第10話 無駄兵器に金をかけるな!
河田防衛大臣と真壁室長は、総理官邸の応接室で総理の到着を待っていた。
総理と官房長官は、熱海で温泉を満喫しており、今日はゴルフの予定だったのだが、河田防衛大臣の緊急事態の連絡を受けて、総理官邸へ戻っている途中だった。
河田と真壁が応接室に通されてから1時間、ようやく岸本総理と官房長官が応接室に入ってきた。
「河田君、こんな日曜日に何事かね? せっかくのゴルフ日和が台無しじゃないか。明日では駄目だったのかな?」
岸本総理と河田防衛大臣は犬猿の仲で有名だった。
岸本は先の総裁選で人気の高い河田に負けそうになったのを、根回しを駆使して辛くも総理の座を手に入れた経緯があり、有能な河田を快く思っていない。
河田も無能な岸本が自分の上にいる事が気に食わない。
しかし、お互い政治家なので表面上は喧嘩しない程度の付き合い方をしていた。
「緊急事態です。桜島のゴブリンの数が異常な速さで増えている事が判明しました。すぐに対策を取る必要があり、総理の許可を頂きたく参上した次第です」
「確か桜島のゴブリンは数十匹だったと思うが、今はどれ位いるのかね?」
「はい、およそ500匹です。来月には2500匹、2ヶ月後には1万を超えると思われます」
「元々500匹が洞窟に隠れていたんじゃないんですか?」
太鼓持ちの官房長官が口を挟むが総理が制する。
「それで、許可を取りたいと言うのはどういった内容なのかね?」
「我々の武器では歯が立ちません。数を減らせない以上、このまま数が増えれば、いずれは鹿児島の街へ溢れ出してきます。そうなる前に桜島周辺を高さ20メートルの防壁で囲み、ゴブリンを桜島に封じ込めたいと考えています。いかかでしょうか?」
「予算は幾らだね?」
「概算ですが1兆円です」
「はあ? 防衛費に8兆円もかけているんだぞ。追加で1兆円なんてどこから出てくるんだ?」
「はい、アメリカから購入予定の兵器を一部キャンセルするだけで軽く1兆円を捻出できます」
「なっ、何をバカな事を……」
岸本総理の言葉が詰まったのを見て、官房長官が助け舟を出す。
「河田大臣、これはアメリカとの約束ですよ。契約書だってある。反故には出来ませんよ!」
「こ、国民の命より、アメリカとの約束が大事なんですかあぁっ?」
河田大臣のすぐに熱くなる悪い癖が出てしまった。そこを見逃す官房長官ではなかった。
「河田大臣、言葉を慎みたまえっ! 総理は元々少ない国防費をこの2年間で倍増させた方なのだよ。その大恩ある総理に対して裏がある様な言い方は慎んで頂きたいものですな!」
河田が劣勢と見るやいな岸本総理が畳み掛けた。
「防衛省が自由に裁量できる予算も増やしたはずです。確か100億円だったかな。それでゴブリンに対抗できる武器を調達したまえっ!」
「……」
河田大臣は一礼すると無言で退出した。真壁も後を追って退出した時に、総理と官房長官の勝ち誇ったニヤケ顔が見えた。
・・・・・・・
防衛省へ帰る車の中で河田が尋ねてきた。
「真壁君、どうしたらいい?」
いつも強気の大臣が、弱々しく投げやりになっている。
真壁も先程から別の方法を考えてはいるが、防壁がダメとなると打ち倒すしかないのだが、その手段がない。
いや待てよ、あるじゃないか!
「大臣、私にゴブリンを打ち倒す武器に心当りがあります。可能性は低いですが、ものは試しで予算を使ってもよろしいですか?」
「もう何でもいい。いくら必要だ?」
「そうですね、とりあえず1億です」
「よし、分かった。真壁にまかせる。1億と言わず10億用意しよう!」
ひょんな事から、真壁室長の裁量予算が10億円になった。
☆☆☆☆☆☆☆
月曜日の夜遅くの事だった。夕飯を食べて風呂に入りバイトで疲れた体を癒やしていると、アパートのチャイムが鳴った。
母が玄関ドアを開けると、外にはロマンスグレーの香織パパが立っている。
「こんばんわ、真壁と申します。先日はうちの娘を助けて頂き、本当にありがとうございました」
母は真壁と聞いて直ぐに気付いた。
「あら、真壁さんてあの、いや〜どうしましょう。先日は息子がお世話になってしまって、おまけに籠盛まで頂いちゃって、本当にありがとうございました。それで、今日は一体どうされました?」
「今日は創真君に話があって伺ったのですが、いらっしゃいますか?」
「ええ、おりますが、あの子何かしでかしました?」
「いえいえ、とんでもございません。立派な息子さんで感心しました。それで要件というのは、創真君に是非ともお願いしたい事がありまして……」
母は香織パパの表情に何かを察したらしくアパートの中へ招き入れた。そして狭い部屋には応接室などないので、食卓に座ってもらった。
「創真はお風呂に入ってますので、汚い所ですがお待ちになって下さい。今お茶を入れますね」
ちょうどその時、オレがお風呂から上がると、ロマンスグレーの香織パパが食卓に座っていた。
「やぁ創真君、おじゃましているよ!」
香織パパがふてぶてしく笑う。
「あの、その、何で真壁さんがここに?」
オレが目を白黒させていると母が言った。
「真壁さんが、どうしてもお話ししたい事があるんですって。今お茶を入れているからそこに座ってなさい」
対面の席に座ると、香織パパはオレを見てニコニコしていた。
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