第14話 試衛館

 創真が異世界へ旅だったちょうどその頃、真壁陸佐は執務室で自衛官のデータベースを検索して唸っていた。


「こんなもの、いくら見たって分かる訳がないじゃないか!」


 陸が探している人材は、実戦が出来る剣士だ。

 江戸時代ならいざ知らず、この現代において実戦経験がある剣士など皆無に等しい。データベースで剣道経験者は意外と多いものの、所詮はスポーツだ。


 普段から銃器に触れている自衛官だからこそ分かるスポーツと殺し合いの違い。どんなに成績が良くても、ある一線を超えられなければ使い物にならない。


 陸は古巣第1師団のある人物に電話をかけた。


 それから1時間後。


「真壁陸佐、お呼びでしょうか?」


 ここは真壁陸佐の執務室。陸が座っている机の向かいには、がっしりとした体格の大男が敬礼をしていた。


 彼は近藤陸尉、歳は陸の1つ下だ。防衛大学時代の後輩で陸を兄の様に慕っている。


「近藤、確かお前は剣道をしていたよな、実力はどんなもんなんだ?」


「ハッ、8段です。高校では全国大会でベスト8まで進みました!」


「凄いな。それで1つ相談なんだが、オレに剣道を教えてくれないか?」


「はい?」


 近藤陸尉は意味が分からず困惑していた。真壁陸佐が今更剣道なんて何を考えているんだぁ?


「申し訳ありません。意味が分からず混乱しておりました。お教えするのは構いませんが、いつがよろしいでしょうか?」


「できるだけ早くだ」


「それでしたら、私が通っている道場が今晩練習日ですが、一緒に行かれますか?」


「よろしく頼む」


 今日の仕事を終えた後、陸と近藤は夕飯を済ませて新宿にある道場の入口に来ていた。

 中を覗くと数十人の門下生が練習をしている。


 道場の名は試衛館。江戸時代から受け継がれている古武術の道場だ。


 近藤が館長と話をしている間に、陸は剣道着に着替えて練習に参加していた。しかし、さすがに素人の陸では素振りも満足に出来なかった……。


「あなた、剣道は初めてなの?」


 陸の姿にたまりかねて、門下生の女性が声をかけてきた。気が強そうな体育会系の美人。そして、腰垂には沖田と書いてある。


「はい」


 陸が気弱な返事をすると、その女性は溜息をついた。


「しょうがないわねぇ。私が手ほどきしてあげるわっ」


「はい、お願いします」


 女性の手ほどき、いやスパルタが始まった。


「姿勢が悪い! 腰が入ってない! 腕を伸ばせぇ! 足を上げるなぁぁ!!」


 ようやく基礎練習が終わると、次は防具を着けて自由稽古という練習試合が始まった。


 陸は仮にも自衛官だ。一般人よりは体力も筋力も遥かに優っている。ましてや相手は女。試合形式なら負けないと自負していた。


 しかし、その女性と対峙すると、剣の速さに全くついて行けず、反撃出来ぬまま、コテンパンにやられ倒されてしまった。


 前半の稽古が終わり、陸が防具を取って休んでいると、女性が近づいてきた。


「あなた、中々筋がいいわね。しごき甲斐がありそうよ。名前は?」


「真壁と言います。今日は稽古をつけて頂きありがとうございました」


「いいのよ、素人を見ると放おっておけないたちなの。私は沖田総子よ、よろしくね!」


 歩き去っていく女性を見つめて陸は思わずつぶやいた。


総子フサコさんかぁ〜」


「先輩、総子さんがどうかしましたか?」


 突然、近藤が現れた。


「い、いや、何でもない。ところでお前どこへ行ってたんだ?」


「すみません、ちょっと彼女から電話がかかってきまして……」


「まあいい。初心者は後半の稽古は見学なんだが、お前はどうするんだ?」


「はい、私も先輩と一緒に見学します」


 後半の稽古が始まった。


 前半の稽古とは違い、竹刀ではなく木刀や真剣を持って打ち合っている。素人の陸にも普通の剣道とは違うと分かった。


「先輩、この道場で教えているのは普通の剣道ではありません。実戦を目的とした天然理心流という剣術です。スポーツ剣道に飽きた者達が集まってきています。実は自衛隊員の門下生も結構いるんですよ」


「近藤、実はな……」


 陸は父からコブリン討伐の剣士中隊を作る命令を受けている事を明かした。


「先輩、何か訳ありって思ってましたが、そういう事ですかぁ!」

 

「それでな、剣道の分かるお前なら、強い剣士を集められると考えたんだ。まずは1個小隊50人の剣士を集めてもらいたい。そして最終的には1個中隊200人が必要になる。自衛隊には自由に引抜く許可を貰ってある。それに、外部からのリクルートもありだ。頼めるか?」


「先輩の頼みとあらば、喜んでお引受けします!」


 2人は握手を交わして道場を後にした。



☆☆☆☆☆☆☆



 一方、異世界の創真は迷子になっていた。


 武器屋の主人に冒険者ギルドの道を聞いたのだが、どこかで道を間違えたらしく、住宅街をさまよっている。


「タケじい、どっちへ行けばいいんだぁ?」


「ワシに分かる訳ないじゃろう!」


「使えねえじじいだなっ」


 半ば喧嘩しそうな雰囲気である。


 ちょうどその時、向こうから冒険者らしき服装の気が強そうなお姉さんが、こちらを見て歩いて来た。

 

「ちょっとアンタ、見かけない顔だね。こんな住宅街に何の用だい?」


「いえ、迷子になっちゃってぇ……」


 お姉さんはオレの格好をジロジロ見て言った。


「あんた、変わった格好してるね。それに目も黒い。異国人だね。それでどこに行きたいんだい?」


「冒険者ギルドです」


「アハハハ、そうかい。それならアタシと同じだね。連れてってやるよ。ついてきなッ!」


「あ、ありがとうございます!」


 オレはお姉さんの後について冒険者ギルドへ向かった。



✒️✒️✒️

【沖田総子さんのイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/GKxCrlD2


【真壁陸佐のイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/IwbTNwd6

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