第22話 異世界長期滞在
金曜日の夜。
今回の異世界転移は、金曜の夜から日曜の夜までの2日間。異世界日数では10日間の長期滞在で、目標はレベル8到達と鋼の剣10本の調達だ。
オレはアグルヒルの丘をイメージして異世界転移を唱えると、光のトンネルを抜けて丘の上に到着した。
まぁ2度目ともなれば慣れたものだ。
北の城門に着くと、前は気付かなかったが、門の上には時計があり、時間は前回の帰還時刻と同じ午前11時を指している。
偶然だろうか?
オレは腕時計を11時にセットして2回目の冒険を始めた。
まずは、西の小川へ向う。前回のメタルスライムで味をしめたのが理由だ。
北門から外回りで西の小川に辿り着くと、そこは冒険者であふれていた。
この人集りを見て唖然としているオレに、近くにいた冒険者が声をかけてくる。
「兄ちゃん、メタルスライムは見つかったかい?」
「今来た所ですが、どうしてこんなに冒険者がいるんですか?」
「なんだ、何も知らないで来たのかい。昨日の話だが、ここで駆出し冒険者がメタルスライムを見つけたんだと。その情報が今朝の掲示板に貼り出されてよ〜、皆んなここに来てるんだ!」
えっ、昨日?
「創真よ、どうやらお主の転移能力はワシとは少し違う様じゃ」
「どういう事だ?」
「ワシの転移能力は座標をセットするだけじゃが、お主の能力は時間もセット出来る様じゃ。
つまり、帰還した時間と場所を脳が記憶して、再び同じ時間で同じ場所に転移出来るという訳じゃ。
但し、日本に帰る時は時間が動いていたから座標しかセット出来ない様じゃが……まあ、片落ちスキルという事じゃな!」
片落ちって、タケじいよりも能力が上じゃね〜か!
オレは色々教えてくれた冒険者にお礼を言ってギルドへ向かった。
有象無象の中にいても、普通のスライムすら見つからないだろうし。
ギルドに着いたのは、ちょうど正午。
無一文のオレは隣のレストランには行けず、迷わず掲示板へ向かう。すると、予想通りマップの西の小川には、メタルスライムの付箋が貼られていた。
なるほど、冒険者達はこれを見たという訳だ。皆んな目聡いなぁ~と感心する余裕がオレにはある。
なぜなら、今回の冒険は時間がたっぷりあるからだ。
少し遠くても割高な魔物を狩ろうと、魔石価格表から手頃な魔物を探すと、ちょうど良いのが見つかった。
アルミラージLv5 銅貨50枚
「タケじい、これなんか良いんじゃない?」
「良いと思うぞ。風の剣の試し斬りにうってつけじゃ」
タケじいが言うには、アルミラージはウサギに角が生えた魔物で、動きはそれ程早くない。
しかし、跳躍力が高くて回避に優れ、時折くる角の攻撃には要注意という事だ。
マップで探すと、東門から少し行った所にアルミラージの付箋が貼られており、付箋の端にはクエストの赤いシールが付いていた。
「タケじい、アルミラージがクエストになってるよ!」
「ほほぉ〜、これは一石二鳥じゃな! クエストコーナーを見るぞえ」
クエストコーナーを見ると、アルミラージのクエスト依頼書が貼られていた。
「なになに、人参農家のエバンスさんからの依頼。うちの人参畑がアルミラージに荒されています。助けて下さい! クエスト達成条件はアルミラージ20匹以上で報酬は金貨1枚だって」
「これは切実じゃのう、助けてやりたいのう〜」
「そうだな!」
場所は東門から真っ直ぐ5キロ。そう遠くはない。
オレは依頼書をはがして受付へ持って行くと、昨日のメガネっ子の受付嬢が顔を出した。
「大和様、聞きましたよぉ〜。昨日メタルスライムをゲットしたんですってねぇ〜。やっぱり謎スキルのおかげですかねぇ〜。今度ゆっくりお話しでもしませんかぁ〜?」
あれっ、この子ってこういう子なんだ!?
「ハハハ、運が良かっただけですよぉ〜」
「またまたぁ〜、私は大和様は何かを持ってると睨んでるんですよ〜」
駄目だぁ〜この子、話が進みそうにないやっ!
オレはイラっとして、クエスト依頼書を彼女の目の前に掲げる。
「クエスト、受注したいんだけどっ!」
「あれっ、あたしったら、ごめんなさい。今すぐ受付しますね」
彼女は営業モードに戻ると、あっという間に受注が完了した。
「大和様、今回も頑張って下さいねぇ〜!」
オレは掴み所のない受付嬢を後にして東門へと向かった。
東門を出ると、西門と同じ様に田園風景が広がっており、アグルヒルは農業都市だと実感する。
東へ続く真っ直ぐな道を歩いていると、時々リアカーを引いた農夫とすれ違う。
道の周りは金色の穂を実らせた小麦畑が広がっており、まるで神の世界にでも来たような気分になる。
1時間ほど歩くと小麦畑が無くなり、代わって人参畑が現れる。
道の両側には果てしなく人参が植えられており、その中の1割程度が既に収穫されている様で、所々で土が顔を出している。
しかし、近づいて見ると、収穫したにしては乱雑で至る所に人参の葉が打ち捨てられ、噛じられた人参が散乱していた。
「これは、アルミラージの仕業じゃろうて。そろそろ遭遇するぞえ」
「おうっ!」
オレは風の剣を抜き、臨戦態勢を取る。
人参の葉丈はちょうど膝の辺り。アルミラージがいたとしても、葉が陰になって非常に見つけ難い。
オレは警戒しながら人参畑に入った。すると、すぐ近くで人参の葉が揺れた。
更に近付くと、今度は左側で葉が揺れた。そして、ここにも、あそこにも……
どうやら、この辺り一帯には多くのアルミラージが潜んでいる様だ。
しかし、姿が見えない。しかもバラバラに点在している。これを20匹とは効率が悪過ぎる。
ガサガサッ!
目の前に突然、とぼけ顔の白いアルミラージが飛び出してきた。
そして、オレを見ながら人参をかじり始める。
ガシガシ、ガシガシ……
コノヤロ〜、オレが怖くないのかあ〜?
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