第8話 真壁家の人達

 翌日、学校へ行くと昨日の不審者事件の話題で持ち切りだった。


「創真、昨日はお前と真壁さんに何があったんだ?」


「え〜と、ゴブリンに襲われたんだよ!」


「またまた〜、冗談かましてんじゃないよ。ゴブリンに襲われたら間違いなく死んでるから!」


 あ〜駄目だこりゃ、昨日の警察官と同じだ。香織の方を見ると、彼女も同じ様に質問責めにあっている。


 もう不審者でいいやと思い香織の席へ近づくと、「白馬の王子様が来たわ、私達は退散しましょ」とか言って、女子達は含み笑いを浮かべながら香織から離れて行った。


「香織、昨日の事件だけどゴブリンでは通じないよ。不審者で話を合わせないか?」


「うん、私も困ってたの。あのね創真君、昨日は助けてくれて本当にありがとう。それでね…父がね…私もなんだけど、お礼がしたいから私の家で夕食をね、今週の土曜の夜は空いてるかな?」


 言葉がちぐはぐだけど意味は通じている。香織は顔を赤らめて上目遣いでオレの答えを待っている。クラスのヤツらは興味津々で聞き耳を立てている。この状況で断われる訳ないじゃないか。


「香織、土曜の夜は空いてるよ」


「ほんとぉ〜? それじゃ午後6時に私の家に来てくれる? 住所と地図は後で渡すね!」


「分かった」


 オレが席に戻ると、静かに聞いていたクラスのヤツらが一斉に騒ぎ出し、1限目が始まるまで騒ぎが収まらなかった。



☆☆☆☆☆☆☆



 土曜日の夕刻。


 オレは母親から手土産を持たされ電車に乗った。真壁家は自宅の最寄り駅から2駅と案外近い。駅を降りて地図を見ながら真壁家を探す。

 今時、紙の地図で家を探しているのはオレくらいのものだろう……。


 しばらく歩くと門構えのしっかりした立派な邸宅が現れる。家の表札には真壁と書いてある。

 オレが門の前で躊躇していると、突然門が開き香織が出てきた。


「創真君、いらっしゃ〜い! 駅まで迎えに行こうか迷ったんだけど、その〜創真君携帯持ってないし、行き違いになったら困るし、無事に着いて良かったわぁ!」


「お、おお」


「さあ、入ってぇ〜!」


 香織がオレの手を取り門を潜る。広くて綺麗な庭は十分に手入れされており、その奥には立派な玄関が見える。


 玄関前に着くと、心臓の鼓動がドキドキ高鳴る。


 手土産は大丈夫か? 挨拶は何て言おうか? 


 お父さんこんにちは、イヤ違うな。


 つまらない物ですが、イヤイヤ。


 そもそもお父さんはマズいだろ。付き合ってる訳でもないのに。


 あぁタケじい、どうしたらいい?


「まったく、お主はくだらん事にワシを使うのぉ〜」


「ごめん」


「まぁ良い。普通に、こんにちは、おじゃまします。これは母からです。これで良いじゃろっ!」


 香織は、ぶつぶつ言っているオレを見てクスリと笑って話しかける。


「創真君、緊張する事ないよ。パパもママも優しいから大丈夫だよ」


 いやいや、それは香織には優しいだろうよ。まぁ結婚の挨拶をする訳でもないし気楽に行こう!

 オレは開き直って玄関の扉を開ける。


 ガラリッ!


「大和君、待ってたよ。さぁ〜中に入りなさい!」


 いきなり、交番で会ったロマンスグレーの香織パパが玄関で待っていた。


「ええェ〜、こ、これ母からです」


 ヤバい、挨拶のタイミングがなかったぞ。それに、自分が何を言ったのか覚えていない。


 心臓をバクバクさせながら、香織パパの後について行くと、長い廊下を過ぎて立派な応接室に通された。


「大和君、そこのソファーにかけてくれるかな」


「はい、失礼します」


 何やら面接の様な気分だが、香織が隣に座ってくれたので多少気分が落ち着いた。

 そこへ香織ママが紅茶を持って現れる。


「あらぁ〜、大和君かしら! 香織を助けてくださって本当にありがとうございます。それにしても素敵な男の子ね! もうすぐ夕食が出来るから、紅茶でも飲んでくつろいでて下さいね。あら香織、お料理を運ぶの手伝ってくれる〜?」


 香織ママの嵐の様な喋りの後に香織も去っていき、オレと香織パパだけが取り残されてしまった。

 

「さて大和君。改めてお礼を言いたい。娘を助けて頂き感謝している。本当にありがとう」


「いえ、たまたまです」


「ほぉ〜たまたまゴブリンを倒せる短剣を持っていたのかい?」


「えっ?!」


 香織パパの目が、獲物を狙う猛禽類の目に変わった様な気がした。

 オレは警戒しながら紅茶をすする。


 ヅヅッ……


「いやぁ〜すまない。職業柄ゴブリンに関する事は何でも知りたくてねぇ〜。私は自衛官なんだが、テレビで知っていると思うが、ゴブリンに銃火器が全く効かなくて困ってるんだよ。

 そこへ今回の騒動で、君が短剣でゴブリンを倒した事を娘から聞いたのだが……、それは本当かね?」


「……本当です」


 香織パパはニヤリと笑った。


「ほぉう〜それで、その短剣というのはどのような物なんだい?」


「大和家の家宝です。死んだ父から譲り受けました」


「出来れば一度見てみたいのだが……、どうかな?」


「実は……、ここに持ってます」


 オレはバッグから家宝の短剣を取り出して香織パパに渡した。

 香織パパは短剣を受け取り、いろんな角度から眺める。


「剣を抜いてもいいかな?」


「はい、どうぞ」


 香織パパは、もう一度両刃の剣を眺めると、柄の宝石に注目する。


「大和君、この宝石は何かな?」


「それは……」


 オレは魔石と答えようとして留まった。魔石と言っても、たぶん通じない。どう答えようか迷っていると、香織が呼びにきた。

 どうやら夕食の準備が出来たようだ。




✒️✒️✒️

【香織パパのイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/fqjui5hf

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