第24話 ボスうさぎ現る

 異世界長期滞在2日目。


 今日の目的地は昨日と同じ人参畑。青空の下、金色の麦畑を1時間歩いて人参畑に到着する。


 今日の作戦は、身に付けている無駄な物を取り払い、身軽になって忍び寄る。いわゆるスピード重視の忍者作戦だ。


 えっ、意味が分からない?


 要するに、アルミラージより速く動くって事だよ!


 辺りを見回すと、オレが畑に入ったにも関わらず、至る所で人参の葉がゆれている。相変わらず舐められている様だ。


 オレは近くで人参を食べているアルミラージに狙いを定め、瞬歩で距離を縮め小さく振り抜いた。


 ザシュッ!


 2撃目を繰り出す必要も無く1撃で仕留める。


「どうだ白うさぎ、昨日のオレとは違うのだよ。昨日のオレとはっ!」


 地面に倒れているアルミラージに向かって、オレは勝ち誇った。


 自分で言っといてなんだが、昨日よりも体が軽くて剣の振りも滑らだ。


「タケじい、あまり手応えが無いんだけど、レベルが上がったからなのか?」


「創真よ、レベルが上がったから強くなったのではないぞ。剣術スキルを獲得したから強くなったのじゃ!」


「結果的にレベルが上がったから強くなったんだよな?」


「卵が先か鶏が先かの話しになってしまうが、まぁどっちでもええじゃろ、カッカカカ!」


 さ〜て、コツは掴んだし昨日のリベンジといこうかぁ!


 オレは近くにいる白うさぎ、いやアルミラージを次々と狩り始めた。

 面白い様に剣がヒットする。1撃で仕留められない物も2撃目で確実に仕留める。


「ハァハァ、これで10匹目ッ!」


「創真よ、そろそろお昼じゃ。休憩も必要じゃぞい」


 タケじいに言われてお昼にする。農道に座って携帯食を食べながら畑を眺めていると、葉の揺れがあまり減ってない事に気付く。


 いったい何匹いるんだよぉ〜?


 すると、一区画向こうの葉の影に、体を隠しきれない程ぶくぶくに太った大きなアルミラージを発見した。


 もしかすると、この群れのボスではないだろうか?


 オレは昼食を食べ終えると、ボスのいる区画へと向かった。


 そろりそろりとボス兎に近付き、5メートルまで迫った時、突然ボスうさぎが奇声を上げた。


 キュ〜! キュゥゥ〜!!


 すると、今まで無関心に人参を食べていた白兎達が一斉にオレを睨みつける。


 嫌な予感がして一歩引いた時だった。その中の1匹が角を前に出して飛びかかってくる!

 オレは体を捻って白兎の角突進を交わしたが、続いて2匹目の角突進がぁぁぁっ!


 ダメだ、間に合わないっ!


 オレは角に剣を合わせた。


 ガキ〜ンッ!


 すると、2匹目の白兎は剣に弾かれて転がった。再び立ち上がろうとするが、足がもつれて立ち上がれない。どうやら脳震盪を起こしている様だ。


 今だぁぁぁ! バシュッ!


 白うさぎが魔石に変わった。


「どうやら角が弱点のようじゃな!」


 角が弱点なのかぁ? 武器が弱点っていったい……


 キキュ〜! キキュ〜! キキュ〜!!


 ボス兎が狂った様に奇声を上げると、静観していた残りの白兎達が、一斉に角突進で襲いかかってきた。


 オレは次々と飛んでくる角に剣を合わせる。まるで追い込まれたバッターがボール球をカットするかの様に。


 ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!!


 続いて、地面でふらついている兎達にとどめを刺して回る。


 そうして、残ったのはボス兎だけとなった。


 オレは瞬歩でボス兎に近付くと、角にめがけて剣を振り下ろした。


 ガキ〜ンッ!


 キュゥゥ〜〜〜。


 ボス兎は倒れて痙攣を起こした。


 とどめだっ!


 剣を大きく振りかぶった時、オレの頭の中にボス兎の声が聞こえてきた。


「ひぃぃ~お助けを〜! 私はあなたのご先祖様と縁のある者なんですぅ〜!」


 んん?


「タケじい、今の聞こえたか?」


「ああ、うぬ? もしやっ? 創真よ、こやつを鑑定するのじゃ!」


 オレはボス兎を鑑定した。


因幡の白うさぎ Lv 10

魔法障壁 Lv1

スキル 交渉術  嫌いなもの:ワニザメ


 何だこれぇぇ〜!?


 ツッコミ所満載なんだが……


「タケじい、どうだ?」


「やはりのぅ〜、こんな所で出会うとは、不思議な縁じゃのう〜」


「もしかして、因幡の白うさぎって魔物だったのかぁ?」


「そうじゃ。ワシの孫に優しい男がおっての〜、ワシが日本に侵入してきた魔物を撤退させたんじゃが、1匹だけ逃げ遅れたヤツがこやつなんじゃ。

 ワシの孫はこやつの怪我を治して、異世界へ返してやったんじゃ。そして、その男がお主の先祖でもあるのじゃ!」


「へ、へえ〜」


「創真よ、これも何かの縁じゃ。今回は見逃してやれんもんかの〜?」


「どうしよっかな〜!」


 タケじいは見逃せと言っている。しかし、ただ見逃すのはもったいない。お互いウィンウィンの納め方はないものか?


「創真よ、ボスに言って全ての白兎に、ここから立ち去ってもらうのはどうじゃ?」


 おお~、名案が出ましたあ〜! 


 ここで効率の悪い狩りをしてもお金が貯まらない。一方で人参農家さんは作物被害が無くなって喜ぶ。うん、悪くないっ!


 オレは因幡の白うさぎに交渉を持ち掛けた。


「なあ因幡さん、このアルミラージの群れを連れて、別の土地へ行ってくれないかな〜。そしたら今回は見逃しても良いんだけど……どうかなぁ〜?」


「ええっ、そんな事でいいんですか〜?」


 因幡さんは納得してくれた。交渉成立だ!


 因幡さんと握手を交わすと、因幡さんが奇妙な声で踊り始める。


 キュ〜、キュ〜、キュゥ〜!!


 すると、100匹以上のアルミラージが因幡さんの元に集まってきた。


 うわぁ〜、こんなにいたんだぁ〜!?

 少し冷や汗が出てきた。


 再び因幡さんが奇声を上げると、アルミラージ達は人参畑から山へ向かって歩き始めた。


 別れ際に、因幡さんが兎の紋が入った御守袋をオレに差し出して言った。


「創真の旦那、どうかこれを受け取って下せい!」


 オレは、ありがたく兎の御守を頂戴したのだった。




✒️✒️✒️

【因幡の白兎】

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