第21話 ゴブリンの影

 翌日、学校で慎吾にスマホを見せた。

 

「創真君、なぜスマホを持っているのかなぁ?」


「え〜と、知り合いから貰ったんだ」


「そうかぁ、これで原始人から現代人に昇格できた訳だねぇ〜おめでとう! お〜い皆んなぁ、創真がスマホデビューしたぞぉ〜!」


 続々とクラスメイトが集まってくる。


「電話番号とメアド教えろっ!」


「LINE入ってね〜ぞっ!」


「Twitterもね〜わっ!」


「入れろ入れろっ!」


 男共のオモチャになっていた。


 学校が終わる頃には、高校生にとって必要最低限のアプリは、慎吾によって全てインストールされていた。


 ピロリ〜ン!


 慎吾が創真のスマホにクラスメイトのメアドを登録していると、銀行アプリの通知が届いた。


「創真、銀行から通知がきたぞ〜」


 慎吾からスマホを受取り、銀行アプリを開く。

 パスワードは確か〜Takejii1800だったよな、えぃ!

 

 通帳画面を開くと、入金200万円と表示されている。


 オレは現実を実感し手が震えていた。これで母さんに楽をさせてあげられる。これで大学進学ができる。これで香織と……嬉しくて自然と涙がこぼれた。


「創真〜、スマホを持てた事が、泣くほど嬉しかったんだなぁ〜。そうか、そうか!」


 慎吾はオレの肩をたたき、妙に納得している。いいヤツだ。


「ところで創真、この学校の近くで、またコブリンの目撃情報が出始めたのって知ってるか?」


「えっ! 本当か?」


 まさか、公園のコブリンの仲間か? 確かタケじいはコブリンを1匹見つけたら10匹いるって言ってたよな。


「慎吾、それはどこからの情報なんだ?」


「それはだなぁ……」


 慎吾はオレのスマホを手に取り、Twitterで#コブリン目撃で検索した。

 すると、コブリンの目撃情報がいくつも出てくる。


「創真、こうやって#(ハッシュタグ)で探すんだ。上が最新の情報で、下に行くと古い情報になってくんだ。見てみなっ!」


 オレは慎吾からスマホを受取ると、最新の情報から読み始めた。


>>夜の10時頃に多摩湖付近の道路で緑の生き物が集団で林の中へ駆けていくのを見ました。暗くてゴブリンかどうかは分からないけど……


>>オレのクラスの女子達が昨日西武園へ遊びに行くと言ってまだ帰って来ない。違う所へ行ったかも知れないけど……


>>多摩湖で朝釣りをしていたら、使われていない建物から女の悲鳴が聞こえた。犯罪の匂いがする。関わりたくないけど……


 ゴクリ……


 オレは幾つかのゴブリンを匂わせる内容に唾を飲んだ。そして、その情報のどれもが多摩湖周辺。つまりこの高校から、そう遠くない場所だ。


 タケじいの話によると、ゴブリンは人間の女を攫って子供を産ませる。その繁殖速度は人間の10倍。人間が1年で1人子供を産むとしたら、ゴブリンは1ヶ月で1人の速さだ。


「これはまずいのぉ〜」


 タケじいは、いつになく深刻な顔をしている。これは対策を練る必要があるな。


「すまん慎吾、急用を思い出した!」


 オレはカバンに荷物を詰め、急いで家に帰ると、自分の部屋でタケじいと対策を話し合った。


「なぁタケじい、ネットの情報はゴブリンだよな?」


「うむ、間違いないじゃろ」


「どうする?」


「情報を見る限り、今はそこまで増えてないと思うぞ。おそらく十数匹じゃ」


「討伐するか?」


「う〜む、お主のレベルではまだ無理じゃ。公園では運良く倒せたが、本来はゴブリンの方がレベルが高いのじゃ。ましてや十数匹となると、お主のレベルが同等でもスライムの様に数で負ける」


「じゃあ、どうすればいい?」


「1つ目は、お主のレベルアップじゃ。ゴブリンのレベルはおよそ10。せめてレベル8まで上げる必要があるのう」


 オレのレベルは2。最低でもあと6上げないと討伐出来ないのか……


「2つ目は、仲間を集める事じゃ」


「仲間? どうやって?」


「分からんか? お主は香織パパに剣を売っておろう。その剣は誰が使うんじゃ?」


「自衛隊員かな?」


「その通りじゃ。お主より数段鍛えられた戦士達じゃ。剣さえあれば互角に渡り合えると思うぞ」


 次の目標が決まった。なるべく早くレベルを上げ、なるべく早く剣を集める事。


 幸い明日は金曜日。放課後から日曜の夜まで2日間もある。


 今日はもう遅い、明日からが勝負だ!


 オレは新たなる決意を固めた。



☆☆☆☆☆☆☆



 その頃、ある人物がネットのゴブリン情報を見て唸っていた。


「あんたッ、どうして東京なんかにゴブリンを捨てたりするのッ。大変な事になってるじゃないッ!」


「すみませんミンミンさん。まさかゴブリンが増えるなんて知らなくて。だけど、ミンミンさんが適当に捨てろって……」


「言い訳はやめてッ! これからどうするかよ。それにしても、大金を注ぎ込んだのに、こんな事になるなんて。キィー!」


 ゴブリンコレクターのミンミンと、そのマネージャーの男が、事務所で激しい言い争いをしていた。


 ミンミンはゴブリンブームを先取りして、ある筋を使ってゴブリンの幼生を2匹捕獲させていたのだ。

 そして、色んなゴブリンとのツーショット動画をアップしようとしていた。

 ところが、ゴブリン襲撃事件が起きてしまい、怖くなって多摩湖へ捨てさせたのだった。


 おまけに、ゴブリンコレクターの名前が仇となり仕事が全てキャンセル。

 仕事がなくなったミンミンは焦っていた。


「こうなったら、多摩湖でゴブリンを発見したって動画を撮るわよッ!」


 マネージャーは渋々うなずいた。

 

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