第13話 農業の街アグルヒル

 ああ〜、ここが異世界かぁぁ〜!


「創真よ、時間がもったいない。行くぞ」


 タケじいに急かされて感動に浸る間もなく、オレは丘を下って城門の前に来ていた。


 城門の前には数人の列ができており、入口には2人の衛兵が立っている。

 しばらく待つと順番が回ってきたので、オレは衛兵に挨拶をした。


「こんにちは、ここは何ていう街なんですか?」


「おう、ここはアグルヒル、農業の街だ。変わった格好してるな兄ちゃん。旅芸人かい?」


「いえ、冒険者になりたくて遠い所からやってきました」


「どこから来たんだ?」


「日本です」


「ニホン? 聞いた事ないな~。おい相棒、ニホンって知ってるか?」


「どこかの村じゃねぇのか?」


「あんた、身分証はあるかい?」


「ないです」


「いいかぁ〜、身分証があれば色々聞かれなくて済むぞ。冒険者のギルドカードも身分証の代わりになるから、街に入ったら作ってもらいな。行っていいぞ!」


 オレは優しくて適当な衛兵に感謝をして城門をくぐると、そこには古くて、どこか懐かしさが漂う中世ヨーロッパ風の町並みが広がっていた。


 城門からは、広くて真っ直ぐな道が中央に向かって走っており、その両脇には色々なお店が立ち並らんでいる。

 各々の店は結構な人で賑わっており、ファンタジー感満載だ。


 オレは観光気分を味わいながら、各店舗を見て回る。

 八百屋と果物屋、それと肉屋が多い。他にはアクセサリー屋、薬屋、道具屋、定食屋と様々なお店がひしめき合っている。


 あるパン屋には長い行列ができており、小麦の香ばしい匂いを漂よわせている。どうやら今はこの世界のお昼時のようだ。

 ついさっき食べたばかりなのに、なんだかお腹が空いてきたオレは、列に並ぼうとしてタケじいに止めらる。


「お主、お金もっとらんじゃろ!」


 あぁそうだ、今のオレは無一文。早く冒険者ギルドへ行ってお金を稼がなければならない。


 気を引き締め直して少し歩くと、大道芸人がパフォーマンスをしている。

 ちょっとだけ見学しようと立ち止まり、またタケじいに止められる。


「お主、観光気分丸出しじゃな!」


「面目無いです。ところで冒険者ギルドはどこにあるんだ?」


「…………分からん」


「はぁ? タケじいは前に来た事あるんだろぉ〜」


「この世界には街がいくつもあるんじゃ、いちいち覚えとらんわい。それに1800年も経っとるから町並みも変わって……おらん?」


「どうしたの?」


「おかしいのぉ〜、ワシがこの世界に来た時は文明レベルがワシ達よりも上じゃった。

 それから1800年を経て、ワシ達の世界は発展したじゃろ? それなのに、この世界は昔来た時とあまり変わっとらんのじゃ!」


「だけど、転移出来たよな?」


「そうじゃ、現状から考えると時間が止まっとった事になるのぉ〜、もしくはゆっくり流れとるかじゃ」


「だけど、この世界の時間の流れは地球の5倍速く流れてるんだったよな?」


「そうじゃ、ワシの時はそうじゃった」


「まぁ、今更考えてもしょうがないさ。俺達は目的を果たそうじゃないか!」


「そうじゃな」


 前向きな創真に、今は浦島太郎の話をしない方が良いと思うタケじいであった。


 しばらく行くと武器屋が見えた。


「タケじい、武器屋だ。見てみよう」


 タケじいがうなずいたので、勇んで武器屋に入ると、大小様々な武器が陳列されていた。


 入口近くのテーブルには、何の変哲もない普通っぽい数種類の剣が十把一絡げに並べられ、奥のテーブルには派手な装飾の高そうな剣が一つ一つ丁寧に置いてある。


 おそらく、手前が安物、奥が高級品なのだろう。


 但し、共通点がひとつ。どの剣の柄にも魔石が埋め込まれている。


 オレは、手始めに安物の剣を手に取り素振りをしてみる。剣道で使う竹刀より少し短めの両刃の剣。ずっしりと重いが振れないレベルではない。


 実をいうと、オレは小学3年から剣道を習い始め中学時代は剣道部に入っていた。

 小学生の時に病気で死んだ父が、大和家の長男は剣道を嗜む事が家訓だとか言って、隣町の剣道場に連れていかれたのを覚えている。


 高校に入ってからは、少しでも家計を助ける為にバイト三昧で部活どころではなかったが、久しぶりに剣を振ってみると、案外体が覚えているようでスムーズに振る事が出来た。


 オレは安物の剣をテーブルに戻そうとして、立札の値段を見る。


 なになに、鋼の剣 バーゲンセール どれでも銀貨5枚。


 おいおい、短剣もあるのに一律価格かよ〜


「タケじい、銀貨5枚ってどれ位の価値なんだ?」


「うむ、この世界の貨幣は4つあってな、1番下が銅貨で1枚の価値は日本円にすると約100円じゃ。そして銅貨が100枚で銀貨1枚。つまり、銀貨1枚が日本円での1万円じゃ。銀貨が10枚で金貨1枚。日本円で10万円。金貨10枚でプラチナ金貨1枚。日本円で100万円となる訳じゃ」


「なるほどねぇ〜、銅貨だけ100枚単位で他は10枚単位って事だね」


「そうじゃ、創真はワシの子孫だけあって賢いのぉ〜」


 じじい、バカにしてるだろ。これぐらい誰だって分かるよっ!とは言わず、オレは苦笑いをした。


「時に創真よ、今回の任務は今お主が手にしとる銀貨5枚の剣を日本に持ち帰る事じゃ!」


 ああそうだ。これからオレはこの剣を買う為に銀貨5枚を稼がなければならないのだ。

 オレは決意を新たに、タケじいを見てうなずいた。

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