに吹き出している。
その時、オレの頭の中に直接声が聞こえた。
「何がおかしい人間ども。儂らの毒の餌食にしてくれるわあ〜! 行くぞっ、ジェットストリームアタ〜ック!!」
すると、横一列だった3匹が縦一列になり、オレ達に飛び掛かってきた。
一列目のツチノコは下段ジャンプで突進するがキャロルが防ぐ。2列目が中段ジャンプで突進するがディーンが防ぐ。しかし、3列目が2メートルを超える大ジャンプでオレ達の頭上からエリンに襲いかかった。
「キャァァ〜〜!!」
エリンの悲鳴が上がり、誰もが間に合わないと思った時、ここぞとばかりに虹色魔石の力を借りて、オレは大ジャンプをかました。
ガッキィ〜ン!!
エリンの頭上で、3列目のツチノコのキバをオレの剣が防いだ。
その後、それぞれが切り結びお互いに距離を取る。
そして、またツチノコの声がした。
「マモシとは違うのだよ、マモシとはぁ!」
どこかで聞いた事のあるセリフ……
ツチノコ三連星は再び縦一列になったその時、エリンが魔法を放った。
「お返しよッ、ファイア・アロー!」
エリンから放たれた炎の矢は、一列に並んだツチノコ三連星を串刺し、いや串焼きにして呆気なく倒してしまった。
「やりぃっ〜!♡」
エリンは勝利のVサインを出してウインクをしていた。
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